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キングスレイヤー真  作者:


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93. 荒くれ馬と、血統の壁

 街の喧騒を離れ、ポムキンが御者を務める馬車は西への街道を走る。


 風が草の匂いを運んでくる。


「……ここも、アサータクさんと来たな」


 俺はふと呟いた。


 かつて彼と共に駆け抜けた景色。


 相棒がいない荷台は少し広すぎるが、感傷に浸っている暇はない。


 俺たちは前に進まなければならないのだから。


 目の前に広がったのは、地平線まで続くかのような広大な牧草地だ。


 柵の中では、百頭を超える馬たちが群れをなし、のんびりと草を食んでいる。


「いらっしゃい! おや、坊っちゃん。乗馬の練習かい?」


 牧場主らしき親父がやってきた。


「いや、馬車を引く馬を探しに来たんだ。タフで速いのが欲しい」


「見ての通り、うちは数は多いが、並の馬ばかりだよ。まあ、ゆっくり見てってくれ」


「ああ、見せてもらうよ」


 俺は柵に近づき、【見る力】を発動した。


 視界に次々とウィンドウが浮かび上がる。


【ランク:C】【速さ:C】【頑丈:C】

【ランク:C】【速さ:C】【頑丈:D】


 ……どれもパッとしない。


 通常、この能力を使うと視界が情報で埋め尽くされて邪魔になるため、俺は一瞬で確認したらすぐに視線を外してウィンドウを消す癖がついている。


 一頭の能力を表示させたまま、消さずに隣の馬が視線に入ってきた。


 その瞬間だった。


 視界に残していたウィンドウに2頭の馬が一度消そうとしたが、視界に変化があらわれる。


【特殊効果発動:配合視】


「……は?」


 俺は目を瞬かせた。


 そこには個体の能力ではなく、「この二頭を掛け合わせた場合の結果」が表示されていた。


【配合予測結果】

 速さ:C 70% D 30%

 頑丈:C 80% D 20%


「……なるほど。これはすごい」


 面白い機能を見つけた。


 俺は実験とばかりに、手当たり次第に近くの馬たちを組み合わせてみた。


 しかし、結果は散々だった。


 どれを組み合わせても、凡庸な親からは凡庸な子供しか生まれないという予測ばかり。


(……現実は厳しいな)


 前世で二十年近く牧場を経営していた時の記憶が蘇る。


 あの頃、俺は来る日も来る日も馬の世話をし、血統を研究した。


 努力の甲斐あって、Bランクの馬ならコンスタントに育て上げることができるようになった。


 だが、「Aランクの壁」は絶望的だった。


 どんなに手をかけても、決して殺処分などせずに最期まで面倒を見ても……才能の壁だけは、努力や愛では越えられなかった。


 Aランクは狙って出せるものではない、まさに奇跡なのだ。


「……難しいな。所詮はCランク同士か」


 俺は諦めかけた。


 だがその時、ふと牧場の隅に目をやった。


 隔離用の頑丈な柵で囲われたエリア。


 そこには、他の馬とは明らかに雰囲気の違う、殺気立った二頭が押し込められていた。


「おい親父さん、あれは?」


「ああ、あれか……。気性が荒すぎて誰も乗せさせないんだ。近々、処分する予定でね」


(……やっぱりな)


 以前、廃棄予定の馬の中から「暴君」を見つけ出した時と同じ匂いがする。


 まずは個別に鑑定する。


【名前:――(牡)】

【ランク:C】【気性:極荒】


【名前:――(牝)】

【ランク:D】【気性:凶暴】


 単体で見れば、ただの性格の悪い駄馬だ。


 能力もCとD。


 だが、俺は黒い牡馬の情報を消さずに、栗毛の牝馬を見た。


 予測データが弾き出される。


【配合予測結果】

 速さ:A 30% B 30% C 40%

 頑丈:B 40% C 50% D 10%

 体力:B 50% C 40% D 10%


(……ッ!?)


 俺は息を呑んだ。


 文字が、目に焼き付いて離れない。


 速さ:A 30%。


 Aだ。


 Aランクだ。


 前世の俺が二十年間追い求め、一度として手が届かなかった「壁の向こう側」。


 それが、こんな廃棄寸前の駄馬同士から、30%もの高確率で生まれるだと?


 気性の荒い者同士、互いの欠点が化学反応を起こし、爆発的な能力へ昇華される可能性があるらしい。


 これは「完成品」を買うのではない。


 俺がかつて夢見た「未来」を買うのだ。


「ポムキン……見つけたぞ。ダイヤの原石だ」


 俺は牧場主を振り返った。


 震える声を抑えるのに必死だった。


「親父さん。あの二頭、まとめて貰いたい」


「はぁ!? アレか!? やめときな、あれは処分予定の……」


「いくらだ?」


「……いや、金を取るようなもんじゃねぇが。肉にする手間が省けるなら、銀貨5枚でいいよ」


「買った。ポムキン、金を」


 俺は柵の中に入り、暴れる二頭に近づいた。


 二頭は俺を威嚇するように鼻息を荒げたが、不思議と殺気は感じなかった。


「よろしくな。……お前たちの子供には、期待してるぜ」


 当面の間、リライアを引くのはこの二頭になる。


 スペック的には少々不足だが、この気性と体力なら、少々の荒野も強引に突破してくれるだろう。


 そして何より、この二頭には俺の悲願が詰まっている。


「よし、繋げ! 帰るぞ!」


 俺は市場の喧騒ではなく、静かな牧草地で「未来の翼」への切符を手に入れた。


 俺たちの旅には、まだまだ「伸びしろ」がある。



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