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キングスレイヤー真  作者:


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25. 暇を持て余したエリートたち

 屋敷の敷地の端、兵舎へと向かう道すがら、俺は隣を歩くスピディに素朴な疑問をぶつけた。


「ねえスピディ。爺様の私兵って、普段は何してるの?」


 彼らはダイファー直属の精鋭だ。だが、今のところ爺様は隠居同然だし、領内も平和そのものだ。


「んー? 基本は訓練だな。毎日毎日、飽きもせず体をいじめてる」


「他には?」


「あとは、たまに盗賊退治に出るくらいか。街道に変なのが出たって情報が入れば、馬を飛ばして潰しに行く」


「ふうん、便利屋みたいだね」


「違いない。言われれば結構なんでも手伝うぜ。屋根の修理から、迷子の猫探しまでな。……要するに、暇なんだよ俺たちは」


 スピディは自嘲気味に笑った。

 かつて戦場で名を馳せたであろう猛者たちが、平和な時代で暇を持て余している。

 それは幸福なことだが、彼らの能力と闘争心にとっては退屈な日々かもしれない。


「じゃあ、ちょうどいいね」


 俺は図面を握りしめた。


「僕が最高に面白い『暇つぶし』を提供してあげるよ」


 兵舎の前には、数人の男たちがたむろしていた。

 その奥から、一際大きな影が現れる。

 岩のような体躯をした男――私兵団の隊長だ。


(……デカいな)


 俺は反射的に【見る力】を発動させた。


【コンゴウ(38歳)】

【能力:盾】

【状態:健康】


 能力は【盾】か。

 名前通りの堅牢そうな男だ。38歳という年齢は、兵士として脂が乗り切っていると同時に、そろそろ指揮官としての貫禄も出てくる頃だ。


「隊長! 坊ちゃんがお見えだぞ!」


 スピディが声を張り上げると、コンゴウは丸太のような腕を組み、ゆっくりと振り返った。

 鋭い眼光が俺を捉える。


「……アルヴィン様。このようなむさ苦しい場所に、何用で?」

「やあ、コンゴウ隊長。ちょっとお願いがあってね」


 俺は物怖じせずに近づき、例の図面を広げて見せた。


「これを作りたいんだ。人手が足りないから、みんなに手伝ってほしい」


 コンゴウは図面を覗き込んだ。

 眉間に深い皺が寄る。


「……丸太の、遊具ですか? ブランコに、これは……壁?」


「アスレチックだよ」


「アスレ……? 子供の遊び場を作るために、我ら私兵団を使いたいと?」


 コンゴウの声色が少し低くなった。

 やはり、ただの「お守り」だと思われてはプライドが許さないらしい。

 ここだ。スピディの入れ知恵を使う時だ。


「遊び場じゃないよ、隊長。これは『訓練施設』だ」


「訓練……?」


「そう。ただ剣を振るだけじゃ鍛えられない、身体操作の柔軟性、バランス感覚、そして極限状態での判断力を養うための、地獄の障害物コースさ」


 俺はニヤリと笑い、図面の一点を指差した。


「例えばこの不規則な丸太渡り。重装備でここを落ちずに走り抜けられるかな? こっちのロープエリアは、腕力だけで体を支えて移動する。もし戦場で足場が崩れた時、この動きができるかどうかで生死が決まる」


 コンゴウの目が変わった。

 戦士としての想像力が働き、この「遊具」が持つエグさを理解し始めたのだ。


「……なるほど。足腰と体幹、そして瞬発力を同時に鍛えるための装置……」


「そう。僕もロリーナもやるつもりだけど、大人の兵士でもクリアするのは難しいと思うよ。……あ、もしかして自信ない?」


 俺が挑発的に見上げると、コンゴウの額に青筋がピクリと浮かんだ。


「……面白い。我らがその程度の木組みに後れを取ると思われては心外ですな」


「じゃあ、手伝ってくれる?」


「よろしい。総員、作業準備だ! これは新たな訓練の一環である!」


「「「おう!!」」」


 暇を持て余していた男たちが、一斉に立ち上がった。

 さすが隊長、統率が取れている。


「よし、じゃあ早速中庭に……」


「待て」


 俺が歩き出そうとした瞬間、コンゴウの太い腕が俺の行く手を遮った。


「アルヴィン様。あのような美しく手入れされた庭園に、このような泥臭い丸太の要塞を築くおつもりか?」


「え、やっぱりダメ?」


「奥方様(ディーファ様)の雷が落ちますぞ。……我々は戦場の敵は恐れませんが、奥方様だけは勘弁願いたい」


 あの強面の隊長が、本気で怯えた顔をしている。

 スピディの言っていた通りだ。


「……やっぱりそうか。じゃあ、どこならいい?」


「この兵舎の裏に荒地があります。そこなら誰の目も気にせず、思う存分暴れられる」


 交渉成立だ。

 俺たちは兵舎の裏手、雑草が生い茂る広大な空き地へと移動した。


「よし野郎ども! まずは草刈りと整地だ! その後、資材置き場から丸太を運ぶぞ! 本日中に基礎を組み上げる!」


「「「イエッサー!!」」」


 男たちの野太い声が響く。

 こうして、爺様の精鋭部隊による「アルヴィン・ブートキャンプ」の建設が、勢いよく始まったのだった。



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