第26話 二学期の日常
魔物討伐実習から数日後。
学園には、いつもの日常が戻っていた。
授業を受け、魔法研究部へ向かい、友人たちと他愛ない話をする。
けれど、実習を経験したことで、少しだけ周囲を見る目が変わった気がする。
魔法の強さだけではない。
仲間との連携。
状況判断。
自分とは違う得意分野を持つ人たちと力を合わせること。
それは、森で先輩たちから学んだことだった。
◇ ◇ ◇
「ラウラ、これ見てくれる?」
放課後の魔法研究部。
リリア先輩が机の上に魔法陣の資料を広げる。
「古い術式なんだけど、どうしても一部の構造が分からなくて。」
私は資料を覗き込む。
複雑に絡み合った魔力の流れ。
一見すると無駄に見える部分にも、きちんと意味がある。
「……ここは、こうではないでしょうか。」
指を置くと、リリア先輩が目を丸くした。
「やっぱりラウラはすごいわね。」
「いえ、ただ魔法陣を見るのが好きなだけです。」
そう答えると、先輩は小さく笑った。
「それを才能って言うんじゃないかしら。」
私は少し照れながら、再び羊皮紙へ視線を落とした。
◇ ◇ ◇
夜。
寮の部屋で、私は机に向かっていた。
今日の授業内容を復習しながら、ふと窓の外を見る。
(アレクは、今頃何をしているのかな。)
王宮魔法騎士団。
きっと、私が知らない場所で忙しくしているのだろう。
夏休みには、週に何度も顔を合わせていた。
森を走って。
魔法の話をして。
時にはくだらない言い合いをして。
「俺、天才だし。」
思い出すと、自然と笑みがこぼれる。
「……本当に、変わらないんだから。」
けれど。
来年になれば。
アレクはこの学園へ来るかもしれない。
その時、私はどうすればいいのだろう。
ゲームでは、ここから彼の運命が変わっていく。
オリヴィアと出会い。
惹かれ。
そして――。
私は首を横に振った。
(まだ何も起きていない。)
(今から決めつける必要なんてない。)
魔王になる未来を知っているからこそ。
私は、今のアレクを信じたい。
◇ ◇ ◇
数日後。
授業終わりの廊下で、声をかけられた。
「ラウラちゃん。」
振り返ると、そこにはルシアン先輩がいた。
「こんにちは、先輩。」
「この前の実習以来だね。」
「はい。」
ルシアン先輩はいつものように笑う。
「相変わらずかわいいね。」
「先輩こそ、相変わらずですね。」
「ん?」
「女の子を褒めるところです。」
そう言うと、ルシアン先輩は楽しそうに笑った。
「だって本当のことだから。」
「ラウラちゃんは可愛いし、頑張り屋だし、実力もある」
「褒めるところしかないじゃん。」
あまりにも自然に言われて、私は返事に困る。
「……先輩は、誰にでもそうなんですね。」
「もちろん。」
即答だった。
「可愛い子はみんな好き。」
「でもね。」
少しだけ真面目な表情になる。
「頑張ってる人を認めるのも好きなんだ。」
「実習の時、君は自分の力を過信しなかった。」
「それって、簡単なことじゃないよ。」
私は少し驚いた。
軽い人だと思っていた。
けれど、ちゃんと人を見ている。
「ありがとうございます。」
そう答えると、ルシアン先輩はいつもの笑顔に戻った。
「うん。」
「じゃあ、またね。ラウラちゃん」
先輩が去っていく背中を見送りながら、私は思う。
(ゲームの中の人でも、実際に出会えば、やっぱり一人の人間なんだ。)
それは、分かっていたはずなのに。
改めて実感した気がした。
◇ ◇ ◇
季節は少しずつ冬へ近づいていく。
二学期も、残りわずか。
そして――。
来年。
アレクがこの学園へ来るかもしれない。
嬉しい気持ちもある。
けれど、その先に待つ未来を思うと、不安も消えない。
複雑な思いを胸に、私は空を見上げた。




