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キングスレイヤー真  作者:


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62. 土に生きる夫婦と、色褪せる聖権

「……冷やかしかい、坊ちゃん」


 夫のケハタが、自嘲気味に笑った。


「親のいない子供だらけだぁ?」


 隣のボタンが、射抜くような鋭い視線で俺を睨みつけた。


「冗談で言ってんなら承知しないわよ」


 彼女はベンチから立ち上がり、俺を見下ろす。


「こっちはね、その親になれなくて故郷を追い出されたのよ」


 ギリッと、彼女が奥歯を噛み締める鈍い音が聞こえた。


「だからこそ、だ」


 俺は一歩踏み出した。


「俺のところには、一緒に土を耕し、ご飯を作ってくれる大人を待っている子供たちが山ほどいる」


 俺は二人の前に、懐の革袋をチャリと鳴らして見せた。


「雨風を凌げる屋根と、温かい飯を保証する」


 指を一本立てる。


「働きに応じて、給金もしっかり出す」


 俺はボタンの鋭い瞳を真っ直ぐに見返した。


「子供たちに、厳しいが温かい母の背中を見せてやってくれないか」


 ボタンの目が大きく見開かれた。


 彼女は震える手で、俺の革袋をひったくるように掴み取る。


「……いいわよ」


 低く、凄みのある声だった。


「やってやるわ」


 彼女の瞳に、激しい怒りと、それ以上の熱い決意が宿っている。


「でも、もし嘘だったら、貴族のガキだろうが容赦なくぶん殴るからね!」


「ボタン! 相手は貴族様だぞ!」


 ケハタが慌てて止めるが、彼女は聞く耳を持たない。


「上等だ」


 俺は口角を上げた。


「もし俺が子供たちを泣かせるような真似をしたら、遠慮なく殴ってくれ」


 商談は成立した。


 俺たちは新たな仲間を馬車に乗せ、コジインへと向かった。


 コジインの敷地に入り、荒れ果てた裏庭へ二人を案内する。


 雑草が生い茂る広大な土地を見て、ケハタの顔つきが変わった。


 彼は無言で土をすくい、指先で感触を確かめる。


「……土は死んじゃいない」


 ケハタが力強く頷く。


「耕して空気を入れてやれば生き返る」


「ちょっとあんたたち!」


 ボタンが、遠巻きに見ていた孤児たちに向かって声を張り上げた。


「突っ立ってないで手伝いな!」


 子供たちがビクッと肩を跳ねさせる。


「あんたたちが食う飯の種なんだからね!」


 容赦のない怒号。


 だが、その声には確かな熱と、子供たちを一人前として扱う対等な響きがあった。


 クロブに引き継ぎを任せ、俺は安堵して屋敷への帰路についた。


 良い親代わりになってくれそうだ。


 屋敷に戻ると、門の前に見慣れない豪奢な馬車が停まっていた。


 白塗りの車体に、金色の装飾が鈍く光っている。


 ポルム教国の馬車だ。


「アルヴィン様!」


 玄関ホールに入るなり、青ざめた顔の執事が駆け寄ってきた。


「ポルム教国からの急使が、今すぐアルヴィン様に会いたいと!」


 応接間に通されると、神官が落ち着きなく歩き回っていた。


 俺の姿を見るなり、彼は縋り付くように駆け寄ってくる。


「おお! アルヴィン様!」


 神官は震える手で、俺の手を握りしめた。


「事態は一刻を争います……!」


 脂汗を流しながら、神官が頭を床に擦り付けんばかりに下げる。


「どうか、至急教国へお越しください!」


 声が恐怖で裏返っていた。


「このままでは、世界の調和が崩れてしまいます!」


 内容は聞くまでもない。


 俺しか扉を開けられないのだ。


 そのために何らかの不具合が起きたのだろう。


 (俺も聞きたいことがある)


 俺は心の中で密かに笑った。


 そもそも、俺は近いうちにあの教国へ足を運ぶつもりだったのだ。


 あの巨大なシステムのもとに。


「……状況は分かった」


 俺は神官を見据えた。


「すぐに出発する」


 廊下に控えていた執事に指示を飛ばす。


「スピディに馬車の用意を!」


 執事が慌てて駆け出していく。


「当家の壁を連れて行く」


 俺は窓を開け、庭に向かって声を張り上げた。


「ポムキン! 出番だ!」


 ズシン、と地面が揺れるような足音が響く。


 植え込みの陰から、巌のような巨漢が現れた。


 私兵団のポムキンだ。


 言葉は発さないが、背負った鉄塊剣の鈍い金属音が何よりの返事だった。


 ほどなくして、スピディが馬車を回してくる。


「へいへい。また強行軍ですね、坊ちゃん」


「悪いな。でも、世界の危機らしいからさ」


 俺は軽口を叩きながら馬車に乗り込んだ。


 ポムキンが窮屈そうに体を押し込むと、車体が大きく沈み込む。


 俺たちは再び、ポルム教国へ向けて慌ただしく旅立った。




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