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第11話 初めてのプロポーズ

カイル様が弟子になってから、3か月ほどが過ぎた。


三人で修行することも、すっかり日常になっていた。


その日の午後。


私たちは魔法陣の座学をしていた。


ヴィクトール様が机の上に一枚の紙を広げる。


「今日は、この魔法陣の仕組みを考えてみい。」


三人で図を見つめる。


私はすぐに魔力の流れを追い始めた。


アレクは少し眺めただけで、


「ここ、無駄。」


と一言。


「省略できる。」


「結果だけ言われても分からんじゃろ。」


ヴィクトール様が苦笑する。


「説明せい。」


「感覚だから。」


「……それでは教えられん。」


ヴィクトール様は肩をすくめる。


一方、カイル様は真剣な表情で紙を見つめていた。


「ここまでは分かるんですけど……。」


「その先がどう繋がるのか分からなくて。」


ヴィクトール様は私を見た。


「理論ならラウラに聞くのが一番じゃ。」


「え?」


「ラウラ、教えてやれ。」


「はい。」


私は紙を自分の方へ寄せた。


「この補助式は、魔力を安定させるためなんです。」


「ここを省略すると、一見効率は良く見えるんですけど……。」


指で線をなぞる。


「魔力がここで乱れやすくなるので、長時間維持する魔法には向かないんです。」


「だから、この式が必要なんですね。」


カイル様は目を輝かせた。


「なるほど!」


「そういう意味だったのか!」


私はほっと胸をなで下ろす。


「伝わってよかったです。」


「すごい。」


カイル様は素直に感心したように言った。


「ラウラ先輩、教えるのも上手なんだね。」


「ありがとうございます。」


少し照れくさくなって笑う。


その様子を見ていたヴィクトール様も満足そうに頷いた。


「ラウラは努力家じゃからの。」


「自分で悩んで覚えた分、人にも教えられる。」


その言葉が少し嬉しかった。


◇ ◇ ◇


休憩時間。


私は庭で本を読んでいた。


そこへカイル様がやって来る。


「ラウラ先輩。」


「はい?」


「今日はありがとう。」


「いえ。」


「すごく分かりやすかった。」


そう言って少し照れたように笑う。


「ラウラ先輩って、本当にすごい人だね。」


「そんなことないですよ。」


「あるよ。」


カイル様は真っ直ぐ私を見つめる。


「魔法も詳しいし、優しいし。」


「僕、ラウラ先輩みたいな人がお妃だったら、この国はもっと良くなると思う。」


「えっ?」


思わず目を瞬かせる。


「父上も、いつかは婚約者を決めるって言ってたし……。」


カイル様は少し考え込むように言った。


「だったら、ラウラ先輩みたいな人がいいな。」


カイル様は少し頬を赤くしながら言った。


「僕のお妃候補になってくれない?」


「……え?」


あまりにも突然で、思考が止まる。


(えっ。)


(こんなイベント、ゲームにあったっけ?)


記憶を探る。


でも思い出せない。


ゲームでは学園入学後の出来事が中心で、幼い頃の話はほとんど描かれていなかった。


(まあ……描かれていなかっただけなのかな。)


私は少し困ったように笑った。


「お気持ちは嬉しいですが、お断りします。」


「えっ。」


カイル様は目を丸くする。


「どうして?」


「私には荷が重いです。」


「それに……。」


私は微笑んだ。


「今は魔法の勉強が一番楽しいので。」


一瞬だけ沈黙が流れる。


「……そっか。」


カイル様は少し残念そうに笑った。


「じゃあ、まずはラウラ先輩に認めてもらえるようにならないとね。」


「魔法も、もっと頑張るよ。」


「はい。」


私は笑って頷いた。


「一緒に頑張りましょう。」


◇ ◇ ◇


少し離れた場所では。


アレクが薪を割っていた。


パカン。


軽い音が響く。


その手が、一瞬だけ止まった。


「……婚約者?」


小さく呟き、二人の方へ視線を向ける。


楽しそうに話すラウラとカイル。


「……。」


胸の奥が、少しだけざわつく。


なんだ、この感じ。


理由は分からない。


分からないから、余計に気に入らない。


「アレク?」


ラウラがこちらを見た。


「……別に。」


ぶっきらぼうに答え、再び薪へ向き直る。


パカン。


パカン。


いつもより少しだけ強い音が、庭に響いていた。


ヴィクトール様はその様子をちらりと見て、小さく笑う。


「ほっほっほ。」


「若いのう。」


その言葉の意味を理解した者は、まだ誰もいなかった。


1話が短いので、明日から朝夕2話ずつ投稿することにします。

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