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キングスレイヤー真  作者:


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41/80

41. 疑惑の父親と、筋肉の護衛団

 翌日、父マーランは二人の兄を連れて王都へと旅立った。


 何しに行くのかと尋ねても、「社交だ」とか「将来のための顔合わせだ」とか言葉を濁すばかりで、具体的な目的は教えてくれなかった。


 出発前の数日間、父はディーファと談話室で過ごす時間を妙に増やしていた。


 夫婦水入らずで仲睦まじくやっているのかと思いきや、部屋からは時折、母の楽しそうな笑い声と、父の困り果てたような溜め息が聞こえてきた。


(……まあ、あの真面目な父に限って、王都で女遊びということはないだろうが)


 ふと、そんな邪推が頭をよぎる。

 男だ。所詮は男なのだ。

 領地の経営に胃を痛め、俺のような規格外の息子の奇行に振り回され、ストレスは溜まっているはずだ。


 たまの王都行きで羽を伸ばし、綺麗な貴婦人と火遊びの一つや二つ……なんてことも、ないとは言い切れない。

 まあ、家庭を壊さない程度に上手くやるなら、俺が口を挟むことではない。男には男の、秘密のオアシスが必要な時もある。


「ま、父上がいないならいないで、好都合だ」


 俺は屋敷の玄関で馬車を見送ると、すぐに踵を返した。

 口うるさい監視の目が減った今こそ、誰に気兼ねすることなく、俺の計画を全力で進められる絶好の機会だ。


 だが、問題が一つあった。

 俺の足兼護衛であるスピディが、マンダルを迎えに行っていて不在なのだ。

 5歳児が一人で出歩くわけにはいかない。


「誰か、手の空いてる者はいないか?」


 俺が中庭に向かって声をかけると、ぬっと一人の男が現れた。


「……」


 ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべた、巨漢の剣士だ。

 名前はポムキンらしい。

 爺様ダイファーの私兵団の一人で、とにかくデカイ。筋肉の鎧を着ているようだ。


 背中には大剣を背負っているが、あまりに分厚すぎて、刃物というよりは「鉄の延べ棒」に見える。斬るのではなく、重さで叩き潰すための武器だろう。


(……この笑顔と筋肉、ドッタを思い出すな)


