第12話 師匠のいない日
その日の午後は、ヴィクトール様が王宮魔法騎士団へ用事で出かける日だった。
「今日は夕方まで戻らん。」
玄関でそう言うと、ヴィクトール様は部屋を見回し、散らかった本や書類を指さした。
「今日はこの部屋を片付けておいてくれ。終わったら自習じゃ。」
「はい。」
「では行ってくる。」
転移魔法が光り、ヴィクトール様の姿が消えた。
◇ ◇ ◇
昼食を済ませると、私たちは師匠の部屋へ向かった。
床には本や紙が山積みになっている。
「結構あるね……。」
私が苦笑すると、アレクは部屋を見回してため息をついた。
「面倒。こんなの、一瞬だ。」
そう呟くと、指を軽く鳴らす。
淡い銀色の光が部屋全体を包んだ。
次の瞬間。
散らかっていた本は本棚へ戻り、机の上は綺麗に片付き、床も元通りになっていた。
「わぁ……!」
私は思わず目を輝かせる。
「どうやったの?」
「物の時間を少し巻き戻しただけ。生き物には使えないけどね。」
アレクは当然のように答えた。
「すごい……。」
感心して部屋を見回っていると、不意に机の上で目が止まる。
「あれ?」
「どうした。」
「今日、師匠が書いてたメモが消えてる。」
アレクも机を見る。
「あ。……戻す。」
再び時間魔法を使う。
銀色の光が走ると、そこにはさっきまで書かれていた文字が戻っていた。
アレクは満足そうに頷く。
「これでいいだろ。」
私は部屋をぐるりと見回した。
どこにも不自然なところはない。
……でも。
「なんか、師匠にはバレる気がするな。」
「なんで。」
「なんとなく」
ラウラがそう言うと、アレクは少しだけ眉をひそめた。
「……大丈夫だろ」
◇ ◇ ◇
夕方。
ヴィクトール様が戻ってきた。
家の中を一通り見回し、満足そうに頷く。
「ちゃんと片付いとるの。」
私はほっと胸をなで下ろした。
すると。
「で。」
ヴィクトール様がアレクを見る。
「時間魔法は便利じゃったか?」
「……。」
私は思わず固まる。
「えっ。」
アレクは少しだけ顔をしかめた。
「……バレた。」
「当たり前じゃ。わしを誰じゃと思っとる。」
ヴィクトール様は笑う。
「魔法の痕跡くらい、隠せるようになってから使え。」
「……。精進します。」
ぶっきらぼうに答えるアレク。
その姿がおかしくて、私は吹き出してしまった。
「ふふっ。」
アレクは少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らす。
「笑うな。」
「ごめん、ごめん。」
ヴィクトール様も愉快そうに笑う。
「横着ばかり覚えおって。」
穏やかな笑い声が、夕暮れの庭に響いていた。
本日から2話投稿してます。




