38. 規格外の城塞、その名は『コジイン』
それから数カ月後。
領都の川沿い、かつて廃倉庫があった場所に、異様な建物群が出現していた。
「……なんだこれは」
主要施設の完成を聞き、検査に訪れた父マーランが呆然と呟いた。
そこに建っていたのは、従来の「孤児院」のイメージ――可愛らしい教会風の建物や、木造の温かみのある家とはかけ離れた、要塞のような複合施設だった。
敷地は石壁で囲まれており、城壁ほど高くはないが、簡単には乗り越えられない高さだ。
庭には軍の訓練場のような巨大アスレチックまで鎮座している。
「説明しますね、父上」
俺は図面を広げた。
「まず正面が居住棟です。男子寮25名、女子寮25名。食堂と大浴場も併設しています」
「人数は以前聞いた通りだな」
「各部屋は少し手狭になりますが、二人部屋にもできます。つまり二段ベッドを入れれば収容人数は100人まで増やせます」
「……最初から限界まで詰め込む気満々だな」
マーランは敷地を見渡した。
「では、その奥の建物は?」
「来客用の宿泊施設です。貴族用の客間が五部屋、行商人などが泊まれる簡易宿泊所が五部屋あります」
「……孤児院に客間?」
「父上や爺様が視察に来たときに泊まれますし、遠方からの来客にも対応できます」
「まあ、あれば便利だが……」
マーランはさらに奥を指差した。
「では、その隣の窓のない大きな建物は?」
「予備棟です。空き部屋が三十室あります」
「三十室!? 何のために?」
「孤児が増えた時や緊急時の避難所として使います」
マーランは呆れたように首を振った。
「……用意周到すぎるな」
「煙突が出ている建物が工房です。陶芸や木工などの作業を学べます。奥の小部屋は僕の研究室として使わせてもらいます」
「お前の研究室……嫌な予感しかしないな」
「その隣が倉庫です。食料や資材を保管します」
マーランの視線が鉄扉へ向く。
「では、あの地下への入り口は?」
「あれは訓練室です。雨の日でも体を鍛えられるように広めの地下スペースを作りました。模擬戦もできます」
「……模擬戦だと?」
「子供の遊びですよ。チャンバラごっこです」
俺はにっこり笑った。
マーランは眼鏡を外し、こめかみを揉んだ。
「工房に倉庫、予備棟三十室、地下訓練室に巨大アスレチック……」
そして大きく息を吐く。
「アルヴィン。これは本当に孤児院なのか?」
「はい。名前も決めました」
俺は入り口の看板を指差した。
そこには俺の直筆でこう書かれていた。
『コジイン』
「……そのまんまじゃないか」
「目立ちたくないので、名前くらいは地味にしておこうかと」
「この外観で目立たないわけがないだろう……」
父は呆れたように息を吐いた。
「まあいい。建物は立派だ。だが、この規模を誰が管理する? クロブ一人では回らんぞ」
そこへ子供たちを誘導していたクロブが駆けてきた。
「アルヴィン様、素晴らしい施設です。ですが、この規模を私一人で管理するのは……」
「分かってるよ。人を雇おう」
俺は頷いた。
「料理人、清掃員、職業訓練の講師、教師の補助。必要な人材はクロブが選んでくれ」
「私が選んでいいのですか?」
「ああ。ただし最終面接は僕がする。僕の【目】で確認する」
クロブは深く頭を下げた。
「承知いたしました!」
父とクロブが去った後、俺は『コジイン』の全景を見渡した。
(軍隊を作るつもりはない。だが、守られるだけの弱者を作る気もない)
ここに来た子供たちには、読み書き計算を教え、技術を身につけさせる。
そして埋もれた才能を見つけ出す。
(戦える者は戦えるように。そうでない者にも、一生食いっぱぐれない力を)
俺はニヤリと笑った。
「さあ、今日からここが君たちの家だ! 思う存分使い倒してくれ!」
子供たちの歓声が響く。
こうして前代未聞の施設『コジイン』の歴史が幕を開けた。




