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キングスレイヤー真  作者:


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71. 兄弟の盟約と、小さな防人たち

 旅立ちを決めた俺は、すぐに行動を開始した。


 屋敷の前で待機していた馬車に乗り込む。


 コジインは屋敷の敷地内ではなく、少し離れた川のそばにあるため、移動には馬車が必要だ。


 夏の日差しが降り注ぐ中、馬車は土煙を上げて走り出した。


 到着したコジインからは、川のせせらぎと共に、子供たちの元気な声と活気のある作業音が響いてきていた。


 中に入ると、そこはさながら小さな工場と化していた。


「ほら、そこ手が止まってるよ!」


 コバンの鋭い声が飛ぶ。


「箱詰めは丁寧に、かつ迅速にだ!」


「へいへい、分かってるよコバン」


 広間のテーブルには完成した石鹸が山積みにされ、子供たちが手際よく紙箱に詰めている。


 その指揮を執っているのは、八歳の少年コバンだ。


 【商業】の能力を持つ彼は、金になると分かった途端、俺が引くほどの情熱で労働管理を行っていた。


「ボス! お疲れ様です!」


 俺に気づいたコバンが駆け寄ってくる。


 その手には帳簿が握られていた。


「どうだ、状況は」


「順調そのものです」


 コバンが胸を張る。


「ランダルさんが工程を簡略化してくれたおかげで、俺たち子供でも仕上げ作業ができるようになりました」


 彼は手元の帳簿を差し出した。


「……これ、今月の売上予測です」


 渡された帳簿を見て、俺は満足げに頷いた。


 子供の小遣い稼ぎというレベルではない。


 立派な事業収益だ。


 これなら施設の食費や被服費、そして将来のための貯蓄も十分に賄える。


「完璧だ」


 俺は彼を見下ろした。


「……コバン、僕がしばらく留守にする間、金回りの管理はお前に任せる」


「えっ、ボスがいなくなるんですか?」


「少し遠出をしてくる」


 俺は念を押すように告げる。


「……だから、お前がここの金庫番だ。無駄遣いはするなよ?」


「任せてください!」


 コバンは目を輝かせて胸を張った。


「一銅貨たりとも無駄にはさせませんよ!」


 彼になら任せられる。


 守銭奴なのが玉に瑕だが、横領の心配はないだろう。


 広間を抜けて裏庭に出ると、そこには珍しい客が来ていた。


「……なるほど。これがアルヴィンが作った組織か」


「驚いたな」


 別の声が続く。


「ただの遊び場だと思っていたけど……統率が取れている」


 腕組みをして訓練場を眺めているのは、長男のソーバンと、次男のナンブルだ。


 二人とも、いつもの勉強着ではなく、少し動きやすい格好をしている。


「兄さんたち? どうしてここに?」


 俺が声をかけると、二人は振り返った。


 ソーバン兄上は、少しバツが悪そうに咳払いをした。


「……父上がな」


 気まずそうに視線を逸らす。


「お前たちも部屋で計算ばかりしていないで、アルヴィンのやっていることを見てきなさいと言うんだ」


「気分転換も兼ねて、視察に来たんだよ」


 ナンブル兄さんが補足する。


 なるほど、父上の差し金か。


 俺が旅に出る前に、兄弟間の連携を深めさせようという意図だろう。


「歓迎するよ」


 俺は顎で訓練場をしゃくった。


「……どう? 僕の自慢の庭は」


 俺が示す先では、ドランが全体指揮を執り、ザックたちが年少組に稽古をつけている。


 その動きは、正規の兵士訓練にも劣らない。


「……正直、驚いたよ」


 次期当主であるソーバン兄上が、真剣な眼差しで言った。


「アルヴィン。お前はただ孤児を養っているだけじゃないんだな」


 探るような視線を向けてくる。


「……これは、アケニース家の将来の戦力を育てているのか?」


「半分は正解」


 俺は首を振る。


「半分は、彼らが自立して生きていける力をつけているだけだよ」


 俺はフェンスに寄りかかった。


「兄さん。僕はしばらく旅に出る」


 行き先を告げる。


「マンダル爺さんを連れて、北のアインクラや、さらに遠くへ行くつもりだ」


「旅だって!?」


 ソーバン兄上が目を見開く。


「まだ六歳だぞ!」


「父上の許可は取るよ」


 俺は静かに答える。


「それに、今の僕には守りたいものが増えすぎたからね」


 拳を軽く握る。


「……力をつけてくる必要があるんだ」


 俺は二人の兄を真っ直ぐに見た。


「僕がいない間、ここのことを頼めるかな」


 頼み事の核心を突く。


「コバンの金管理は完璧だけど、対外的な交渉や、大人の事情が絡むトラブルがあった時、アケニース家の看板が必要になる」


「……ふん」


 ソーバン兄上は鼻を鳴らし、しかし口元を緩めた。


「生意気な弟だ」


 少しだけ得意げに笑う。


「……だが、王都であれだけ助けられたんだ。借りを返さないわけにはいかないだろう」


「ああ」


 ナンブル兄さんも胸を叩いた。


「父上の仕事も一段落したし、こっちは任せておけよ」