 かつて前世で共に旅をした、懐かしい傭兵仲間の面影を感じ、俺は彼を指名した。


「ポムキン、コジインまで護衛を頼める?」

「(コクッ)」


 ポムキンは無言で力強く頷いた。彼は極端に無口なのだ。

 よし、これで出発できる――と思った瞬間。


「おいおい坊ちゃん! ポムキンだけズルいぜ!」

「俺たちも行きますよ! 護衛なら数が多いほうがいいでしょう?」


 ぞろぞろと、他の私兵たちも集まってきた。

 彼らは爺様の部下だが、最近はすっかり俺に懐いている。いや、正確には『コジイン』のアスレチックにハマっているのだ。

 まあ、使える戦力は使わせてもらおう。


「……はぁ。分かったよ、みんなで行こう」


 結局、俺は大の男たちを引き連れて屋敷を出た。

 傍から見れば、山賊の集団に捕まった子供に見えなくもないが、彼らは全員、頼もしい護衛たちだ。


 ◇


 コジインに到着すると、俺はロリーナを迎え入れた。

 まだ孤児の数は増えていない。


 現在ここに住んでいるのは、マルディとアイーシャ。そしてスタッフであるアニタの息子、ラマンだけだ。

 ロリーナは通いだが、生活の拠点はほぼここに移っている。


「ロリーナ、行くぞ! アスレチックだ!」

「おーっ! きょうはいちばんにゴールする!」


 午前中は、庭での基礎トレーニングだ。

 俺とロリーナ、そしてマルディたちがコースに挑む。


 その後ろから、ポムキンたち私兵団も「うぉぉぉ!」と雄叫びを上げて突撃していく。


「はやっ……待ってよロリーナ!」

「アルヴィンさまおそーい! おしりペンペンしちゃうよー!」


 身体能力だけで言えば、俺よりも彼女の方が遥かに上だ。

 俺が息を切らして泥まみれになっている横を、彼女は猿のように軽々と飛び回っている。


 ひとしきり体を動かした後、教室で読み書きの勉強を済ませ、待ちに待った昼食の時間となった。


「うわぁ……! きょうもいいにおい!」


 食堂に入ると、厨房から香ばしい匂いが漂ってきた。

 まだ子供が少ないため、食堂は広々としている。


 隅の方では、アニタが3歳のラマンに食事を与えながら、自分も手早く昼食を摂っていた。


(ラマンはまだ小さいからな……。今後、もし乳幼児が増えるようなら、専門の保育係が必要になるかもしれない)


 そんなことを考えながら、俺は配膳台へ向かった。

 そこには、不機嫌そうな顔をしたサハジが、巨大な寸胴鍋を振るっている姿があった。


「……チッ、腹減らした獣どもが来やがったな」


 口では悪態をついているが、手つきは丁寧だ。

 今日のメニューは、ゴロゴロ野菜と肉をじっくり煮込んだ特製シチューと、焼きたての黒パンだ。


「おじちゃん! ロリーナもこれたべたい! おおもり!」


 ロリーナがカウンターに背伸びをして叫んだ。

 サハジがギロリと鋭い眼光を向ける。


「……あ? なんだこのチビは。ここは遊び場じゃねぇぞ。食べきれない量を頼むんじゃねぇ」


「サハジ、僕の連れだ。とびきり美味いのを頼むよ。残したら僕が責任を持つから」


 俺が声をかけると、サハジは鼻を鳴らし、ドカンと山盛りの皿を置いた。


「……食え。熱いから気をつけろよ」

「いただきまーす!」


 ロリーナはスプーンを掴むと、大口を開けてシチューを頬張った。

 その瞬間、彼女の瞳がカッ開かれた。


「んん~っ!!」


 彼女は頬を膨らませたまま、ぶんぶんと手を振った。


「おいしぃ~!! お野菜あまい! お肉とろとろ~!」


 満面の笑み。

 花が咲くようなその笑顔を見て、サハジの眉間の皺がピクリと動いた。


「……ふん、当たり前だ。何時間煮込んだと思ってる」


「おじちゃんてんさい! これふしぎな味がする! すごい!」

「不思議じゃねぇ、技術だ。……ほら、パンも食え」


 サハジはぶっきらぼうにパンを差し出した。

 ロリーナはそれにかぶりつく。


「ふわふわ~! スープにつけるとジュワッてなる!」


「……そうだろうよ。そのパンはスープを吸うように少し硬めに焼いてあるんだ」


「おかわり!」

「早ぇよ! ちゃんと噛んだのか!?」


 ロリーナの食欲は凄まじかった。

 小さな体のどこにその容量があるのか不思議なくらい、次々とパンとシチューを吸い込んでいく。


「おじちゃん、もっとお肉ちょうだい!」

「……チッ、肉ばっか食うな。野菜も食え」


「お野菜もたべる! にんじんさんあまくてすき!」

「……ほう、人参が食えるのか。見上げた根性だ」


 サハジの口角がわずかに上がったのを、俺は見逃さなかった。

 こいつ、完全にロリーナに落ちている。

 文句を言いながらも、彼は「美味いと言って食べてくれる客」には弱いのだ。


「おじちゃん、これなんてお料理?」

「『サハジ特製・栄養満点ごった煮シチュー』だ」


「ごったにしちゅー! おぼえた! またつくってね!」

「……気が向いたらな」


 そう言いながら、サハジは皿に残ったスープをパンで拭って食べるロリーナを、満足そうに見つめていた。


 こうして嵐のような食事が終わり、ロリーナは「ふあぁ……」と大きなあくびをして、俺の膝で眠ってしまった。


 平和な午後だ。

 だが、その静寂はすぐに破られることになった。




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