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キングスレイヤー真  作者:


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85. 深夜の狂宴と、職人の血脈

「よし、ポムキン! その角材をそこに並べろ! ああ、そっちは横だ。そこは車幅の基準にするからな!」


 図面を引き終えるなり、俺はポムキンを「重機」代わりに使い、工房の敷地内にあった高価そうな角材を勝手に運び出させ始めた。


 ポムキンは無言で、しかし正確に、俺が指差した位置へ巨大な木材を配置していく。


 その巨躯が動くたびに地面が微かに揺れた。


「……おい、坊主。何をしてる」


 呆然としていたカイルがようやく口を開いたが、俺は無視だ。


 頭の中では、すでに完成した馬車の3Dモデルが回転している。


「図面だけじゃ伝わらないからな。原寸大でシミュレーションするんだよ。あ、その板バネの予備、ちょっと借りるぞ!」


「ちょ、ちょっと待て! それは他のお客さんの修理用で……!」


 作業を止めて見ていた職人のうち、二人の男が慌てて駆け寄ってきた。


 一人は四十代半ばの、カイルによく似た神経質そうな男。


 もう一人は十代後半の、まだ幼さの残る青年だ。


 二人はポムキンの威圧感に引き気味ながらも、俺の傍若無人な振る舞いに耐えかねたらしい。


「いくらなんでも失礼じゃないか! ここはレーマネで一番の工房なんだぞ。子供の遊び場じゃない!」


「遊びじゃない。最高の馬車を作りに来たって言ったろ?」


 俺はひょいと顔を上げ、二人を【見る力】でスキャンした。


【名前:ゲラン(45歳)】

【能力:製作】


【名前:カエル(19歳)】

【能力:木工】


(ふむ……)


 俺は二人の顔をまじまじと見た。


 ゲランという男は、眉間のシワや神経質そうな目つきがカイルに瓜二つだ。


 息子だろう。


 カエルという青年は、ゲランを若くしたような顔立ち。


 こちらは孫か。


 能力も『製作』と『木工』。


 カイルの血と技術は、しっかりと三代にわたって受け継がれているらしい。


「ゲランさんにカエルくん、だっけ? 悪いけど、今は一刻を争うんだ。文句があるならあのお爺ちゃんに言ってくれ」


「な、なぜ俺たちの名前を……!? というか、父さん! なぜ黙って見てるんだ! こいつ、勝手に秘蔵のオーク材を……!」


 やはり息子か。


 ゲランがカイルに詰め寄る。


 だが、カイルは俺の図面を食い入るように見つめたまま、動かなかった。


 その震える手、充血した目。


 ……完全に「職人のスイッチ」が入った顔だ。


「……好きにやらせろ」


 カイルの低い、しかし有無を言わせぬ声が工房に響いた。


「えっ……? 父さん!?」


「黙ってろゲラン。……この図面を見ろ。この構造、この発想。これはガキの落書きで書けるもんじゃない。少なくとも、お前やカエルじゃ一生かかっても辿り着けん領域だ」


 カイルは図面から目を離さず、吐き捨てるように言った。


「カエル、お前はこいつの指示に従って木を削れ。ゲラン、お前は倉庫から鉄球の在庫をすべて持ってこい。一つでも傷があるものは弾け。いいな?」


「……本気、なんですか」


 二人は信じられないものを見る目で俺とカイルを交互に見たが、カイルの放つ凄みに押され、渋々と作業に戻っていった。


「……(フンッ)」


 ポムキンが鼻で笑った。


 こいつ、意外とこの混乱を楽しんでやがるな。


 俺は角材の上に図面を広げ、カイルに向き直った。


 老いたとはいえ、その手にはまだ職人の魂が宿っている。


「さて、と。カイルお爺ちゃん、あんたも手伝ってくれるんだろ?」


「フン……。六歳の小僧に顎で使われるのは癪だがな」


 カイルは座っていた椅子を蹴飛ばし、愛用の革エプロンをきつく締め直した。


 その口元には、かつての「路地裏の修理屋」だった頃と同じ、不敵な笑みが浮かんでいた。


「道具は揃っている。腕も錆びちゃいない。……わしも混ぜてもらうぞ、坊主」


「ああ! 久しぶりに朝までやろうぜ、相棒!」


 俺がそう言うと、カイルは一瞬、不思議そうに眉を動かした。


 ……かつて、この工房がまだ小さかった頃、一人の生意気な男が自分をそう呼んでいたことを思い出したのかもしれない。


「……ハッ、生意気な口を。後悔するなよ、坊主!」


 ガキンッ!!


 カイルがハンマーを叩き、作業の開始を告げた。


 俺が木材に線を引けばカエルが削り、俺が鉄を熱すればカイルが叩く。


 ゲランが持ってきたベアリングを、俺とカイルが同時に検品し、「ダメだ」「使えん」と同時に弾く。


 怒号と罵声、そして金属音が入り混じる。


 それは喧嘩のようでいて、完璧に噛み合った歯車のようでもあった。


 ――一時間後。


「うっぷ……食った食った。やっぱレーマネの肉は最高だな」


「ああ、肉の味が濃い。筋肉が喜んでる」


 肉の匂いをプンプンさせたメイガンとダガンが帰ってきた。


 二人は上機嫌で中に入り――そして固まった。


 そこには、鬼の形相でハンマーを振るう老人と、その横で指示を飛ばしまくる六歳児。


 さらに、巨大な木材を持って右往左往させられているポムキンと、泣きそうな顔で走り回る職人たちの姿があった。


「……なんだこれ。戦争でも始まったのか?」


 メイガンが呆然と呟く。


 その背後から、大量の布を抱えたスピディが息絶え絶えに戻ってきた。


「ぜぇ、ぜぇ……ボ、ボス! 布、買ってきやした……!」


「遅い! すぐに広げて蝋を塗れ!」


「ひぃぃ! 飯も食ってないのにぃぃ!!」


 深夜の工房に、火花と木屑が舞い踊る。


 レーマネの裏路地で、二十六年の時を超えた「革命」が、再び最高速度で走り出していた。


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