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キングスレイヤー真  作者:


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27. 路地裏の原石たち

 翌日。


 俺は朝一番で、中庭にいる私兵たちに追加の指示を飛ばした。


「ここの丸太の間隔、もっと狭くして! あと、このロープは揺れるように固定しないで!」


「げっ……まだ難易度上げるんですか、坊ちゃん」


「当然だよ。じゃあ、あとは頼んだね。スピディ、行こう!」


 俺が指名すると、スピディは「よっしゃ!」と小さくガッツポーズをした。炎天下での土木作業から逃れられるのが、よほど嬉しいらしい。


「へいへい、護衛ですね。今日はどこへ? お菓子屋さんですか?」


「街の散策だよ。いつもと違うところを歩きたいんだ」


 俺たちは屋敷を出て、領都のメインストリートから外れ、入り組んだ路地へと足を踏み入れた。


 最初は石畳だった道が、次第に土になり、やがて泥と汚水が混じったぬかるみへと変わっていく。建物の影が濃くなり、すれ違う人々の目つきも鋭くなる。


「……おいおい、坊ちゃん。こっちはマズいぜ」


 スピディが警戒心を露わにして、俺の肩を引き寄せた。


 スラム、とまではいかないが、治安の悪い貧民街だ。腐った生ゴミの臭いが鼻をつく。


「何度も言いますが、戻りましょう。こんな所に坊ちゃんが探してるような『良い人材』なんているわけがない」


「そうかな? 意外なところに宝は落ちてるものだよ」


「いやいや、落ちてるのは犬の糞くらいですって」


 スピディが強引に俺の手を引いて引き返そうとした、その時だった。


 向こうから、一人の男が歩いてきた。

 日雇いの土木作業帰りだろうか、泥で汚れた作業着のような格好をしている。


 髪は伸び放題でボサボサだ。

 だが、俺の目は釘付けになった。


(……なんだ、あの歩き方は)


 背筋がスッと伸びていて、一見すると余裕を持った歩き方だ。


 だが、その目線は常に周囲を巡り、何かを探しているように油断がない。

 そして、正面からではなく、少しはすに構えたような独特の立ち振る舞い。

 なんとなく、あのアサータクさんを思い出させた。

 

 俺の師匠のような、友のような、あの人の気配に似ている。


 俺はすれ違いざまに【見る力】を発動した。


【クロブ(28歳)】

【能力:教師】

【状態:栄養失調】


(……【教師】!?)


 俺は足を止めた。

 初めて見る能力だ。剣術や魔術のような直接的な戦闘スキルではない。


 だが、「教える」ことに特化した能力?

 これは、組織を作る上でとんでもない「当たり」かもしれない。

 男――クロブは、俺たちに目もくれず、手前の路地を曲がっていった。


「……追いかけるよ」

「はあ!? 坊ちゃん、正気ですか!?」


 スピディの制止を無視して、俺はその路地へと走った。


 クロブが入っていったのは、路地の奥にある一軒のボロ家だった。家というより、廃材を組み合わせた小屋に近い。


 壁には隙間があり、中の様子が外からでも見て取れた。


「……坊ちゃん、覗き見は趣味じゃありませんぜ」


「しっ、静かに」


 俺は壁の穴から中を覗いた。薄暗い部屋の中には、クロブの他に、二人の小さな子供がいた。


「……ごはんだぞ」


 クロブが懐から出したのは、固そうな黒パンの欠片だ。それを子供たちに差し出している。

 俺はすかさず、その子供たちを鑑定した。


【マルディ(男・8歳)】

【能力:忠誠】


【アイーシャ(女・4歳)】

【能力:誓】

【状態:感染症・(高熱)】


(……なんだこれは)


 俺は息を呑んだ。

 【忠誠】に【誓】。

 どちらも戦闘能力ではない。

 だが、心に響く能力だ。


 だが、状況は悪い。女の子――アイーシャの顔が赤い。呼吸が浅く、苦しそうだ。


「アイーシャ……! しっかりしろ!」


 兄らしきマルディが妹の背中をさすっている。クロブも困ったように立ち尽くしている。薬を買う金がないのだろう。


「これは、なんとかしないとな」


「えっ、坊ちゃん? ちょっと!」


 俺はスピディの制止を振り切り、強引にボロ家のドアを押し開けた。


 立て付けの悪いドアが軋んで開く。


「な、なんだ!?」


 クロブが鋭い動きで振り返り、子供たちを背に庇った。その動き、やはり素人じゃない。


「騒がしくしてごめんね。僕はアルヴィン・アケニース。領主の息子だ」


 俺は堂々と名乗った。薄汚れた室内で、上質な服を着た5歳児の登場は異質すぎる。


 だが、俺の「領主の息子」という言葉に、マルディの目の色が変わった。


「りょうしゅ……さま?」


 マルディは俺の前に這い出て、土下座をするように頭を下げた。


「お、お願いします! 妹を、アイーシャを助けてください! 病気なんです、もう何日も熱が下がらなくて……!」


「マルディ、よせ!」


 クロブが止めようとするが、少年は必死だった。


「なんでもします! 俺の命でもなんでもあげます! だから、薬を……!」


 【忠誠】を持つ者の、純粋な叫び。その言葉に嘘はないだろう。


「……わかった」


 俺はアイーシャの元へ歩み寄った。

 熱い。感染症状なら、前世の知識にある薬草の調合で治せる。


「治すよ。この程度の熱なら、僕が知ってる薬で良くなるはずだ」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ。ただし……」


 俺はニヤリと笑い、警戒するクロブと、すがるような目のマルディを見回した。


「君たちの『なんでもする』という言葉、大人の君には覚えていてもらうよ」


 このような立ち行かない子供が多くいるなら孤児院でも立ち上げるか?


 悪くない。


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