37. 墓標への誓い
ガナナの案内でたどり着いた墓地は、小高い丘の上にあった。
そこには、簡素だが手入れの行き届いた石碑が一つ、静かに佇んでいた。
『愛する夫であり、父であり、勇敢なる戦士 ロバーソン ここに眠る』
刻まれた文字を見て、俺は息を吐いた。
隣でバーナが静かに手を合わせる。ロリーナも母の真似をして、小さな手を合わせていた。
「……ここからは景色がいいんです。父も、この国の空をずっと見守ってくれている気がして」
バーナの言葉に、俺は無言で頷いた。
空を見守る、か。あいつらしい。
俺は墓石の前に歩み寄り、膝をついた。
5歳児の手には少し大きすぎるが、途中で摘んできた白い野花を供える。
(……よう、ロバーソン。久しぶりだな)
心の中で呼びかける。
返事はない。だが、風がサワサワと草を揺らす音が、あいつの無骨な相槌のように聞こえた。
(お前、あんな無茶をしたんだってな。ダイファーから聞いたよ。……馬鹿野郎が。俺の仇なんか討つために、大事な命を使い切りやがって)
目頭が熱くなるのを必死で堪える。
ここで泣きじゃくったら、バーナたちが驚く。俺はあくまで「父の知人の息子」として振る舞わなければならない。
(でもな、ロバーソン。……ありがとう)
俺は墓石を、小さな掌で撫でた。
(お前がジャミルを討ってくれたおかげで、この国は救われた。あいつらの無念も、お前が晴らしてくれたんだ。そして俺も、悔いを残さずに新しい人生を歩めてる。……全部、お前のおかげだ)
そして、俺はチラリと後ろを見た。
そこには、栗色の髪を風になびかせるロリーナがいる。
【槍神】の才能を持つ、あいつの孫娘。
(お前が残した種は、すごい花を咲かせそうだぞ。……俺が見つけちまったからには、もうただの農家の娘じゃ終わらせない)
俺は墓前で誓った。
(俺が育てる。お前が到達したかった「槍の極致」へ、あの子を連れて行く。……そして今度こそ、誰も死なせない、誰も不幸にさせない最強の槍使いにしてみせる)
だから、安心して眠れ。
お前の愛した家族は、俺と、俺の家が全力で守る。
「……行こうか」
俺は立ち上がり、服の泥を払った。
振り返ると、爺様も神妙な顔で手を合わせ終えたところだった。
爺様の目元が少し赤い。44歳になっても、憧れのヒーローの前では少年に戻ってしまうらしい。
「爺様、大丈夫?」
「おう、目にゴミが入っただけだ。……いい男だったんだな、ロバーソンさんは」
「うん。最高にいい男だったよ」
俺たちは墓地を後にした。
帰り道、ロリーナが俺の手を握ってきた。
「アルヴィンさま、おじいちゃんとおはなしできた?」
「うん、できたよ。『ロリーナはいい子か?』って聞かれたから、『すごく強くていい子だ』って伝えておいた」
「えへへ、そっかぁ」
ロリーナは嬉しそうに笑った。
その笑顔を守るためなら、俺は何度でも悪魔的な計算をし、白金貨をばら撒くだろう。
「さあ、帰ろう。明日からは特訓のメニューを増やすぞ、ロリーナ」
「えーっ! まだふえるのー!?」
悲鳴を上げる未来の槍神の手を引いて、俺は丘を降りていった。




