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キングスレイヤー真  作者:


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78. 異次元の血統と、偉大なる商人の影

「その連れっていうのは?」


 俺が尋ねると、ジョバーブンは空になったグラスを振りながら、店の天井を指差した。


「今は外に出てる」


 彼はあくびを噛み殺す。


「あいつら、肉の美味い店があるって聞きつけて、別の店に行っちまったよ」


 ジョバーブンはテーブルに肘をつく。


「まあ、宿はここの二階をとってるから、そのうち帰ってくるはずだ」


「なるほど。じゃあ、ここで飲みながら待ちましょうか」


 俺は近くの広いテーブル席を指差した。


「おごりますよ。これから仲間になるんですから、親睦会です」


「……お前、本当に六歳か?」


 ジョバーブンは怪訝な顔をする。


「話が分かりすぎて怖いんだが」


 ジョバーブンは呆れつつも、酒の誘惑には勝てず、ニヤリと笑って席についた。


 俺はマンダルとスピディ、そしてポムキンも呼んで同じテーブルを囲んだ。


 マンダルはまだ怯えていたが、俺が追加で注文した荒野の特大ステーキと高級エールが運ばれてくると、途端に現金な反応を見せた。


「……ふん。まあ、毒見じゃ」


 彼はフォークとナイフを構える。


「わしが先に食べて安全を確認してやる」


「はいはい、どうぞ」


「うむ! ……ほう、意外と柔らかいなこの肉!」


 マンダルが機嫌を直したので一安心だ。


 俺たちは肉を突きながら、ジョバーブンの修行話や、この辺りの地理についてスピディと語り合った。


 一時間ほど経った頃。


 カランカランと酒場のドアベルが鳴った。


「お、帰ってきたか」


 ジョバーブンが手を振る。


 俺は口元の油を拭き、振り返ってその二人を見た。


 一人は、岩のようにガッシリとした体格で、どこか朴訥とした雰囲気の男。


 そしてもう一人は、小柄だが全身がバネのようなしなやかさを持つ女だ。


 俺は女の方に目を奪われた。


 整った顔立ち。


 ハッとするほど美しいが、その瞳には獲物を狙うような鋭さがある。


 俺は無意識に見る力を発動していた。


(見る力)


【名前:メイガン(21歳)】

【能力:瞬身】


【名前:ダガン(23歳)】

【能力:頑丈】


(……え?)


 俺は思考が停止した。


 瞬身……?


 記憶にある限り、瞬の文字が含まれる能力を持つ人間は、前世で一人しか見たことがない。


 ――メイシー。


 俺と同い年で、自警団の腐れ縁。


 そして、俺が最後まで勝てなかった男だ。


 あいつは【瞬】という能力を持っていた。


 俺の未来視をもってしても、体が追いつかないほどの超高速移動。まさに異次元の男だった。


 そして、何よりこの容姿だ。


 メイシーは、黙っていれば女に間違えられるほどの美形だった。


 本人はそれを酷く嫌がっていたが、このメイガンという女、あいつの顔立ちにそっくりだ。


 隣の男、ダガンも気になる。


 能力は【頑丈】。


 この能力構成と朴訥とした雰囲気……まさか、あいつか?


 メイシーの相棒で、俺より二歳年下の後輩、グレン。


 能力は【農業】だったが、誰よりも体が頑丈で、血の滲むような努力で戦闘ランクCまで上り詰めたド根性男。


(まさか、あいつらの子供か……?)


 俺が呆然としていると、二人がテーブルに来た。


「おいジョバーブン。なんだその宴会は」


 メイガンが、呆れたようにジョバーブンを見下ろす。


「金がないんじゃなかったのかよ」


 男勝りな口調だが、声の端々に隠しきれない女性らしさが滲んでいる。


 そういうところも父親とは逆ベクトルで似ている気がする。


「おうメイガン、ダガン。こいつのおごりだ」


 ジョバーブンが俺を指差す。


「紹介するぜ、俺たちを雇いたいとよ」


 二人が俺を見た。


「……子供?」


「……ずいぶん小さいな」


 二人は顔を見合わせた。


 俺は確信を得るため、席を立って話しかけた。


「初めまして。アルヴィンです」


 俺は笑顔を作る。


「君たちがジョバーブンさんのお仲間ですね?」


「ああ。俺はダガン。こっちはメイガンだ」


 ダガンが太い腕を差し出してきた。


 握手すると、ゴツゴツとした硬い掌だった。


 父親と同じ、努力する人間の手だ。


「失礼ですが、お二人はどちらの出身で?」


 俺は核心を突く質問をした。


 もし彼らがメイシーたちの子供なら、故郷はクルム村のはずだ。


「ん? 俺たちは北の……アインクラだが」


 ダガンがあっさりと答えた。


「……え、アインクラ?」


 俺は拍子抜けした。


 鍛冶の町アインクラ。マンダル爺さんの目的地だ。


 クルム村ではないのか。


(……違ったか。他人の空似か?)


