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キングスレイヤー真  作者:


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46. 開かれた扉と、狂喜する光

 大聖堂の地下へと続く階段は、ただひたすらに深く、暗い闇の底へと伸びていた。


 湿った石造りの階段を延々と降りきると、空気は一変した。


 そこには、塵一つない、白く無機質な長い通路が真っ直ぐに伸びていた。


 壁も床も天井も、継ぎ目のない未知の素材で覆われ、淡い光が空間全体を均一に照らしている。


「……なんじゃここは。石でも金属でもない……」


 爺様ダイファーが剣の柄に手を掛け、周囲を警戒しながら言った。


 通路の壁には、等間隔で奇妙なスリットが並び、微かな駆動音が、まるで巨大な生物の寝息のように響いている。


「大丈夫だよ、爺様。ここは昔、ある天才が作った工房の跡地みたいなものだから」

「工房……? これがか?」


 俺たちは困惑する爺様と、緊張で震える枢機卿モルドを引き連れ、通路の最奥へと辿り着いた。


 そこには、巨大な扉が鎮座していた。

 鈍い銀色に輝く、重厚な金属の扉だ。


「……これが、『祭壇』への扉です」


 モルドが祈るように手を組んだ。


「この先は、適合者以外には決して開かれることはありません。無理にこじ開けようとしても、びくともしませんし……」

「うん。大丈夫だよ」


 俺は躊躇なく進み出た。

 爺様が「アルヴィン!」と止めようとするが、俺は手で制して扉の前に立った。


 懐かしい。この質感。

 かつてアーノルだった頃、当時の聖女ハネキに連れられてここに来たことがある。


 あの時は俺の適合率が99.8%と出たせいで、システムがハネキを差し置いて俺にばかり話しかけてきたものだ。


(……頼むぞ、今の俺の魔力)


 俺は扉の横にあるガラス質のパネル――生体認証センサーに、小さな掌を押し当てた。


 ピロン♪


 間の抜けた電子音が鳴り、赤い光線が俺の体をスキャンした。


『……生体認証を確認。肉体データ不一致。対象年齢:5歳。DNA登録なし。』


 無機質な機械音声が響く。

 モルドが息を呑み、爺様が身構えた。

 拒絶か――と思われた瞬間、音声にノイズが走った。


『……魔力波長パターン検出……照合中……』


 ブゥン、と低い駆動音が響く。

 パネルの光が、赤から黄色へ、そして瞬時に鮮烈な「青」へと変わった。


『魔力適合率99.9%。……規定値をクリア。入室を許可します』


 プシューーーッ!


 重苦しい音と共に、金属の扉が左右にスライドした。

 中から溢れ出したのは、清潔で冷ややかな空気と、幾何学的な光の奔流だった。


「なっ……開いた!?」


 モルドが腰を抜かさんばかりに驚愕した。

 2年間沈黙していた扉が、たった5歳の子供にあっさりと開かれたのだ。


「……行くよ」


 俺は呆然とする二人(と、お菓子を食べているロリーナ)を促し、中へと入った。


 ◇


 中は広大なドーム状の空間だった。

 壁一面に埋め込まれた無数のスクリーンが明滅し、床には複雑なケーブルが這っている。


 そして中央には、巨大なクリスタルの円柱――半魔力を魔力に変換するメイン動力炉が鎮座していた。


 俺たちが部屋の中央に進むと、クリスタルの輝きが増した。


 ウィィィン……という駆動音と共に、無数の光の粒子が空中に舞い、幾何学的な紋様を描き出し、空間そのものが意思を持ったかのように、光が脈動している。


『……侵入者を確認。詳細スキャンを開始します』


 感情のない機械音声と共に、赤い光のグリッドが俺たちを舐めるように走る。

 そして、俺のデータが表示された瞬間、空間内の光が激しく明滅した。


『――ッ!? な、なんですかこの数値は!?』


 先ほどまでの無機質な声が一変し、驚愕に満ちた声が響き渡った。


『魔力適合率99.9%……!? ありえません! エラーですか? いえ、正常値です! かつてのマスター・アーノル(99.8%)すら超えているではありませんか!』


 システムの声が裏返った。


『DNAデータなし。生体情報は5歳児。……貴方は一体何者ですか? マスターの隠し子? クローン? それとも ……いえ、そんなことはどうでもいい!』


 光の明滅が激しさを増し、まるで子供がはしゃぐように点滅した。


『ようこそ! 未知なる管理者様! お待ちしておりました! ここ2年間、低スペックな猿しか来なくて絶望してふて寝しておりましたが、まさかこんな逸材が現れるとは!』


「……お前、相変わらず現金だな」


 俺が呆れて言うと、システムは嬉々として答えた。


『当然です! 私は効率と最適解を愛するシステムですから! 99.9%の貴方様となら、どんな高度な演算も共有できる!』


 完全にテンションがおかしい。

 モルドと爺様は、空中で明滅しながら叫び続ける光を見て、ポカンと口を開けている。


『ところで、そちらの付属物は?』


 システムが爺様たちを指すように、スポットライトを当てた。


『対象B:適合率28%。……まあまあですが、凡人ですね。

 対象C:適合率12%。……ゴミですね。

 対象D:適合率8%。……プランクトン以下です』


 辛辣すぎる。

 モルド(対象C)が「ゴ、ゴミ……」と膝をついた。


『対象A様以外のリソース消費は無駄です。今すぐ掃除用レーザーで蒸発させてもよろしいでしょうか?』

「やめろ。俺の連れだ。手出しはするな」

『承知いたしました! 貴方様の命令ならば、そのゴミたちも「愛すべき背景オブジェクト」として認識設定いたします!』


 システムは瞬時に承諾した。

 俺の言うことなら何でも聞くモードに入っているらしい。

 俺は一歩前に出た。


「システム。頼みがあって来たんだ」

『はい! 何なりと! 世界征服ですか? 人類選別ですか? 今なら貴方様の権限で、この大陸の気象操作も思いのままです……冗談ですよ』


 システムがウキウキした声で物騒な提案をしてくる。

 俺は首を振った。


「違う。……酒だ」

『……はい?』


 光の明滅がピタリと止まった。


「酒を造るための機材について、お前の知恵を借りたい」


 俺はポケットから、あの『紫の球体』を取り出した。


「この球体を使って、酒を熟成させる『振動装置』を作りたいんだが……強度が足りなくて容器が壊れる。お前の技術で、最適な設計図を引いてくれ」


 システムは沈黙した。

 そして数秒後、再び激しく明滅し始めた。


『……ぷっ、あはははは! 最高です!』


 システムが爆笑した。


『世界を揺るがす権限を持って、やることが酒造り!? なんというリソースの無駄遣い! なんという贅沢! 素晴らしい、そういう狂ったオーダーは大好物です!』


 どうやら気に入られたらしい。


『いいでしょう! 全演算能力を駆使して、世界で一番無駄に高性能な「酒造機」の設計図を書いて差し上げます!』


 こうして、俺の正体はあやふやなまま、しかし「最高の権限者」として、神との対話(商談)が成立した。



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