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キングスレイヤー真  作者:


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63. 俯瞰する眼と、泡立つ野望

 ポルム教国への道中、俺たちを乗せた馬車は街道をひた走っていた。


 御者はスピディ。


 馬車の中には俺と、窮屈そうに体を折りたたんで座るポムキン。


「……狭くない?」


「(フルフル)」


 ポムキンは首を横に振ったが、天井に頭が擦れている。


 馬車が段差を越えるたびに、ゴツンという鈍い音が響いていた。


 移動の暇つぶしに、俺は以前覚醒した能力の練習をすることにした。


(……見る力、俯瞰視)


 意識を集中すると、ブゥン、と視界が切り替わった。


 自分の肉体を離れ、上空数十メートルからの映像が脳内に流れ込んでくる。


 眼下を走る馬車が、マッチ箱のように小さく見えた。


 敵の配置を察知するには最高の索敵スキルだ。


(……うっ、酔うな)


 だが、カクカクとした動きで高度維持も難しい。


 視界が地面に突っ込んだり、上に飛んでいったりする。


 戦闘中にこの視界を制御するのは至難の業だろう。


 数分で能力を解除し、こめかみを揉んだ。


 視界が正常に戻ると、今回の旅の裏の目的へと意識を向ける。


 金だ。


 孤児院の運営などで、出ていく金は増える一方だ。


 手軽に作れて、利益率が高い即金になる商品。


 俺はすでに、その答えを弾き出していた。


 旅の荷物から、貴族御用達とされる最高級品の石鹸を取り出す。


 洗浄力も弱く、洗った後の肌はギシギシと軋む。


 この程度の代物が最高級としてもてはやされているのが、今のこの世界だ。


 俺の持つ知識と素材、そして市場を組み合わせる。


 しっかりとした固形化による使いやすさ。


 獣臭さを完全に消し、精油を練り込んだ良い香り。


 植物油をベースにした保湿力と、確かな洗浄力。


 透明度を上げたり、色を変えたりする美しい見た目。


 原価は安く、付加価値は無限大だ。


 正確な製法さえ分かれば、我が領地の絶対的な主力商品になる。


 これから行く場所には、その完璧な答えを知っている全知の存在がいる。


 数日後。


 俺たちはポルム教国の聖都に到着した。


 馬車が停まり、扉を開けようとしたその時だ。


 出迎えた神官が、血相を変えて窓にすがりついてきた。


「アルヴィン様!」


「どうしたの、そんなに慌てて」


「ご説明せねばなりません!」


 神官は脂汗を拭い、声を震わせた。


「絶対の盾である守護の力が枯渇すれば、暗殺の恐怖に駆られた王たちは疑心暗鬼に陥ります」


「自らを守るため必ず他国へ先制攻撃を仕掛け、大陸が凄惨な戦争の炎に包まれてしまうのです!」


 なるほど、王たちの首輪が外れるということか。


「分かった。すぐに燃料を補給してくるよ」


 俺は馬車を降り、すぐさま大聖堂の地下へと通された。


 暗く湿った階段を降りきると、白く無機質な通路が広がっている。


 案内してくれた神官は、祭壇への扉の前で立ち止まった。


「ここから先は、我々には入れません」


「任せてよ」


 俺は一人で重厚な扉の前に立った。


 近づくだけで、扉は音もなくスライドする。


『――生体ID、照合!』


『適合率99.9%! この波長、この魂の輝きは……!』


 脳内に、やたらとテンションの高い声が響き渡った。


『お帰りなさいませぇぇぇッ!! マイ・マスター! アルヴィン様!!』


 ドーム状の制御室に入ると、中央のコンソールが激しく明滅していた。


「よう。元気そうだな」


『元気!? もちろんですとも!』


『今日はどのようなご用件で? 世界征服ですか?』


「外で教国の連中が、力が枯渇したって大騒ぎしてるんだが」


 システムはピタリと明滅を止め、心底不思議そうな声を上げた。


『は? 枯渇? 誰がそんなデマを?』


『ご覧くださいこの美しいグラフ!』


『メインジェネレーターは絶好調ですよ? 枯渇なんてありえません』


「じゃあ、なんであいつらの持ってる守護の力への充填が止まったんだ?」


 俺は神官に預かったクリスタル装置をコンソールに乗せた。


『ああ、そのオマケ機能ですか』


『ここ最近、誰もここまで持ってこないじゃないですか』


「持ってこれないんだよ」


「お前のセキュリティが高すぎて、教国の連中じゃ扉すら開かないんだ」


『ああー、なるほど!』


『あの扉の外でウロウロしていた背景雑音、あれがそうでしたか!』


『要するに、無視です』


 俺はため息をついた。


「悪いけど、俺が持ってきたこれに充填してやってくれないか?」


『……まあ、アルヴィン様の命令とあらば! 特別ですよ!』


 コンソール上のクリスタルが、眩い光を放ち始めた。


「なあ、俺以外にこの扉を開けられる適合率が高い人間を作る方法はないのか?」


『ほう? それは子作りのシミュレーションをご所望で?』


「俺の血を引く子供ならどうなんだ?」


『ふむ……改めて見ても、貴方様の魔力量はミジンコレベルですね』


『結論から言うと、貴方様の子供では高適合者は望めません』


 システムは断言した。


『高適合者を作るための条件は二つ』


『一つは、ポルム様の直系因子を持つ者同士で子供を作ること』


『もう一つは、相手の魔力量が極端に少ないこと』


『魔力が高い相手と結ばれると、因子は負けてただの魔術師が生まれます』


「……つまり?」


『貴方様よりさらに魔力が低く、因子の邪魔をしない相手など探す方が難しいですよ』


 俺は頭を抱えた。


 子供にこの役目を引き継がせるのはほぼ不可能ということだ。


「諦めるよ。毎年ここに来ることにする」


『ええ、それが一番です! 私も毎年お会いできるのを楽しみにしています!』


「よし、本題だ。検索をお願いしたい」


『今度はなんです?』


「これを作りたい。この世界で手に入る素材を使って、最も効率的かつ高品質に精製するレシピを教えてくれ」


「香り、保湿、洗浄力、すべてにおいて最高峰の石鹸だ」


『…………はい?』


『私の、この銀河最高峰の演算能力を使って……泡の出る固形物の作り方を?』


「毎日使うんだから。お前だって、汚れたままじゃ嫌だろ?」


『アルヴィン様は本当に、無駄なことに全力というか……』


 システムはやれやれといった風にデータを吐き出した。


『最適解を表示します』


 空中に、化学式と配合リスト、温度管理のグラフが羅列された。


 完璧だ。


 これさえあれば、科学的に最高品質の石鹸が作れる。


「プリントアウトします? 紙、出します?」


「いらない」


 俺は自分のこめかみを指差した。


「もう覚えた」


 俺には完全記憶がある。


『……出た。変態スペック』


「サンキュー、助かったよ」


 俺はコンソールを叩き、踵を返した。


『ああっ、もう行っちゃうんですか!?』


「急ぎなんでな。どうせまた来年来なきゃいけないんだろ?」


『ええ、ええ!』


『守護の力が空になる頃に、お待ちしていますとも!』


 背中で手を振り、俺は祭壇を後にした。


 地下通路を歩きながら、俺はニヤリと笑った。


 新たな金脈のレシピ確保完了。


 お前たちの財布の紐を緩める、極上の泡を持って帰るぞ。





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