 俺が少し落胆しかけた、その時だった。


 隣で高級エールをガブ飲みして出来上がっていたマンダルが、テーブルに突っ伏しながらうわ言を呟いた。


「うぅ……クルム村……」


 彼はよだれを垂らす。


「わしのカブ畑ぇ……。いつになったら帰れるんじゃぁ……」


 その言葉に、メイガンとダガンがピクリと反応した。


「……おいダガン。今の爺さんの言葉、聞いたか?」


「ああ。クルム村って言ったな」


 メイガンが少し考え込むように顎に手を当てた。


「親父たちが生まれた場所って、確かそこじゃなかったか?」


「ああ、そうだな。アサータクさんもそう言ってた」


 俺の心臓が跳ねた。


 アサータク。


 その名前を聞いた瞬間、全身に電撃が走った。


 前世、ヨンドカ王国で一代にして巨大な商会を築き上げた大商人。


 俺にとっては、商人としての師匠であり、兄貴のような、友人のような存在だった。


 そして、今世で俺の協力者となってくれているザイクとリリの父親でもある。


(アサータクさんが、あいつらと繋がってる……?)


 俺は興奮を抑えながら話に割って入った。


「お二人のご両親は、クルム村のご出身なんですか?」


「ああ、そうらしい。俺たちは行ったことねぇけどな」


 ダガンが頷く。


「親父たちは昔、アインクラに移り住んだんだ。そこで俺たちが生まれた」


「……アサータクさんという方が、その経緯をご存知なんですか?」


「ああ。アサータクさんは親父たちの命の恩人だからな」


 メイガンが説明してくれた。


 彼女たちの話によると、父メイシーとグレンは、若い頃にとある最後の戦いで瀕死の重傷を負ったらしい。


 もう助からないと思われたその時、アサータクが駆けつけ、ある人物から教わった薬の知識を総動員して治療を行い、奇跡的に命を取り留めたのだという。


 その後、傷を癒やすために近くで静養していた二人だが、アサータクがお前らもそろそろ身を固めろと強引に良縁を持ち込んだ。


 その相手がアインクラの職人の娘たちだったため、二人は結婚を機にアインクラへ移住したのだそうだ。


(……なるほど。そういうことか!)


 俺は胸が熱くなった。


 アサータクさんが、俺の知識を使ってあいつらを救ってくれていたのだ。


 そして、結婚まで世話を焼いて、こうして命を繋いでくれた。


「……素晴らしい話ですね」


 俺の声は少し震えていたかもしれない。


「ぜひ、僕たちの護衛をお願いします」


 俺は二人を見据える。


「話に聞く神速と不屈の血筋、そして偉大なる商人が繋いだ縁を持つあなたたちなら、百人力です」


「ふん、口の上手いガキだね」


 メイガンがフッと笑った。


 その笑顔が、かつての親友に重なって見えた。


 俺は小声でマンダルに耳打ちした。


「マンダルさん、起きて。こいつら、メイシーとグレンの子供だってさ」


「……んご? ……なに?」


 マンダルが眠そうな目をこすり、二人を見た。


「メイシーと……グレン……?」


 その瞬間、マンダルの目がカッと見開かれた。


 酔いが一瞬で醒めたようだ。


「ぶふぅッ!!」


 マンダルが椅子から転げ落ちそうになる。


「な、なんじゃと!? あの戦闘狂どもの!?」


「た、確かに……」


 震える指でメイガンを指す。


「その目つき、メイシーにそっくりじゃ……。あの女顔の……いや、美形の……」


「あ? 今なんて言った爺さん?」


 メイガンがギロリと睨む。


 マンダルはひぃっと首を振った。


「な、なんでもない!」


 彼は慌てて取り繕う。


「……しかし、そうか。あいつらの子供か……」


 マンダルは感慨深そうに二人を見つめた。


 かつての友の忘れ形見。


 こんな荒野の果てで出会うとは、運命というのは面白いものだ。


「よし、契約成立だ!」


 俺が高らかに宣言する。


「今日は飲むぞ! 経費でな!」


 ジョバーブンたちが「おおー!」と歓声を上げた。


 最強の護衛団、ここに結成である。




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