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キングスレイヤー真  作者:


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47. 神の設計図と、環境に優しい最適解

 ドーム状の制御室内に、無数のホログラムウィンドウが展開された。


 そこには、俺が持ち込んだ紫の球体を核とした、複雑な機械装置の三次元設計図が精密に描かれている。


『……演算完了! この世界の低レベルな文明でも製作可能、かつ私のプライドが許す「最低限の妥協点」として、3つのプランを提示します!』


 システムの声が室内に響き渡る。

 光の明滅が「見てください!」と言わんばかりに激しさを増す。


『プランA:【高硬度合金封印カプセル】。

 極限まで硬度を高めた合金を用い、内部を球状に精密加工して封じ込める力技です。衝撃吸収用に高粘度の廃液を充填すれば、計算上は数十年耐えられますが……面白みはありませんね』


『プランB:【ハイブリッド・セラミック・コンテナ】。

 耐熱・耐衝撃性に優れた特殊陶器でコーティングを施します。これなら熱伝導を遮断し、中身が煮える心配もありません。……ただし、表面の「コーティング技術」については、私の指定する特殊な薬剤と焼成手順を厳守していただきますよ?』


 システムが空中を指し示すように、ウィンドウを入れ替えた。


『そして、私が最も推奨するのがプランC……【外部振動伝達ユニット・通称「音のロッド」】です!』


 ホログラムに映し出されたのは、酒樽の外部に設置する装置のモデルだった。


『容器自体を酒に沈める必要はありません。強固な防振・防音壁で覆った装置を樽の外側に密着させ、そこから「振動のみ」を伝える伝達棒ロッドを樽の内部に差し込みます。これなら、もし容器が壊れても酒が汚染されず、メンテナンスも容易です!』


「……これだ」


 俺は思わず膝を打った。

 外部ユニット化して、振動だけを効率よく伝える。これなら、容器の素材は手に入りやすい鉄でいいし、熱対策も外気で済む。


 おまけに、プランBで提示された「コーティング技術」をこの伝達棒に応用すれば、耐久性はさらに跳ね上がるはずだ。


『流石は適合率99.9%の管理者様、お目が高い! 伝達棒の長さや太さで振動の周波数も調整可能です。ウイスキー、ブランデー、ワイン……あらゆる酒類に最適な熟成振動をプログラムできますよ!』


 システムが得意げに解説する。


 俺はその膨大な情報、ネジ一本のサイズから、コーティング用の薬剤配合に至るまでを、前世から持つ【見る力】で網膜に焼き付けた。

 一度見れば忘れない。完全記憶だ。


「……よし、全部覚えた。これならいける」


『……えっ、もう覚えたのですか? 人間特有の「紙に写す」という無駄な工程は? ……はぁ、やはり貴方は素晴らしい。脳の処理速度が常人離れしていますね』


 システムが感嘆と共に光を明滅させた。

 設計図の中身は理解した。あとはこれを作れる環境に戻るだけだ。


「そろそろ行くよ。助かった、システム」


『お待ちください!』


 帰りかけた俺を、システムが呼び止めた。


『最後に一つ、データベースの更新をお願いします。……これほどの適合率(99.9%)を持つ存在を「ゲスト」扱いで帰すわけにはいきません』


 光の粒子が俺の目の前に集まり、入力待ちのカーソルが点滅した。


『貴方様は、かつてのマスター・アーノル(99.8%)すら凌駕する数値を叩き出しました。肉体データは別物ですが、その権限は紛れもなく最高ランクです。……この施設の新たな「マスター」として登録させていただきます。お名前を』


 システムは俺がアーノルだとは気づいていない。

 だが、俺の持つ「数値」と「能力」に敬意を表し、新たな主として認めようとしている。


「……アルヴィンだ」


 俺は短く答えた。


「アルヴィン・アケニース。……それが俺の名前だ」


『……登録完了レジスト。』


 システムの声が、どこか嬉しそうに響いた。


『了解いたしました、マスター・アルヴィン。……貴方様がこの世界で、また何か「無駄で楽しいこと」を始めるのを、ここから応援しております』


 俺は光の明滅を背に、中央制御室を後にした。

 爺様とモルドは、光る壁と会話する俺の姿を、呆然と見守っていた。


「……終わったよ、爺様。帰ろう」

「お、おう。……結局、神様は何を仰っていたんじゃ?」

「『美味しいお酒を造るには、環境への配慮と物理法則が大事だ』ってさ」


 俺は適当な嘘をついて、地上への階段を登り始めた。

 掌には、確かな勝利の予感が握られていた。


 ◇


 馬車での帰り道、俺は脳内の設計図を何度も反芻していた。

 あとは領地に戻り、このオーバーテクノロジーの塊をマンダルに叩きつけるだけだ。


「……ポルム教国まで来た甲斐があったな」


 俺は窓の外を流れる景色を眺めながら、小さく笑った。

 熟成のときは、すぐそこまで来ている。


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