第22話 夏休みの終わり
あれから夏休みは、あっという間に過ぎていった。
私は何度もヴィクトール様の家へ通い、修行を続けていた。
森を走り、薪を割り、時には魔法を競い、休憩中には雑談をする。
学園で学んだことを話すと、ヴィクトール様は「それは違う」と容赦なく指摘し、逆に私が新しく知った術式を話せば、「ほう」と興味深そうに耳を傾ける。
学園と森。
どちらも私にとって、大切な学びの場所だった。
◇ ◇ ◇
アレクが来るのは、王宮魔法騎士団の休みの日だけだった。
「ラウラ先輩!」
週に一度、カイル様も加わる。
四人揃う日は決して多くはない。
だからこそ、その時間は自然と笑顔が増えた。
アレクは相変わらず、
「俺、天才だし。」
と言ってはヴィクトール様に頭を小突かれている。
そのやり取りを見るだけで、思わず笑ってしまう。
(変わらないな。)
その変わらなさが、どこか嬉しかった。
◇ ◇ ◇
その日はカイル様のいない日だった。休憩時間にふと思い出して、アレクに聞いてみた。
「アレク。」
「ん?」
「覚えてる?」
そう言って魔力を流す。
一匹、二匹……十匹。
小さな水の蝶がふわりと飛び立つ。
アレクは少し目を見開いたあと、小さく笑った。
「ああ。」
「あの時のか。」
「うん。」
「今はこんなに出せるようになったの。」
「……やるじゃん。」
誇らしげに笑うラウラを見て、アレクも魔法を発動させる。
「俺ならもっとできる。」
庭いっぱいに、無数の水の蝶が舞い上がった。
「……綺麗。」
「まあ。俺、天才だし。」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇ ◇ ◇
夏休みも終わりに近づいたある日。
帰り支度をしていると、アレクが何気なく声をかけてきた。
「そういえば。あの魔石、ちゃんと持ってる?」
「もちろん。」
私は胸元へそっと手を添えた。
制服では見えないよう服の下に隠れている、小さな魔石。
学園へ入学する前、大切に持ち歩けるようネックレスに仕立ててもらったものだ。
大切な贈り物だから、いつでも身につけていたかった。
私は細い鎖を指先で引き上げる。
陽の光を受けて、黒紫色の魔石が静かに輝いた。
アレクは一瞬だけ目を見開く。
「……そうか。」
それだけ言うと、少しだけ口元を緩めた。
「無くすなよ。」
「うん。」
私は笑顔で頷く。
アレクは何事もなかったように視線を逸らした。
◇ ◇ ◇
夏休み最後の修行の日。
侯爵家の馬車が迎えに来る。
「では、失礼します。」
私が頭を下げると、ヴィクトール様は静かに頷いた。
「学園でも修行を怠るでないぞ。」
「はい。」
「ラウラ先輩! 二学期も頑張ってね!」
「ありがとうございます、カイル様。」
最後にアレクを見る。
「またな。」
短い一言。
「うん。またね。」
その一言だけで十分だった。
馬車がゆっくりと動き出す。
窓の外では、ヴィクトール様、カイル様、そしてアレクが見送ってくれていた。
(来年、本当にアレクは学園へ来るのかな。)
(その先に待つ運命も、一緒に来てしまうのだろうか……。)
嬉しさと、不安。
二つの想いを胸に抱きながら、私は王都への道を静かに見つめていた。




