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キングスレイヤー真  作者:


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75. 街道の悪と鉄壁の拒絶

 セロンの街を出発した翌日。


 俺たちを乗せた馬車は、西へと伸びる街道を順調に進んでいた。


 空は快晴。絶好の旅日和だ。


 だが、車内の空気はどんよりと曇っていた。


「……おい、アルヴィン」


「どうしたの、マンダルさん。朝食の焼きたてパン、美味しかったでしょ?」


「美味かった」


 マンダルは深く息を吐き出す。


「……美味かったが、騙されんぞ」


 恨めしそうにジト目を向けてくる。


「わしは地図を見たぞ」


 彼は窓の外を指差した。


「この道、真っ直ぐ行くと嘆きの峠と呼ばれる難所があるそうじゃないか」


 顔を顰める。


「名前からして不吉じゃ。引き返そう。今ならまだ間に合う」


「大丈夫だよ。名前負けしてるだけだって」


 俺は笑顔で返す。


「本当は歓喜の峠に改名申請中らしいよ」


「嘘をつけ!」


 マンダルが怒鳴る。


「さっきすれ違った商人が、山賊が出たぞー!って叫んで逃げていったわ!」


 マンダルの聴覚は鋭い。


 確かに、先ほどから対向車線の馬車がやけに慌ただしい。


「気にしすぎだよ。山賊だって生活があるんだ」


 俺は肩をすくめる。


「こちらの身なりが貧しければ見逃してくれるさ」


「わしらは今、ピカピカの馬車に乗っておるんじゃが!?」


「あ、そうだった」


 俺がテヘッと笑うと、マンダルが頭を抱えた。


「ああ……わしの老後が……カブの収穫が……」


 その時だった。


 小窓がコンコンと叩かれた。


「ボス! お客さんでーす!」


 スピディの能天気な声と共に、馬車がキキーッ! と急ブレーキをかけた。


 慣性の法則に従い、マンダルの顔面が前の座席にめり込む。


「ふぐっ!?」


「マンダルさん、大丈夫?」


「……だ、大丈夫なわけあるか……!」


 マンダルが鼻を押さえながら窓の外を見る。


「な、なんじゃ、何が起きた!?」


 そこには、定番とも言える光景が広がっていた。


 道を塞ぐように倒された大木。


 そして、その周りに群がる薄汚い男たち。


 斧や錆びた剣を持った、絵に描いたような山賊団だ。


 数は十五人ほどか。


「ヒィィィッ!!」


 マンダルが絶叫し、座席の下に潜り込もうとする。


「ほれ見たことかァァァ!!」


 彼はガタガタと震え出した。


「終わりじゃ! 身ぐるみ剥がされて、わしらは奴隷として売られるんじゃ!」


 頭を抱えて丸くなる。


「老人の奴隷なんて需要ないから即処分じゃー!」


「落ち着いて。意外と需要はあるかもしれないよ?」


「なんの慰めにもなっておらんわ!」


 外から、山賊のリーダーらしき男のドスの効いた声が響いた。


「おいコラァ! 降りてこい!」


 男は剣を振り上げる。


「通行料を払えば命だけは助けてやる! ……金目の物と、食料を全部置いていけ!」


 俺はため息をつき、小窓を開けた。


「スピディ。どうする? 突破できる?」


「んー」


 スピディは顎を撫でる。


「倒木があるんで強行突破は車軸がイカれますねぇ」


 彼は冷静に状況を評価している。


「それに、あいつら道を塞ぐ手際がいい。プロっすよ」


 そして、ニヤリと笑った。


「掃除します?」


「そうだね。時間の無駄だ」


 俺はドアを開け、外に出た。


「おい、子供が出てきたぞ!」


「ガキかよ! 親はどうした!」


 山賊たちがゲラゲラと笑う。


 俺は笑顔で手を振った。


「こんにちは、お兄さんたち。通行料っていくら?」


 リーダーらしき男が、ニタリと笑いながら近づいてくる。


「おう、話の分かるガキだな。金貨五十枚だ」


「高いなぁ。まけてくれない?」


「あぁ? ふざけてんのか?」


 男は苛立たしげに舌打ちした。


「……おい、その馬車の中も調べろ!」


 手下たちが馬車に近づこうとする。


 その瞬間。


 ドスン。


