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キングスレイヤー真  作者:


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80. 赤土の洗礼と、二世たちの実力

 感傷に浸っていたのも束の間だった。


 俺はふと、前方の景色に違和感を覚えた。


「俯瞰視」


 俺は視界を強化し、遠方の岩陰を凝視した。


 肉眼では陽炎に霞んで見える岩肌の奥に、微かな殺気の揺らぎと、引き絞られた弓の弦を捉える。


「――来るぞ!」


 俺が叫ぶのとほぼ同時、並走していたメイガンが動いた。


 ヒュンッ! キィン!!


 乾いた金属音が響く。


 岩陰から放たれた一本の矢が、メイガンの剣によって叩き落とされていた。


 彼女は走る速度を緩めることなく、あくび交じりのような最小限の動作で、至近距離の狙撃を無効化したのだ。


「て、敵襲じゃァァァ!!」


 荷台の隙間からマンダルが悲鳴を上げる。


 それを合図にしたかのように、赤土の地面や岩の陰から、薄汚い男たちが一斉に姿を現した。


 その数、およそ三十人。


 伏兵の配置からして、ただの野盗ではない。


「止まれェェ! 荷物を置いていけば命だけは――」


 先頭の男が叫ぶが、俺は手綱を緩めない。


「止まるな! 突っ切るぞ!」


「了解だ、ボス!」


 隣のダガンが低く答え、御者台から立ち上がる。


 馬車は速度を維持したまま、敵の包囲網へと突っ込んだ。


「野郎ッ! 舐めやがって! 弓隊、射てぇぇ!!」


 ヒュルルルル……ッ!


 数十本の矢が、雨のように馬車へと降り注ぐ。


 普通の護衛なら、ここで足を止めて盾を構え、防戦一方になるところだ。


 だが、今の護衛は普通ではない。


「雨粒に当たらずに走れ……か」


 メイガンが加速した。


「親父のクソ修行に比べれば、こんなの止まって見えるね」


 【瞬身】。


 その姿が蜃気楼のように揺らぎ、放たれた矢の隙間を縫ってジグザグに疾走する。


 彼女は飛来する矢を払うことすらしない。


 ただ当たるはずの場所に彼女がいないだけだ。


 驚愕する弓兵たちの懐に、メイガンは一瞬で潜り込んだ。


「遅い……いや、今のは少しだけ良かった」


 メイガンの声が低く落ちた。


 直前、彼女の頬を一本の矢がかすめ、赤い線を引いていた。


 ズバァァン!!


 一閃。


 次の瞬間には、神速の剣が弓兵たちの武器を次々と叩き折っていく。


 一方、馬車の前方には、長槍や斧を持った近接部隊が立ち塞がった。


「馬を狙え! 足を止めろ!」


 リーダー格の男が、巨大なウォーハンマーを振りかぶり、馬の脚を狙って突進してくる。


 俺が鞭を振るうより早く、御者台からダガンが飛び出した。


 彼は地面に着地すると、迫りくるハンマーの前に敢然と立ちはだかった。


「死ねぇぇ!!」


 敵の全力のハンマーが、ダガンの脳天めがけて振り下ろされる。


 激突の瞬間。


 ガギィィンッ!!


 凄まじい衝撃音が荒野に響いた。


 だが、弾き飛ばされたのはダガンではない。男のハンマーの方だった。


 ダガンは大剣の腹でその一撃を真っ向から受け止め、強靭な腕力で弾き返したのだ。


「なッ……!?」


 男が目を見開く。


「バカな、俺の渾身の一撃を……!」


 大きくのけぞり、体勢を崩す男。


 ダガンは大地を踏みしめ、下半身から背中にかけての強靭な筋肉を一気に連動させた。


「――不動剣・剛返し」


 ブォンッ!!


 弾いた反動をそのまま利用し、さらに背筋で無理やり加速させた大剣が、唸りを上げて横薙ぎに放たれた。


 それは技術を超えた、純粋な筋肉と剛力の連動による超速の切り返しだ。


 ドゴォォォォン!!


 大剣の側面が男の胴体にめり込み、そのままボールのように後方へと吹き飛ばした。


 男は後続の数人を巻き込み、岩肌に激突してようやく止まった。


 ダガンは再び大剣を構え直した。


 だが、その右腕はわずかに痺れていた。


「……重いな」


 彼は拳を握り直す。


「今のは、少しだけ効いた」


 それでも、その目に揺らぎはない。


「なんだあいつら! バケモンか!?」


 敵の陣形が完全に崩壊した。


 そこへ、馬車の中で待機していたジョバーブンとポムキンも加勢に飛び出す。


「へっ、出遅れたか!」


 ジョバーブンが剣を抜く。


「ガンテツ流、岩砕き!!」


 ジョバーブンが敵を切り伏せる横で、ポムキンがその巨体を躍らせた。


 彼は背負っていた鉄塊を両手で振りかぶり、無言で踏み込む。


「……(フンッ!!)」


 ドッゴォォォォン!!


 叩き潰す。


 まさにその表現が相応しい一撃。


 ポムキンの鉄塊が襲いかかってきた山賊を地面ごと粉砕し、その衝撃だけで周囲を宙に舞わせる。


 さらに彼は、鉄塊をブンと横に振るい、群がる敵をまとめて吹き飛ばした。


 神速のメイガン。


 剛力のダガン。


 破壊のポムキン。


 わずか数分の出来事だった。


 三十人の盗賊団はなす術なく壊滅し、生き残りは蜘蛛の子を散らすように逃走した。


「……ふぅ」


 ダガンが剣を収め、走る馬車に飛び乗ってきた。


 メイガンも涼しい顔で戻ってくる。


「どうだいボス。合格か?」


 並走しながらニヤリと笑うメイガンに、俺は俯瞰視を解除して笑みを深めた。


「ああ、満点だ」


 俺は心からの賞賛を送る。


「君たちのお父さんたちも、きっと鼻が高いだろうよ」


 形は違えど、その本質は確実に受け継がれている。


 俺は確信した。


 この護衛団なら、どこまでだって行ける、と。


「ひぃぃ……寿命が縮んだわ……」


 唯一、荷台の隙間でマンダルだけが白目を剥いていた。


 荒野の旅は、まだ始まったばかりだ。



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