26. 5歳児の日常
5歳児にできることは少ない。体力も物理的なリーチも足りない。だから、使える時間は未来への投資に回す。
コンゴウたちにアスレチックの増設指示を出したあと、俺は屋敷に来ていたロリーナと合流した。
「いち、に、さん、し!」
「もっと膝を上げて! そう、リズムよく!」
午前中は基礎トレーニング。ロリーナと一緒に走り、跳び、体を動かす。彼女は【槍神】の才能のおかげか、教えた動きをスポンジのように吸収していく。俺も負けじと動くが、5歳の体はすぐに息が上がる。
午後は座学だ。向かい合った机で、ロリーナは必死に文字の練習をしている。
「『あ』がうまく書けないよぉ……」
「焦らなくていいよ。丁寧にね」
一方で俺が読んでいるのは、絵本ではない。家庭教師のガイズに無理を言って持ってこさせた、領地の経済状態や人口推移が記された詳細なレポートの写しだ。
ふむ。我がアケニース領は農業生産は安定しているが、やはり交易による利益が減少傾向にあるな。マンダルの酒ができれば、ここを一気にひっくり返せるはずだ。
そして、夕食。
「ん〜! おにくおいし〜!」
ロリーナが大きな骨付き肉にかぶりつく。口の周りをソースだらけにして、リスのように頬張る姿は愛らしい。
一生懸命に食べるその姿を見ていると、タイプは違うが、俺の最愛の妹――ケニを思い出した。
あいつも、食い意地だけは誰にも負けなかった。可愛くおねだりして、いつも俺の皿から肉を奪っていったっけ。
だが、あいつはもういない。
妹と息子を奪った元凶。悪逆非道の限りを尽くした狂った王族、ジャミル。
俺が立ち上がったのは、奴への復讐のためだった。だが、俺は奴を殺しきれずに死んだ。
(……だが)
俺はふと、心の中の炎を鎮める。
俺が死んだ後、親友のロバーソンがやってくれたはずだ。
あいつは自分の命と引き換えにしてでもジャミルを討ち取ってくれた。そういう男だ。
ロバーソン。お前のおかげで、俺はこの胸のつかえを少しだけ下ろして、新しい生を歩めている。
「アルヴィンさま? どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。いっぱいお食べ」
俺はロリーナの頭を撫でた。
夕方になり、彼女は迎えに来た馬車で実家へと帰っていった。明日は自宅で過ごす日だ。
「さて……明日は俺も外出だな」
人材探しだ。組織を作るには、どうしても「手足」が必要になる。