 馬車の反対側の扉が開き、地面が揺れた。


 ゆっくりと姿を現したのは、フードを目深に被った巨躯。


 ポムキンだ。


 彼は無言のまま、背中に背負っていた鉄塊を引き抜いた。


 刃のついていない、ただの分厚い鉄板のような大剣だ。


「……あ?」


 山賊たちの動きが止まった。


 彼らは首をゆっくりと上に向け、ポムキンの見上げるような巨体を確認する。


 ポムキンは身長二メートル超え。


 対する山賊は平均的な体格。


 大人と子供ほどの差がある。


「な、なんだコイツ……デカいな」


「おい、ただの護衛じゃねぇぞ……」


 山賊たちがジリジリと後退る。


 ポムキンは一言も発しない。


 ただ、不機嫌そうに大剣を構え、一歩踏み出した。


「ひ、怯むな!」


 リーダーが震える声で号令をかける。


「図体がデカいだけのウドの大木だ! やっちまえ!」


 数人の手下がうおおお!と叫びながら斬りかかった。


 ガギィィン!!


 鋭い金属音が響く。


 山賊の剣が、ポムキンの差し出した鉄塊に阻まれていた。


 ポムキンは表情一つ変えず、ただ盾のように大剣を構えているだけだ。


「くっ、硬ぇ!」


「なんだこの剣!?」


 山賊たちが攻めあぐねる。


「厚さが壁じゃねぇか!」


 するとポムキンは、大きく息を吸い込み、鉄塊を横に薙ぎ払った。


 ブォンッ!


 重い風切り音が唸る。


 山賊たちは慌てて飛び退いた。


 直撃すれば骨が砕ける重さだと本能で悟ったのだ。


 ポムキンの一撃は空を切り、そのまま街道脇の岩に叩きつけられた。


 ドゴォォォン!!


 岩が粉々に砕け散り、破片がバラバラと降り注ぐ。


 その破壊力に、山賊たちの顔色が青ざめた。


「……」


 静寂。


 ポムキンは、砕けた岩から剣を引き抜き、再び静かに構えた。


 次は人間を砕く、と無言で語っているようだ。


「ば、バケモノ……」


「勝てるかこんなの!」


 山賊の一人が悲鳴を上げる。


「逃げろォォォォ!!」


 誰かが叫んだのを合図に、山賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 倒木も乗り越え、リーダーも部下を置いて一目散に走り去る。


 一瞬で街道は静かになった。


「……ふぅ」


 ポムキンが小さく息を吐いた。


 さすがに鉄塊を振り回すのは体力がいるらしい。


 額に汗が滲んでいる。


 彼は鉄塊を背中に戻し、俺に向かってコクりと頷いた。


「ありがとう、ポムキン。助かったよ」


 俺が声をかけると、彼は少し照れくさそうに頭をかいた。


 その様子を、馬車の窓から恐る恐る覗いていたマンダルとスピディ。


「……アルヴィンよ」


「なに?」


「あの男、人間か?」


 マンダルはポムキンを指差す。


「熊か何かが化けているのではないか?」


「人間だよ。ちょっと規格外に鍛えてるだけだ」


 マンダルは世の中には怖い奴が多すぎる……と呟き、再び座席に沈み込んだ。


 スピディは口笛を吹きながら、倒木の前まで歩いていった。


「へへっ、さすがポムキンの旦那!」


 彼は倒木を叩く。


「でも、この木は重そうですねぇ。手伝いますぜ」


「ポムキン、いける?」


 ポムキンが無言で倒木に近づき、腰を落として抱えた。


 スピディも反対側を持つ。


「せーの、ふんッ!」


 二人がかりで、なんとか大木を道の脇へと押しやった。


 ポムキンも人間だ。重いものは重いらしい。


「よし、行こうか」


 俺は馬車に戻った。


 マンダルが、悟りを開いたような顔で俺を見た。


「……わしはもう驚かんぞ」


 彼は遠い目をする。


「たとえ巨大な熊が現れても、お前なら毛皮にしようとか言い出すんじゃろうな」


「いいアイデアだね。冬に向けてコートが欲しいところだ」


「肯定するな!」


 マンダルが再び叫ぶ。


「帰りたい! 村に帰りたいぃぃ!」


 マンダルの悲痛な叫びを乗せて、馬車は再び走り出した。


 アクシデント所要時間、約五分。


 旅は順調そのものだった。


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