第17話 首席令嬢
入学式の翌日。
今日から、いよいよ授業が始まる。
私は教科書を抱え、教室へ向かった。
廊下では、昨日よりも少し緊張がほぐれた様子の新入生たちが談笑している。
「実技の先生、怖そうだったわね。」
「寮のご飯、美味しかったよ。」
そんな会話を耳にしながら、自分の席へ着く。
しばらくすると、教室の扉が開いた。
「おはようございます。」
昨日紹介された魔法理論担当のエドガー先生だった。
穏やかな笑みを浮かべながら教壇へ立つ。
「今日から本格的に授業を始めます。」
「ですが、その前に皆さんの基礎知識を確認しましょう。」
教室に少しだけ緊張が走る。
「では、質問です。」
「魔法陣を構成する三つの基本要素を答えられる人はいますか。」
私は思わず手を挙げそうになった。
ヴィクトール様から何度も叩き込まれた内容だ。
けれど、慌てて手を膝の上へ戻す。
(初日から目立つのは避けたい……。)
教室のあちこちで顔を見合わせる生徒たち。
知っているようで、誰も自信を持てないらしい。
「……誰か答えられる人はいますか。」
教室は静まり返る。
誰も手を挙げない。
先生は教室を見回してから、小さく笑った。
「では、入学試験首席のアストレアさん。」
(やっぱり……!)
教室中の視線が一斉に集まる。
私は観念して立ち上がった。
「魔力循環、術式構築、そして魔法陣の安定化です。
三つの要素が均衡して初めて、安定した魔法が成立します。」
エドガー先生は満足そうに頷いた。
「正解です。」
「皆さんも、この三つは必ず覚えてください。」
私は席へ腰を下ろす。
(やっぱり目立っちゃった……。)
すると先生が続けた。
「ただし。」
「魔法理論は暗記科目ではありません。
理論を理解し、自分で考えることが何より大切です。」
その言葉に、私は思わず顔を上げた。
(ヴィクトール様と同じことを……。)
思い返せば、師匠はいつも言っていた。
『魔法は暗記ではない。自分で考え、自分で答えを見つけるんじゃ。』
自然と口元が緩む。
(やっぱり、師匠の教えは間違ってなかった。)
◇ ◇ ◇
午前中の授業が終わると、昼休みになった。
「アストレア様。」
昨日、隣の席だった令嬢が遠慮がちに話しかけてくる。
「魔法理論、お好きなんですか?」
「はい、勉強しているうちに、好きになってしまって。」
「首席なのも納得ですわ。」
その言葉に私は苦笑した。
「好きだから覚えられただけですよ。」
それは本心だった。
魔法を知れば知るほど、新しい発見がある。
一つの魔法陣にも、無数の工夫や可能性が隠されている。
だから勉強は苦にならない。
昼食を終えて教室へ戻る頃には、さらに何人かの生徒から声をかけられた。
侯爵令嬢。
そして首席。
その二つだけで、どうしても注目されてしまうらしい。
(落ち着くまでは、少し時間がかかりそう。)
私は窓の外へ目を向けた。
春風が校庭の木々を揺らしている。
ゲームではほぼ名前しか出てこなかったラウラ・アストレア。
けれど今の私は、この学園で毎日を過ごし、少しずつ新しい出会いを重ねている。
三年間という長い時間の始まり。
この学園で、私はどんな未来へたどり着くのだろう。
まだ、その答えは誰にも分からない。
けれど、この学園には、私の知らない魔法がまだたくさん眠っている。
そんな予感だけはしていた。




