第21話 いつもの修行
馬車の扉が開く。
「おはようございます。」
私が馬車を降りると、家の前で腕を組んでいたヴィクトール様が口元を緩めた。
「おう、来たか。久しぶりじゃの。」
「おはようございます、師匠。お久しぶりです」
「おはようございます、ラウラ先輩!」
元気よく手を振るカイル様の隣では、アレクがいつも通り気だるそうに立っている。
「久しぶり。」
「うん。久しぶり、アレク。」
久しぶりに4人の顔が揃ったことが、なんだか嬉しかった。
「さて。」
ヴィクトール様が杖で森の奥を指した。
「積もる話もあるじゃろうが、まずは森を一周。終わったら薪割りじゃ。」
「「はい。」」
返事をすると、私たちは一斉に駆け出した。
◇ ◇ ◇
森の中を駆け抜ける。
木の根を飛び越え、枝を避け、小川を渡る。
三か月ぶりだったけれど、不思議と体は覚えていた。
「ラウラ先輩、速くなったね!」
後ろからカイル様の声が聞こえる。
「学園でも鍛えていますから。」
そう答えながらも、前を走るアレクとの差はなかなか縮まらない。
「遅いぞ。」
振り返ったアレクが余裕そうに笑う。
「俺、毎日走ってるし。」
「そのくらいじゃ追いつけない。」
「もう……。」
少し悔しいけれど、その背中を追いかけるのは嫌ではなかった。
森を一周して戻る頃には、額には心地よい汗が滲んでいた。
◇ ◇ ◇
休む間もなく、今度は薪割りが始まる。
慣れた手つきで薪を割るアレク。
カイル様もすっかり手慣れた様子で斧を振るっていた。
私も一本ずつ丁寧に薪を割っていく。
乾いた音が森へ響いた。
しばらくして、ヴィクトール様が口を開く。
「それで、学園はどうじゃ。」
私は薪を台へ置きながら笑った。
「毎日楽しいです。」
「授業も魔法研究部も、知らないことばかりで。」
「実技の先生も、魔力制御が一番大切だとおっしゃっていました。」
「ほう。」
ヴィクトール様は満足そうに頷く。
「少しはまともな教師もおるようじゃな。」
「師匠と同じことを言っていました。」
「魔法は威力ではなく、制御だって。」
「当然じゃ。」
ヴィクトール様は鼻を鳴らした。
「無駄な魔力を垂れ流すようでは、一流とは言えん。」
私は思わず微笑む。
(やっぱり、師匠の教えは間違ってなかった。)
その時だった。
「まあ、学園で教わることなんて、俺にはほとんどないけど。」
アレクが軽々と薪を割りながら肩をすくめる。
「俺、天才だし。」
「相変わらずじゃな。」
ヴィクトール様は苦笑しながらも、どこか楽しそうだった。
そして何気ない口調で続ける。
「そのことなんじゃが。」
「アレク、おぬし来年から学園へ行くことになるかもしれん。」
私の手が止まった。
「えっ?」
アレクは特に驚いた様子もなく肩をすくめる。
「まだ決まったわけじゃないけどな。」
「カイルの護衛として編入する話が出てる。」
「本当ですか!」
カイル様はぱっと表情を明るくした。
「アレクが来てくれるなら心強いです!」
ヴィクトール様は静かに頷く。
「確かに魔法だけなら、今さら学園で学ぶことはほとんどない。
じゃが、世間を知ることは必要じゃ。
同年代と過ごし、人と関わることも、大事な修行じゃからな。」
私はアレクを見つめた。
(アレクが学園へ……。)
嬉しい。
毎日会える。
一緒に研究の話もできる。
でも――。
ゲームでは、アレクは学園でオリヴィアと出会い、恋をして……。そして、その想いは叶わず、最後には魔王になってしまう。
胸の奥がざわつく。
隠しルートなら、魔王にはならないけど、果たしてそれが可能なのだろうか……
アレクを魔王にしないためには……学園へ来ない方がいいのかもしれない。
学園でオリヴィアと出会わなければ、未来は変わるのだろうか。
いや、でも、アレクから大切な経験を奪うことになるのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎる。
それでも。
一緒に過ごせる時間が増えるのは……嬉しい。
複雑な気持ちを胸に抱えながら、私はもう一本、薪を割った。
乾いた薪を割る音だけが、夏の森へ静かに響いていた。




