57. 帰還、そしてコジインの新しい仲間たち
領地の屋敷に到着し、旅装を解くのもそこそこに、俺はすぐに裏手にある施設――孤児院『コジイン』へと向かった。
ここは俺が私財を投じて作った、身寄りのない子供たちのための場所だ。
「ボス! お帰りなさい!」
「おー! お土産はー!?」
敷地内に入ると、留守番を任せていたドラン、ギル、コバンたちが駆け寄ってくる。
彼らは庭に設置した木製のアスレチックコースでトレーニングの真っ最中だったようだ。泥だらけの顔が、充実ぶりを物語っている。
「ただいま。お土産はあとでね。……体が鈍ってるから、僕も混ぜてよ」
「へっ、王都帰りのボスについて来れるかな!」
俺は上着を放り投げ、そのまま彼らのトレーニングに混ざった。
丸太渡り、壁登り、ロープ移動。
5歳の肉体は悲鳴を上げながらも、久々に体を動かす喜びを感じている。
一通り汗を流した後、俺は木陰で息を整えながら、その様子を眺めていた。
(……みんな、逞しくなったな)
ドランがリーダーシップを取り、ギルが力仕事で引っ張り、コバンが全体を見ている。
3人のチームワークは完成しつつある。
その一方で、課題も見えてきた。
今はクロブが勉強(読み書き計算)を受け持っているが、いずれは社会に出るための「行儀作法」や、より高度な知識も教える必要がある。
だが、今のコジインには大人の手が足りない。
マンダルとサハジは酒造りで手一杯だし、爺様の私兵たちは戦いに関してしか教えられない。
(……もう少し年齢が上がってからでいいか。まずは基礎生活と基礎体力だ)
そう結論づけた時、施設の中からクロブが歩いてきた。
手にはチョークの粉がついている。授業を終えたところらしい。
その後ろには、洗濯物を抱えた恰幅の良い女性――アニタの姿もあった。彼女はコジインの家事全般を見てくれている住み込みの職員だ。
「お帰りなさいませ、アルヴィン様。王都でのご活躍、風の噂で聞いておりますよ」
「ただいま、クロブ、アニタ。……どう? 留守の間は」
俺が水を向けると、二人は顔を見合わせた。
「ええ、大きな問題はありませんでした」
アニタが苦笑しながら言った。
「アルヴィン様。留守の間に、また家族が増えまして」
「お、本当? それは見に行かなければ」
俺たちは施設の中にある子供部屋へと向かった。
そこには、新しく加わった5人の子供たちが、不安そうに、けれど好奇心を含んだ瞳でこちらを見ていた。
クロブが街で保護した子や、門の前に捨てられていた子たちだという。
年齢は2歳から5歳。まだ小さい。
「……よし、見せてもらおうか」
俺はこっそりと【見る力】を発動させ、彼らの適性を確認した。
「能力は、【農業】【栽培】【運搬】それに【裁縫】【料理】。」
(……なるほど)
ドランたちのような「尖った」才能ではないが、これこそが「生活」を支える力だ。
領地を豊かにするには、強い兵士だけでは足りない。
土を耕す者、服を作る者、食事を作る者。
彼らが成長すれば、コジインの自給自足を助け、やがてアケニース領の屋台骨を支える確実な戦力になるだろう。
「……いい子たちだ」
俺はしゃがみ込み、一番小さな女の子の頭を撫でた。
「クロブ、アニタ。上手く育ててくれ。こういう子たちが、将来のアケニースを豊かにしてくれる」
「はい。心得ております」
二人は優しく微笑んだ。
だが、俺は立ち上がりながら、ふと冷静な計算をした。
これで子供の数はドランたちを含めて10人前後になる。
対して、面倒を見る大人はクロブとアニタの二人だけ(あとは交代制の私兵たち)。
(……これだと、やっぱり人手が足りなくなるな)
アニタは家事と幼児の世話で手一杯だ。クロブも勉強を教えたり、施設の管理業務がある。
もし誰かが病気になったり、さらに子供が増えたりしたら、今の体制ではパンクするだろう。
教育、しつけ、そして心のケア。
クロブたちが過労で倒れる前に、保育士や教育係のような人員を確保しなければならない。
借金返済の次は、人材獲得か。
俺はやれやれと肩をすくめつつも、賑やかになっていく孤児院を頼もしく思った。




