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キングスレイヤー真  作者:


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15/80

15. 炎を纏った槍、歴史に消えた真実

 焚き火の勢いが少し弱まり、熾火おきびが赤く明滅している。

 再会の喜びと興奮がひと段落し、静寂が訪れた頃。

 俺はずっと胸につかえていた、どうしても聞かなければならないことを口にした。


「……なぁ、ダイファー」


「ん? なんだ親父」


 ダイファーはまだ少し鼻声だが、その表情は憑き物が落ちたように穏やかだった。

 俺は膝の上で拳を握りしめ、言葉を絞り出した。


「あの王宮での戦い……俺が死んだ後のことを、教えてくれないか」


 ダイファーの動きが止まった。

 彼は視線を炎に落とし、重苦しい沈黙が流れた。


「……俺は、負けたんだ。あの『セハク』という化け物に」


 記憶はそこで途切れている。

 俺たちの目的は、腐敗したヨンドカ王国の打倒。王都へ攻め込み、元凶であるジャミル王子たちを討つことだった。

 だが、俺は志半ばで倒れた。


「その後、どうなった? ヨンドカ王国は……俺たちの反乱は、どうなったんだ?」


 ダイファーは静かに頷いた。


「……勝ったよ。親父」


 彼は夜空を見上げ、噛み締めるように言った。


「ヨンドカ王国の腐敗した王族たちは滅びた。俺たちの勝利だ」


「勝った……のか?」


「ああ。今の歴史じゃ、こうなってる。『英雄アーノルが、王宮の奥深くへ攻め入り、魔人セハクと悪逆非道の王子ジャミルを討ち取った』とな」


「……は?」


 俺は絶句した。

 俺が、討ち取った?

 違う。俺はセハクに手も足も出ずに殺されたんだ。ジャミルの顔を見ることさえできずに。


「歴史書にはそう書いてある。親父は、悪を滅ぼし、その傷が元で力尽きた……最大の英雄として語り継がれてる」


 ダイファーは悲しげに笑った。


「だが、真実は違う。……親父も分かってる通りな」


「……誰だ。俺の代わりに、あいつらを仕留めたのは」


 俺たち主力は壊滅していたはずだ。

 俺が死に、グレンやメイシーも動けなかったはず。

 一体誰が、あの絶望的な状況を覆し、俺の功績として歴史に残るほどのことを成し遂げたのか。


 ダイファーは、炎を見つめたまま呟いた。


「……ロバーソンさんだ」


「……なんだと?」


 俺は耳を疑った。

 ロバーソン。俺の親友であり、この村一番の槍使い。

 だが、彼はあの時、最前線ではなく、街の駐留部隊として後方にいたはずだ。


「ロバーソンさんは、ゼダンから連絡を受けたらしい。『アーノルたちが危ない』とな」


「……っ」


「その場で軍を除隊して、単騎で王宮へ走ったらしい。……王宮の入り口に着いた時、ちょうど親父がやられたところだったんだろうな」


 ダイファーの声が震えた。


「そこに倒れていたメイシーとグレンが、見たそうだ。……その時のロバーソンさんは、全身から『炎』が出ているように見えたと」


「炎……?」


「ああ。玉座の間の入り口から、ロバーソンさんは愛用の槍を投擲した。……遥か奥にいるジャミルたちに向かってな」


「馬鹿な……!」


 俺は思わず叫んでいた。

 玉座の間だぞ? 入り口から玉座までは凄まじい距離がある。

 それに、あいつの槍は普通じゃない。

 サンデルが鍛え上げた、超高密度・超重量の特注長槍だ。

 近接戦闘で相手の武器ごと叩き折るための質量兵器であり、投げるように作られてなどいない。

 ましてや相手は、超反応のセハクと、ジャミルだ。

 届くはずがない。当たるはずがない。


「いくらロバーソンでも無理だ! いや、誰であっても不可能だ! あんな鉄塊みたいな槍を、あの距離で……!」


「俺もそう思う。だが……あの人はやったんだ」


 ダイファーは静かに言った。


「周りの兵士たちが斬りかかってくるのを、避けようともせず、防御もせず……ただ一点、親友のかたきを討つためだけに、命を燃やして投げた」


 脳裏に浮かぶ。

 敵兵の刃がその身を切り裂く中、痛みを無視し、生涯で一度きりの、渾身の一投を放つ親友の姿が。


「槍は、一直線に飛んだ。……セハクも、護衛も、そしてジャミルも。まとめて3人、串刺しにしたらしい」


「…………」


 言葉が出なかった。

 3人を、串刺し。

 それはもう、技術や能力の次元ではない。

 執念。あるいは、友を奪われた怒りが生んだ、奇跡の一撃。


「……投げた直後、ロバーソンさんは四方から斬られて……そのまま、亡くなったそうだ」


 ダイファーが涙を拭った。


「満足そうな顔、してたらしい。」


 視界が歪んだ。

 熱いものが頬を伝い、止めどなく溢れてくる。


「……あの大馬鹿野郎が……」


 歴史は、俺がやったことになっている。

 だが、真の英雄は俺じゃない。

 自分の命も、名誉も捨てて、ただ俺の無念を晴らすためだけに全てを懸けた、名もなき槍使いだ。


「……うぅ……ロバーソン……っ!」


 5歳の子供の体だからではない。

 アーノルとしての魂が、親友の名を呼んで泣いた。


 俺は知っている。

 ロバーソンという男が、どれほど槍を愛し、どれほど実直な男だったかを。

 その重い槍が、玉座を貫いた瞬間。

 それが、ヨンドカ王国の終わりであり、俺たちの戦いの本当の結末だったのだ。




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