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キングスレイヤー真  作者:


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92. 腐った血統と、呪われた人形

 レーマネの朝は早い。


 宿では、新加入した変態紳士ポショルが、ダガンを相手に筋肉の素晴らしさとプロテインの効能を説いている真っ最中だろう。


 そんな騒がしい場所から逃げるように、俺は散歩に出ることにした。


「……ボス、本当について行かなくていいんですかい?」


「いいって。ただの気晴らしだ。……あ、でもポムキン、お前は来てくれ。壁役として」


 俺が指名したのは、寡黙な巨漢ポムキンだ。


 彼は無駄口を叩かず、ただ黙って俺の後ろを歩いてくれる。


 今の俺には、この静けさが心地よかった。


 石畳の両脇には、大陸中から集まった珍品を並べる店が軒を連ねている。


 ふと、一軒の大きな商館の前で足が止まった。


 重厚な石造りの門構え。


 その上には、見覚えのある意匠の看板が掲げられている。


『ハインツ商会』


(……ハインツ。懐かしいな)


 俺の脳裏に、二十六年前の記憶が蘇る。


 まだこの商会がもっと小さな店だった頃、アーノルは相棒のアサータクと共にここを訪れ、仕事の報酬を金に換えてもらった。


 あの時のハインツは、金にはうるさいが、どこか憎めない情熱と矜持を持った男だった。


(あいつも、もうこの世にはいないか。今は誰が継いでいるんだ?)


 感傷に浸りながら眺めていると、扉が開き、中から男が出てきた。


 贅肉をたっぷりと蓄えた中年男。


 俺は【見る力】を発動した。


【名前:ハインツ・イヤネス】

【才能:商才】


(……ハインツ・イヤネス。名前を継いでいるのか。おそらく曾孫の代あたりか)


 顔立ちは初代によく似ているが、目つきは全く違った。


 初代が持っていた野心はなく、あるのは傲慢と強欲だけだ。


「おい、馬車の準備が遅いぞ! 何をやっている!」


 ハインツ・イヤネスが苛立たしげに通りへ出てくると、俺とポムキンに気づき、露骨に顔をしかめた。


「おい、邪魔だぞ。どこのガキだ。こんな所に突っ立っているんじゃない。商売の邪魔だ、どけ」


 冷たい声だった。


 かつての友の血を引く者に微かな面影を探していた俺に、返ってきたのは虫けらを見るような視線だけだった。


「聞こえんのか? 貧乏人が映ると、店の格が下がる」


 ハインツ・イヤネスが手を振って追い払う仕草をする。


 ポムキンが一歩前に出ようとしたが、俺は手で制した。


 懐かしさが急速に冷めていく。


 その時、彼の背後から一人の女性が出てきた。


 美しい女性だが、その目はどこも見ていないような虚ろな光を湛えていた。


【状態:呪縛】


 ――心臓が、どくんと跳ねた。


 昨夜見たクサレッタの従者と同じ、禍々しい赤黒い文字だ。


(ハインツ……お前、クサレッタから『非合法な奴隷』を買っているのか?)


 かつて俺たちが取引した初代ハインツは、一線は守る男だったはずだ。


 それが代を重ねて腐り落ち、今や心を呪法で縛られた「人形」を侍らせ、子供を邪魔だと切り捨てる怪物に成り下がっていた。


「……行くぞ、ポムキン」


 俺は吐き捨てるように言った。


 懐かしさなど、これっぽっちも残っていなかった。


 ハインツ・イヤネスは俺たちが去る背中に「二度と来るな」と悪態をついていた。


 気分が悪い。


 成功の代償に魂を売ったのか。


 懐かしさは完全に消え失せ、吐き気を催す不快感だけが残った。


「……最悪な気分だ。もっと生き生きとしたものが見たい。命の躍動を感じられる場所へ行こう」


 しばらく歩くと、鼻を突く獣の匂いといななきが聞こえてきた。


 馬市場だ。


 いななき、蹄の音、商談の声。


 そこには嘘のない「生」のエネルギーが渦巻いていた。


「おー、馬だ」


 新型馬車『リライア』を引く馬が今のランクCでは話にならない。


 腐った人間を見るのはもう十分だ。


「よし、ポムキン。最高の相棒を探すぞ」


 俺は【見る力】を研ぎ澄まし、馬の群れへと視線を走らせた。



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