 頼もしい。


 二人は【計算】や【数】といった事務処理能力に特化している。


 現場のドランたちと、経営陣の兄たちが連携すれば、コジインの運営は盤石だ。


 訓練場の一角では、ひときわ激しい打ち合いが行われていた。


「ふんッ! せいッ!」


「……むぐむぐ」


 呑気な咀嚼音が聞こえる。


「やるねぇ、まるちゃん!」


 鋭い突きを繰り出しているのは、八歳の少年マルディ。


 それを木の枝一本で軽くいなしながら、片手で蒸し芋を食べている少女、ロリーナだ。


 近所の英雄ロバーソンの孫であり、【槍神】の能力を持つ彼女は、まだ六歳という幼さながら、その戦闘力は大人顔負けだ。


「はぁ、はぁ……!」


 マルディが息を切らす。


「くそっ、全然当たらない!」


「あたりまえだよー」


 ロリーナが芋を頬張る。


「まるちゃんのけんは、まっすぐすぎるの」


 枝を軽く振ってみせる。


「もっとこう、おイモの皮をむくみたいに、するーって……」


 ゴクリと飲み込む。


「……んぐっ、おいし」


 ロリーナは指導しながら完食した。


 俺が近づくと、二人は動きを止めた。


「あ、アル様!」


 ロリーナがパッと笑顔になり、駆け寄ってくる。


 マルディも慌てて直立不動で敬礼した。


「調子はどうだ、マルディ」


「はい!」


 マルディが声を張り上げる。


「ロリーナ嬢に稽古をつけてもらっていますが……強すぎます!」


「あはは、彼女は天才だからね」


 俺はマルディの肩に手を置いた。


「マルディ。僕はしばらく旅に出る」


「えっ!?」


 マルディが慌てて身を乗り出す。


「な、なら俺もお供を!」


「いや、お前はここに残れ」


 俺は彼を見据えた。


「旅には護衛の私兵たちを連れて行く。だから、ここを守る剣が足りなくなる」


 彼に重い役割を突きつける。


「……お前がみんなを守るんだ。できるか?」


「……御意!」


 マルディは力強く答えた。


「この命に代えても、コジインとアケニースの地を守り抜きます!」


 【忠誠】を持つ彼にとって、主君からの留守を任せるという命令は、最大の信頼の証なのだ。


 そして、俺の足元に何かがしがみついた。


 四歳の少女、アイーシャだ。


 能力【誓】を持つ彼女は、無口だがいつも俺の影のように寄り添ってくる。


「……ある様、いくの?」


「うん。すぐ戻るよ」


「……やくそく?」


「ああ、約束だ」


 俺が小指を差し出すと、彼女は小さな小指を絡めてきた。


 言葉は少ないが、彼女の瞳には強い信頼の色があった。


「アル様ー」


 ロリーナが、空になった芋の皮を握りしめて俺を見上げた。


「いくなら、ちゃんと帰ってきてね」


 彼女は心配そうな顔を作る。


「……アル様がいなくなったら、ここでおやつが出なくなるかもしれないし」


「そこかよ」


 俺は苦笑した。


「……ま、お土産は期待してていいぞ。アインクラには美味いレストランがあるらしいからな」


「ほんと!?」


 ロリーナの目が星のように輝いた。


「ぜったいね!?」


 お土産のためなら、彼女も全力でここを守ってくれるだろう。


 最後に、俺は施設全体を見渡せる場所にいる、年長組の二人を呼んだ。


 リーダー格のザックと、副リーダー的な立ち位置のドランだ。


「二人とも、聞いてくれ」


「改まってどうしたんだよ、アルヴィン」


 ザックが首を傾げる。


 俺はこれからの旅のこと、そして留守中のことを伝えた。


「というわけだ」


 二人を見渡す。


「ドラン、ザック。僕がいない間、みんなを頼む」


「……ああ、分かった」


 ザックが拳を握る。


「ここはお前が作った場所だ。指一本触れさせねぇよ」


「任せてください、アルヴィン様」


 ドランも静かに頷く。


「訓練は緩めませんから」


 二人は頼もしく頷いてくれた。


 そして、施設の入り口で俺たちを見守っていたクロブ先生にも声をかける。


「クロブ先生、全体の管理をお願いします」


 最後に大人である彼に頭を下げる。


「兄さんたちとも連携をとって」


「承知いたしました」


 クロブ先生が優しく微笑む。


「アルヴィン様も、道中お気をつけて」


 一通りの確認を終え、俺は馬車へと戻った。


 兄たち、ドランやザック、そして小さな仲間たち。


 俺が守るべき場所。そして、俺の帰りを待ってくれる場所。


 前世の旅は、ただ世界を見聞するためのものだった。


 だが今回は違う。


 帰るべきホームがあり、守るべきものがある。


「……よし」


 俺は拳を握りしめた。


 この場所を守るためなら、神だろうが他国だろうが、全力で相手をしてやる。


 俺は屋敷へと戻る馬車の中で、次なる一手を考えていた。


 あとは父上に許可を取り、マンダルと護衛たちを叩き起こして出発するだけだ。


 目指すは北。


 鍛冶の街アインクラ。


 そしてその先にある、ナバラ帝国と禁域の森。


 いよいよ、世界を巡る新たな旅が始まる。





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