第16話 王立魔法学園
王立魔法学園は、王都から離れているため、入学式の数日前には入寮する。
私は大きな荷物を馬車へ積み込み、家族と向かい合っていた。
「それでは、行ってまいります。」
お父様とお母様は優しく頷く。
「体には気を付けるんだぞ。」
「困ったことがあったら、すぐ手紙を書くのよ。」
「はい。」
隣ではレオンが少しだけ寂しそうな顔をしていた。
「姉上……。」
私はしゃがみ込み、弟の頭を優しく撫でる。
「次に会う頃には、もっと背が伸びてるかな?」
「はい!勉強も頑張ります!」
その笑顔を見て、私も笑みがこぼれた。
馬車がゆっくりと動き出す。
窓から手を振ると、家族も見えなくなるまで手を振り返してくれた。
◇ ◇ ◇
数時間後。
王都の北にある王立魔法学園へ到着した。
「わぁ……。」
思わず声が漏れる。
白い石造りの校舎。
空へ伸びる時計塔。
手入れの行き届いた広大な庭園。
前世で画面越しに何度も見た景色が、今は目の前に広がっていた。
本当に来たんだ……。
ここが、ゲームの舞台。
そして、これから三年間を過ごす場所。
期待と緊張で胸が高鳴る。
◇ ◇ ◇
寮は学園のすぐ隣に建てられた四階建ての建物だった。
受付で名前を告げると、職員が優しく微笑んだ。
「ラウラ・アストレア様ですね。」
「はい。」
「こちらがお部屋の鍵になります。同室には、二年生がいますので、わからないことがあれば、その、二年生に色々聞いてください」
「はい」
鍵には部屋番号が刻まれている。
女子寮三〇七号室。
「本日からこちらのお部屋をご利用ください。」
荷物を受け取り、部屋へ向かった。
廊下には同じように荷物を抱えた新入生が行き交っている。
緊張した顔。
楽しそうな顔。
みんな今日から新しい生活が始まるのだ。
「失礼します。」
部屋に入ると、一人の女子生徒が本を読んでいた。
私より少し背が高く、胸元のリボンの色は二年生を示している。
「あら、一年生?」
「ラウラ・アストレアです。これから一年間、よろしくお願いします。」
「私はエリス。そんなに緊張しなくても大丈夫よ。」
穏やかに笑う先輩に、張っていた肩の力が少しだけ抜けた。
私は荷物を整理しながら、小さく息を吐く。
(今年はこの先輩と一年間過ごすことになるんだ。)
◇ ◇ ◇
次の日は入学式。
講堂には新入生が整然と並んでいた。
校長は穏やかな声で学園の理念を語る。
「王立魔法学園は、身分ではなく才能と努力を尊ぶ学び舎です。
三年間、この学園で魔法と知識を学び、多くの卒業生が王宮魔法騎士団や宮廷魔導士として国を支えています。
ここで得る仲間との出会いも、かけがえのない財産となるでしょう。」
ゲームでは一瞬で流された校長先生の挨拶だけど……。
こうして聞いてみると、この学園は本当に”未来を担う魔法使いを育てる場所”なんだ。
校長の挨拶が終わると、教師たちの紹介が続く。
その後、寮生活や授業、校則など、学園生活についての説明が行われた。
どれも前世のゲームでは一瞬で流されていた場面だ。
でも、実際にその場へ立ってみると、空気がまるで違う。
ここから三年間が始まる。
私は胸元へ手を当てた。
制服の下には、アレクからもらった黒紫色の魔石がある。
自然と少しだけ肩の力が抜けた。
大丈夫。私は一人じゃない。
家族がいて。
ヴィクトール様がいて。
アレクがいて。
カイル様がいる。
そして、この学園ではまだ見ぬ仲間たちとも出会う。
期待もある。
不安もある。
それでも前へ進もう。
私はまっすぐ壇上を見つめた。
そして、入学式が終わると、私たちはそれぞれの教室へ向かった。
新入生たちは緊張した様子で席につき、担任の自己紹介が始まる。
私は窓の外を眺める。
ここが、ゲームの舞台……。
すると隣の席の令嬢が、おずおずと声をかけてくる。
「アストレア様……ですよね?」
「はい。」
「入学試験、首席だったと聞きました。」
もう広まってる!?
周囲からもちらちらと視線を感じる。
目立たないようにしようと思ってたのに……。
心の中で小さくため息をつく。
ゲームでは名前しか出てこなかった侯爵令嬢。
そんな私が、入学初日から注目を集めてしまっている。
……本当に、大丈夫かな。
そんな不安を胸に、私の学園生活は静かに幕を開けた。




