表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キングスレイヤー真  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/80

49. 早熟の琥珀と、王の舌

 それから一週間後。

 完成した「音響熟成ユニット・改」を取り付けた樽の前には、俺、マンダル、サハジ、クロブ、爺様、そしてロリーナが集まっていた。


「……いくぞ」


 俺はコックを捻った。

 トクトク……とグラスに液体が注がれる。

 色は、美しい琥珀色。一週間前の透明な液体とは別物だ。


「ほう、色はいいのう」

「香りは……うん、鉄臭さは微塵もねぇな」


 マンダルが鼻を近づけ、満足げに頷いた。コーティングは完璧に機能しているようだ。

 サハジがグラスを回し、香りを確認してから口に含んだ。

 全員が固唾を呑んで見守る。

 サハジは目を閉じ、舌の上で転がし、喉に流し込んだ。


「……どうだ?」


 俺が尋ねると、サハジは目を見開き、信じられないものを見るような目でグラスを見た。


「……完璧だ」

「え?」

「文句のつけようがねぇ。できたての酒特有の、あの喉を焼くような刺々しさが完全に消えてる。木の香りもしっかりついてるし、甘みも深い。……今のままでも、王都の一流店で最高値がつく味だ」


 サハジがそこまで言い切るのは珍しい。

 料理人としての彼は、「完成品」としてこの酒を認めたのだ。

 沸き立つ周囲をよそに、爺様が静かにグラスを手に取った。


「どれ」


 元国王ダイファー。

 かつて世界中の美酒を飲み尽くし、俺が以前こっそり出した「昔の酒(異世界で作って持っていた超高級酒)」の味も知っている男。

 彼はゆっくりと酒を含み、時間をかけて味わった。


「……ふむ」


 爺様はニヤリと笑った。


「確かに美味い。サハジの言う通り、売り物としては一級品じゃ」


 だが、その瞳は鋭く光っていた。


「しかしのぅ、アルヴィン。……やはり『時間』そのものには勝てんか」

「……やっぱりわかる?」

「ああ。味は整っておるが、何十年も蔵の闇で眠っていた古酒特有の、あの魂にズシリと来る『重み』が足りん。……例えるなら、才気煥発な『早熟の天才』じゃな。老成した『賢者』の深みには、あと一歩届かん」


 流石だ。

 振動による強制熟成は、あくまで時間を「圧縮」する技術。物理的な変化は起こせても、歳月だけが醸せる幽玄さまでは再現しきれない。


「その通りだよ爺様。だから、これを『スタンダード品(普及版)』として売り出す」

「ほう?」

「安くて、早くて、めちゃくちゃ美味い。これで市場を席巻しつつ、一部の樽はじっくり寝かせて本物の『プレミアム品』にするんだ。数年後、さらに化けた酒を出すためにね」

「カカッ! 商売上手め。……だが、楽しみが増えたわい」


 爺様は嬉しそうに残りの酒を飲み干した。

 これでアケニース家の「金脈」は確保できた。あとは量産体制を整えるだけだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