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キングスレイヤー真  作者:


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72. 父の許可と、選ばれし供回り

 コジインでの引き継ぎを終えた俺は、屋敷に戻るとその足で父の執務室へと向かった。


 父マーランと数人の文官たちが、書類の山と格闘している。


 今の父の顔には、自分の才覚で家を動かしているという充実感が満ち溢れていた。


「お父様、お忙しいところ失礼します」


「ん? おお、アルヴィンか」


 父はペンを置き、目元を揉みほぐしながら笑顔を見せた。


「どうした? また新しい発明でも思いついたか?」


「いいえ。今日は出張の許可をいただきに来ました」


 俺は単刀直入に切り出した。


「北の鍛冶の町、アインクラへ行きたいんです。マンダル爺さんを連れて」


「アインクラへ?」


 父は少し驚いたように眉を上げた。


「あそこまでは馬車を使っても結構かかるぞ」


 懸念を示すように言葉を続ける。


「ナバラ帝国との国境近くじゃないか。……目的は?」


「技術視察と、新しい素材の調達です」


 俺は淀みなく答える。


「今の石鹸製造ラインやウイスキーの樽には、もっと高品質な金属部品が必要です。それに、マンダル爺さんの気晴らしも兼ねてまして」


 半分は本音、半分は建前だ。


 父は少し考え込んだが、やがて頷いた。


「……なるほど。お前がそう言うなら、将来への投資として必要なことなのだろう」


 父は真剣な眼差しで俺を見た。


「だが、お前はまだ六歳だ。道中の危険は領内の比ではないぞ」


「はい、分かっています」


「許可は出す」


 父は条件を突きつけた。


「ただし、必ず護衛を連れて行くこと。それも、信頼できる腕利きをだ。……それが条件だ」


 予想通りの回答だ。


 俺は一礼し、部屋を辞した。


 その足で、私兵団の詰め所へと向かった。


 中では、隊長のコンゴウが地図を広げて警備計画を練っていた。


「コンゴウ隊長」


「おや、アルヴィン様。本日はどのようなご用件で?」


 厳つい顔の巨漢が、椅子から立ち上がり敬礼する。


 俺はアインクラへの旅のこと、そして護衛が必要なことを伝えた。


「……なるほど。長旅になりますな」


「うん。でも、あまり大所帯にはしたくないんだ」


 俺は要望を伝える。


「動きが鈍くなるし、目立ちすぎる。僕としては、少数精鋭で行きたい。できれば二人だ。必要なら途中で傭兵でも雇えばいいと思ってる」


 俺の言葉に、コンゴウは腕を組んで唸った。


 護衛対象が子供一人に老人一人。


 それを二人で守るとなれば、相当な実力者でなければならない。


「ならば、一人はこいつしかおりますまい」


 コンゴウは迷わず、訓練場の一角を指差した。


 そこでは、丸太のような腕をした大男が、黙々と素振りをしていた。


 彼が振るっているのは、剣というよりは鉄の塊と呼ぶべき、分厚く巨大な大剣だ。


「ポムキンです」


 俺は目を細め、見る力を発動した。



【名前:ポムキン(25歳)】

【能力:剣士】

【戦闘力:B】


 驚いた。


 戦闘Bといえば、国でもトップクラスの軍人レベルだ。


 この巨体でそのクラスなら、さぞかし破壊力があるのだろう。


「あいつは無口ですが、腕は確かです」


 コンゴウが太鼓判を押す。


「あのふざけた大きさの鉄塊を小枝のように振り回し、凶暴な獣だろうが盗賊だろうが、一撃で叩き潰します」


 彼は頼もしそうにポムキンを見つめる。


「何より打たれ強い。もしもの時は、あいつが文字通り肉の壁となって敵を食い止め、命に代えてもアルヴィン様を逃がす時間を稼ぐでしょう」


「分かった。一人はポムキンにするよ」


 俺は顎に手を当てた。


「……さて、あと一人はどうするか」


 戦闘要員はポムキンで十分だ。


 となると、もう一人は情報収集や斥候ができるタイプがいい。


 影の薄いナビルあたりが適任か。


「ボ、ボスゥゥゥゥ!!」


 俺が考えを巡らせていると、詰め所の外から悲鳴のような声が聞こえてきた。


 ドタドタという足音と共に飛び込んできたのは、御者兼雑用係のスピディだ。


「連れてってくださいよぉ!」


 彼は涙目で叫ぶ。


「俺を置いてくなんて水臭いじゃないですかぁ!」


「……スピディ、どこで聞きつけた」


「地獄耳が俺の取り柄ですから!」


 スピディは俺の足元に滑り込み、懇願した。


「旅には御者が必要でしょう!? 知らない道を走るなら、俺の馬車捌きが一番役に立ちますって!」


「まあ、それはそうだけど……今回は危険な旅になるかもしれないし」


「へっちゃらですよ!」


 彼は胸を張る。


「それに、野営の料理も、荷物の管理も、現地の宿の手配も、全部俺がやります。ナビルなんて連れて行っても、あいつ暗いから旅が盛り上がりませんよ!?」


 必死すぎる。


 だが、冷静に考えれば悪くない選択だ。


 ナビルは優秀だからこそ、俺が不在の間、コジインや領内の不審な動きを見張る留守番として残しておきたい。


 それに、このスピディ。


 ただのお調子者に見えるが、俺の鑑定眼では【速】の能力が見えている。


 戦闘シーンを見たことはないが、おそらく戦わせても結構強いはずだ。


 少なくとも、逃げ足に関しては誰にも負けないだろう。


「……はぁ。分かったよ」


 俺は根負けした。


「二人目はスピディ、お前だ」


「やったぁぁ! さすがボス!」


 スピディがガッツポーズをする。


「一生ついていきます!」


 俺は苦笑しつつ、コンゴウに向き直った。


「というわけで、ナビルには屋敷に残って情報収集を続けてもらうように伝えてくれ」


 俺は指示を出す。


「あと、コンゴウ隊長にも留守中のコジインの警備をお願いしたい」


 コンゴウが力強く頷いた。


「アルヴィン様が戻られるまで、蟻一匹通さぬよう守りを固めておきます」


 これで守りは完璧だ。


「よし。スピディ、すぐに旅の準備だ」


 俺は新たな供回りに声をかける。


「食料と野営道具、それと着替えを多めに頼む」


「へい! 任せてくだせぇ!」


 スピディが元気に答える。


「最高に快適な旅にしてみせやす!」


 スピディが風のように飛び出していった。


 ポムキンもコンゴウから話を聞き、無言で深く一礼してくれた。


 準備は整った。


 あとは、あの気難しい鍛冶師を引っ張り出すだけだ。


「……さて、マンダル爺さんのところに行くか」


 俺は詰め所を後にし、工房の方角へと歩き出した。




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