表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キングスレイヤー真  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/136

79. 荷台の巨匠と、晩婚の英傑たち

 翌朝。


 空は突き抜けるような青さだが、目の前には赤茶けた荒野が広がっている。


 いよいよ赤土の荒野越えだ。


 俺は腰の巾着から金貨袋を取り出し、スピディに放り投げた。


「スピディ、契約金だ。相場の三倍、きっちり払っておけ」


「へい! 了解っす!」


 スピディが袋を受け取り、嬉しそうに笑う。


「いやぁ、太っ腹なボスを持つと財布の紐が緩くて助かるなぁ!」


 彼がジョバーブンたちに配り始める。


 現金なもので、金を受け取った瞬間、彼らの目の色が仕事モードに変わった。


「さて、出発の陣形だが……」


 俺は今回の総勢を見渡した。


 俺、マンダル、スピディ、ポムキン。


 そして新規加入のジョバーブン、メイガン、ダガン。計七名だ。


 馬車のキャパシティを考えると、全員が乗るのは馬に負担がかかる。


「交代制にしよう。ジョバーブン、メイガン、ダガンのうち一人は馬車の中で休憩。残りの二人は外で並走だ」


「並走って……馬車と同じ速度でか?」


 ジョバーブンが驚く。


「噂に聞くあの二人の子供なら余裕だろ?」


 俺が煽ると、メイガンが不敵に笑った。


「はん、舐めるなよ。準備運動にもなりゃしない」


「俺も問題ない。足腰を鍛えるのにちょうどいい」


 ダガンも力こぶを作る。


 さらに、スピディとポムキンもローテーションに加えることにした。


 御者台には常に二人座る形だ。


「よし。じゃあ食料と水、野営道具を積み込め! 五日分だ、ケチるなよ!」


 傭兵たちがテキパキと荷物を積み込んでいく。


 馬車の荷台は樽や麻袋で埋め尽くされた。


 そして。


「おい! 待て!」


 マンダルが荷物の山を指差して抗議した。


「わしの座る場所がないぞ!?」


 俺はマンダルの背中をポンと押した。


「大丈夫だよマンダルさん。荷物の隙間が一番安全だ」


「扱いが雑! わしは人間国宝級の鍛冶師じゃぞ!?」


「はいはい、乗った乗った」


 俺とポムキンでマンダルを持ち上げ、毛布の山の上に放り込んだ。


 まるで出荷される野菜のようだ。


「出発!」


 俺は御者台に飛び乗った。


 隣で手綱を握るのは、最初の担当のダガンだ。


 スピディとポムキン、ジョバーブンは馬車内。メイガンは外を走っている。


 馬車がガタゴトと動き出し、赤土の大地へと進み出した。


 風が熱を帯びてくる。


 俺は御者台で揺られながら、隣のダガンに話しかけた。


 どうしても聞いておきたいことがあった。


「なあ、ダガン」


「ん? なんだ」


 ダガンは意外と器用に馬を操っている。


 俺は頭の中で年表を整理した。


 俺が死んだのが三十七歳。


 それから空白の二十年を経て、俺は転生し、今六歳だ。


 つまり、俺の死から約二十六年が経過している。


「君は今、二十三歳だと言ったね」


 俺は声のトーンを落とす。


「……お父さんのグレンさんが結婚したのは、いくつくらいの時なんだ?」


 ダガンが二十三歳なら、生まれたのは俺の死後三年目くらいだ。


 当時、グレンは三十五歳だったから、ダガンが生まれた時は三十八歳前後か。


「親父が結婚したのは三十七の時だな」


 ダガンが懐かしそうに言った。


「メイシーさんはもっと遅くて、四十近かったはずだ」


「三十七歳と四十歳……」


 俺は天を仰いだ。


 やっぱりか。


 あの訓練馬鹿ども、俺が死んだ後もすぐには身を固めず、うじうじと独り身を貫いていたのか。


「あの堅物の二人が、よく相手を見つけられたな」


「いや、自分じゃ見つけられなかったらしいぞ」


 ダガンが苦笑する。


「見かねたアサータクさんが、金に物を言わせて無理やり縁談をまとめたんだと」


 俺は思わず吹き出しそうになった。


 アサータク……! さすがだ。


「なんでも、アインクラでも少し婚期を逃していた……」


 ダガンが気まずそうに視線を逸らす。


「言葉は悪いが二十代後半の行き遅れと陰口を叩かれていた女性たちを、アサータクさんが持参金とコネで説き伏せて、親父たちにあてがったらしい」


「強引すぎる……」


「でも、夫婦仲は良かったぞ。ただ、子供はなかなかできなかったみたいだ」


 ダガンが少し声を潜めた。


「超晩婚だったし、親父たちは訓練のしすぎで体が資本の割に、そういう機能が弱ってたらしい」


 彼は少しだけ顔を赤らめる。


「そこでもアサータクさんが、謎の薬を持ってきたんだ」


「……薬?」


「ああ。アーノル直伝の秘薬とかいう怪しい粉薬を飲まされて……その結果、俺とメイガンが生まれた」


 ブフォッ!!


