第19話 実技授業
入学から2週間。
今日はいよいよ初めての魔法実技の授業だった。
訓練場へ出ると、広い石造りの演習場には一年生たちが整列している。
「今日から魔法実技を担当するガイウスだ。」
背の高い男性教師が、生徒たちを見渡した。
「まずは諸君らの実力を見る。」
教師が杖を軽く振る。
すると演習場の上空に、青白く光る円形の的がいくつも浮かび上がった。
生徒たちから小さなどよめきが起こる。
「これは魔力で作った標的だ。中心に近いほど高得点となる。」
「一人一発。」
「威力ではなく、命中率と魔力制御を見る。」
「狙いは中心だ。」
その言葉に、生徒たちの表情が引き締まる。
◇ ◇ ◇
順番に生徒たちが前へ出る。
「ファイア!」
炎の球が飛ぶ。
的の端をかすめる。
「次。」
別の生徒は勢いよく風魔法を放つ。
命中はしたものの、魔力が強すぎて標的ごと吹き飛ばしてしまった。
教師は静かに記録をつけていく。
「威力は十分だが、制御が粗い。」
「次。」
少しずつ緊張が広がっていく。
そして。
「ラウラ・アストレア。」
私の名前が呼ばれた。
(普通にやれば大丈夫。)
ヴィクトール様との修行を思い出す。
『無駄な魔力は使うな。必要な分だけじゃ。』
私は静かに右手を前へ出した。
指先へ魔力を集める。
生まれた火球は、他の生徒たちより一回り小さい。
「火球、小さくない?」
「首席なのに?」
そんな囁きが聞こえた。
私は気にせず、標的だけを見つめる。
呼吸を整え、
放つ。
小さな火球は真っすぐ飛び――
標的の中心を正確に貫いた。
青白い標的が淡く光り、そのまま静かに消えていく。
無駄な爆発も、余分な魔力の揺らぎもない。
演習場が一瞬静まり返った。
ガイウス先生は消えた標的を見つめ、ゆっくり頷く。
「理想的な一撃だ。」
「魔力制御が非常に優秀だな。」
私は一礼して列へ戻る。
「ありがとうございます。」
周囲から小さなざわめきが起こる。
「今の見た?」
「火球、小さかったのに……。」
「中心だったよね。」
「かっこいい……」
「あんな魔法、初めて見た。」
私は聞こえないふりをした。
◇ ◇ ◇
授業の終わり。
ガイウス先生が一年生たちを見渡した。
「勘違いするな。」
「魔法は威力を競うものではない。」
「必要な魔力を、必要なだけ使い、狙い通りに放つ。」
「それが魔法の基本だ。」
私はその言葉に、小さく微笑んだ。
(ヴィクトール様と同じだ。)
派手な魔法を見せることよりも、正確に制御すること。
それが、師匠から何度も教えられてきたことだった
◇ ◇ ◇
授業が終わり、訓練場を出ようとした時だった。
「あ、あの……アストレア様!」
振り返ると、同じ一年生の女子生徒が数人、少し緊張した様子で立っていた。
「さっきの魔法……とても素敵でした!」
「無駄がなくて、すごく綺麗で……。」
「わ、私もいつかあんな魔法を使えるようになりたいです!」
私は少し驚きながら微笑んだ。
「ありがとう。」
「魔法は才能だけじゃありません。」
「きっと、努力すればできますよ。」
その一言に、女子生徒たちの顔がぱっと明るくなる。
「はい!」
「きゃーっ、話してもらえた!」
「やっぱりアストレア様、素敵……!」
小さな歓声を背に、私は思わず首をかしげた。
(そんなに喜ぶことだったのかな……?)
首席というだけで注目されていると思っていたけれど、それだけではないらしい。
(でも、誰かが魔法を好きになってくれるなら、それは嬉しいことかもしれない。)




