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キングスレイヤー真  作者:


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28. 貴族の流儀

 アイーシャの容体を確認した俺は、即座に判断を下した。


 こんな隙間風の入る不衛生な小屋で治療などできるわけがない。まずは環境を変えるのが先決だ。


「行くよ。まずは場所を変える」


「えっ、でも妹は熱が……動かすのは……」


「ここにいる方が死ぬ確率が高い。僕を信じてついてくる方がいい」


 戸惑うクロブとマルディを促し、俺はぐったりとしたアイーシャをクロブに抱えさせ、領都の大通りへと戻った。


 目指すは、領都で一、二を争う高級宿『銀の翼亭』だ。


 ◇


 カランコロン、と優雅なベルの音と共に、俺たちはロビーへと足を踏み入れた。


 磨き上げられた大理石の床。煌びやかなシャンデリア。


 そこに、泥だらけの作業着を着た男と、薄汚れた子供二人、そして護衛と、小奇麗な5歳児という異様な集団が現れたのだ。


 ロビーの空気が一瞬で凍りついた。


「い、いらっしゃいませ……?」


 受付に立っていた燕尾服の支配人が、引きつった笑顔で声をかけてきた。


 だが、その視線は明らかにクロブたちを拒絶していた。

 泥が床に落ちるのを気にしているのがありありと分かる。


「あー、その……当店は会員制とまでは言いませんが、ドレスコードというものが……」


「一番いい部屋を頼むよ」


 俺は支配人の言葉を遮り、堂々とカウンターに近づいた。


「は、はあ? いやですから、お代の方も前払いで頂いておりまして……失礼ですが、そちらの方々は……」


「僕はアルヴィン・アケニースだ。部屋を用意しろと言っている」


 俺が胸を張って名乗ると、支配人の顔色が変わった。

 領都においてアケニース伯爵家の名を知らぬ者はいない。ましてや、その息子を門前払いしたとなれば、店の存続に関わる。


「ア、アケニース家の……!? こ、これは大変失礼いたしました! すぐに、すぐにご用意いたします!」


「それと」


 俺はペコペコと頭を下げる支配人に、矢継ぎ早に指示を出した。


「この三人に合いそうな服を、街の仕立て屋から見繕って買ってきてくれ。上等な生地で、肌触りのいいやつをな」


「は、はい!」


「それから、すぐに人を走らせて、薬屋でこれを買ってこさせてくれ」


 俺はカウンターにあったペンと紙を借り、サラサラと必要な薬草と器具のリストを書きなぐった。



「こ、これは……?」


「急げ。」


「承知いたしました! ……あー、それで、大変申し上げにくいのですが、お支払いの方は……」


 支配人が申し訳なさそうに手をこすり合わせた。


 服の購入代金、薬の材料費、そして宿泊費。


 全部合わせても金貨数枚もいかないだろうが、平民にとっては大金だ。


 5歳児の口約束だけでは不安なのだろう。


「支払いは最後にまとめてする。……と言いたいところだけど」


 俺は懐を探った。


 そこに入っていたのは、「白金貨」が1枚だけだった。


 たかが一泊の宿代と服代程度で出すには、あまりに釣り銭が面倒くさい。


 俺は後ろを振り返った。


「スピディ、金持ってるか?」


「えっ? ……えぇっ!? 俺から取るんですか坊ちゃん!」


 スピディが素っ頓狂な声を上げた。


「いや俺、給料日前でして……銀貨数枚くらいしか……」


「なんだ、使えないなぁ」


「理不尽すぎる! なんで大金持ちの貴族様が、護衛の財布を当てにしてるんですか!」


 スピディの抗議はもっともだ。

 だが、俺には言い分がある。


「いやー、伯爵の息子が自分でジャラジャラ小銭を出して支払うのは、外聞が悪いだろ?」


「はあ!? なんでこんな時だけ貴族ヅラするんですか!」


「まあまあ。支払い関係は君に任せるってことだよ」


 俺はスピディの手を取り、そこに白金貨をパチンと握らせた。


「!」


 掌の重みと、その神々しい白い輝きを見た瞬間、スピディの目が飛び出た。


 彼は無言で手を開き、二度見し、そして震える声で言った。


「ぼ、ぼぼ、坊ちゃん……これ……はっ、白金貨……!?」


「とりあえず、ここでの支払いはそれで頼むよ」


「いやいやいや! 無理ですって! これ一枚でお釣りどうすんですか! 」


「余った分は預かっておいて。今後もいろいろ入り用になるからさ」


 俺はニッと笑い、彼の耳元で囁いた。


「金貨数枚くらいなら、手数料としてとっといていいから」


「…………!」


 スピディがゴクリと唾を飲んだ。


 金貨数枚。それは一般の兵士なら半年、いや一年働いてやっと手にできるかどうかという大金だ。


 ただ支払いをするだけの手数料にしては、破格すぎる。


 この程度の小間使いなど、苦労のうちに入らない。いやむしろ、もっと働かせてくださいと土下座したいレベルの臨時収入だ。


「……しょ、承知いたしました。アルヴィン商会(仮)の財務担当として、誠心誠意対応させていただきます!!」


「よし、話が早くて助かる」


 スピディは白金貨を懐深くに大事そうにしまい込むと、急に態度を大きくして支配人に向かって頷いた。


「支払いは俺が持つ。釣り銭の用意をしておくんだな。……釣り銭が足りなければ、両替に走ってもらうことになるかもしれんがな」


「は、はいっ! かしこまりました!」


 現金なやつだ。だが、これで全ての手配は整った。



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