 俺は盛大に咳き込んだ。


 それ、俺が前世でシステムの知識を使って精製した、この大陸には存在しない成分の薬じゃないか!


 強力すぎて副作用が怖いから封印していたレシピを、アサータクのやつ、ここぞとばかりに使いやがったな。


 まさか、友人の子供たちの出生に、俺の知識が一役買っていたとは。


「……そっか」


 俺はなんとか息を整えた。


「グレンさんは今、どうしてる? もう引退して畑仕事か?」


「いや、とんでもない。親父はまだ現役で鍛えてるよ」


 ダガンが首を振った。


「毎朝暗いうちから起きて、畑を耕す前に筋トレだ」


 誇らしげに胸を張る。


「俺はまだ強くなれるって、岩を背負ってスクワットしてる」


「あいつらしいな……」


 俺は嬉しくなった。


 グレンの根性は健在だ。


 そして、並走するメイガンに視線を移した。


「メイガンのお父さん、メイシーさんは?」


 その問いに、ダガンの表情が曇った。


「……メイシーさんは、メイガンがまだ小さい頃に亡くなった」


 俺はダイファーから聞いていたが、それでも淋しく感じた。


「古い古傷が悪化したんだ。親父たちが参加したっていう最後の戦いで、メイシーさんは足の腱をやられていたらしい」


 ダガンが悲しそうに目を伏せる。


「晩年は杖がないと歩けなかった」


 俺の胸が締め付けられた。


 俺を助けようとして、あいつは自慢の足を……。


 その時、横を走っていたメイガンがフンと鼻を鳴らした。


「伝説だなんだと言うけどね、俺は信じちゃいないよ」


「信じてない?」


「ああ」


 メイガンが不機嫌そうに吐き捨てる。


「私が物心ついた時の親父は、一日中縁側で日向ぼっこをしている、ただの足の悪い爺さんだった」


 その声には、寂しさと、少しの苛立ちが混じっていた。


「昔は風より速かったなんて言ってたけど、どう見てもホラ話さ」


 彼女は前を向いたまま続ける。


「形見の剣も錆びついていたし、何も受け継いじゃいない。……ただ、変な訓練だけはさせられたけどね」


「変な訓練?」


「丸太の上に立たされて、四方八方から木の実や石礫を投げつけられるんだ」


 彼女はため息をつく。


「目で追うな、神経で感じろ!って怒鳴られてさ。避け損なうと夕飯抜きだ」


 俺は息を呑んだ。


 それは、ただの反射神経じゃない。


 神経伝達速度そのものを上げる、高等な神経系トレーニングだ。


 動けない体で、メイシーは娘に速さの極意を叩き込んだのか。


「俺もだ」


 ダガンがため息をついた。


「親父も変なこだわりがあってな。動かざること山の如しとか言って、丸太で殴りかかられるんだ」


「丸太で?」


「ああ。それを避けるんじゃなくて、剣の腹で大きく弾いて軌道を逸らし、その反動で斬り返す。……不動剣だ」


 ダガンが自分の大剣をポンと叩いた。


「ただ耐えるだけじゃない。相手の攻撃を完全に殺して、一撃で沈めるカウンター技だ」


 彼は誇らしげに剣の柄を握る。


「地味だが、俺にはこれしかできないからな」


 俺は二人を見た。


 父の偉大さを信じていない娘と、父の泥臭い剣を進化させた息子。


 だが、間違いなくあいつらの魂はここに在る。


「……いいや、ホラ話じゃないさ」


 俺は前を向き、荒野の地平線を睨んだ。


「君たちのお父さんは、間違いなく最強だった。俺が保証する」


「ふん、六歳のガキに何が分かるんだか」


 メイガンが笑い飛ばし、速度を上げて先行した。


 その背中が、かつての親友に重なって滲んだ。


「……よし!」


 俺は感傷を振り払うように声を上げた。


「ちょっと俺にも手綱を貸せ!」


「えっ?」


「伊達に人生二回やってないぞ!」


 俺はあっけにとられているダガンから手綱を奪い取る。


「見てろ、年季の入った馬車捌きを!」


 ピシッと鞭を振るった。


 馬がいななき、速度を上げる。


 赤土の砂煙を巻き上げて、俺たちの馬車は西へと爆走した。


 なんだか、あいつらが背中を押してくれているような気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