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キングスレイヤー真  作者:


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16/83

16. 琥珀色の約束と、商王の告白

 翌朝。

 俺たちは朝食を済ませると、すぐに裏の農具置き場へと向かった。

 ダイファーが巨大なすきを軽々とどけ、俺は隠し扉を開いた。


「よし、開けるぞ」


 地下室へ降りると、40年の時を経た琥珀色の香りが俺たちを迎えた。


「……なぁ親父。この酒、本当に飲めるのか?」

「大丈夫だ。アルコール度数を極限まで高めてある。むしろ、とんでもない値打ち物に化けているはずだ」


 俺は自信満々に答えつつ、一番奥の樽へ向かった。

 昨晩はチラッと見ただけで閉じてしまったが、今日はこれを持ち出し、正確な金額を把握する必要がある。


「なあ、金はいったいいくらぐらいあるんだ?」

 ダイファーがランプを掲げながら聞いた。


「さあな。俺の記憶が正しければ、白金貨30枚だ」


「30枚? それでも大金だが……」


「ああ。昔、俺が15歳の頃にな。揚水ポンプの権利金としてアサータクさんが持ってきたんだが、俺は『子供がそんな大金を持っていたら危ない』と受け取りを拒否したんだ」


 俺は樽と土壁の隙間に手を突っ込みながら説明した。


「アサータクさんは商会で預かっておくと言ってくれた。……俺は、商売の運転資金に使ってくれればいいと思っていたんだ」


 指先に革の感触。

 俺は埃まみれの革袋を掴み、引っ張り出そうとした。


「……んッ!?」


 重い。

 ずしり、と手首に食い込むような重量感がある。

 おかしい。白金貨30枚なら、もう少し軽いはずだが。


「おいおい、無理すんな。貸してみろ」


 見かねたダイファーが横から太い腕を伸ばし、軽々と革袋を持ち上げた。

 ジャラッ、と中身が詰まった重厚な金属音が響く。


「親父、これ中身パンパンだぞ」

「え?」


 俺は首を傾げた。

 アサータクさんが引退の朝に俺にこれを渡した時、「受け取れ」と言われただけで、中身を確認せずに地下に放り込んだのだった。


「開けるぞ」


 ダイファーが紐を解き、中身を床にぶちまけた。

 瞬間、薄暗い地下室が白銀の光で満たされた。


「…………は?」


 そこにあったのは、30枚などではない。

 山のように積まれた白金貨だ。


「……いち、にい、さん……」


 ダイファーが震える指で数え始める。

 十枚ごとの山が次々と出来上がっていく。

 その数は、俺の記憶にある数字を遥かに超えていた。


「……100枚あるぞ、親父」


 ダイファーが呆然と呟いた。

 白金貨、100枚。

 現在の貨幣価値で言えば、金貨1万枚に相当する。


「……なんで?」


 俺は呆気にとられた。

 すると、脳裏に25年前、霧の朝のベンチでのアサータクさんの言葉が蘇った。


『あの日、お前が金を突き返さなかったら、俺は終わっていた』


 そうだ。彼はあの時、そう言っていた。

 俺が15歳の時、アサータクさんはバテンさんを救うために全財産を使い果たし、実は破産寸前だったのだ。

 俺が「いらない」と突き返した現金30枚がなければ、彼は店を売るしかなかった。

 俺の無欲な拒絶が、結果として彼を救い、後の「商王」を生んだのだ。


『俺には、お前がいてくれた。それが俺の最大の縁であり、最強の武器だったんだ』


 そして彼は、引退の時にこの袋を渡してきた。

 「今度は受け取れ」と。

 冷徹な次男ザイクから俺たちを守るための「盾」として。


(……アサータクさん。あんた、律儀すぎるだろ)


 目の前の白金貨100枚。

 それは、あの日俺が断った30枚に、25年分の利子と、彼の命を救った感謝が上乗せされた金額だったのだ。


「おいおい……こいつはとんでもねえことになったな」

 ダイファーが額の汗を拭った。

「これだけの金がありゃ、ロリーナを雇うどころか、私設騎士団を一つ作れるぞ。マーランの財布の紐なんて関係ねえ」


「……ああ。予定変更だ」


 俺は震える手で、白金貨の一枚をつまみ上げた。

 ずしりと重い。その重みは、兄貴分からの想いの重さだ。

 この金は、ただの富ではない。アサータクさんが俺たちの未来を守るために遺してくれた、最強の武器だ。




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