表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キングスレイヤー真  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/140

123.大陸一の馬鹿鍛冶師

 俺が剣を抱いてうずくまっていると、背後から遠慮がちな足音が近づいてきた。


 顔を上げると、目を真っ赤に腫らした青年――マンダルの孫、ランダルが立っていた。


「……アルヴィン、様」


「ランダルか……」


 俺は袖で乱暴に涙を拭い、立ち上がった。


 ランダルは、俺の手の中にある剣を、まるで聖遺物でも見るような眼差しで見つめていた。


「じいちゃん……祖父は、最期までその剣のことだけを考えていました」


「……ああ。タンダルから聞いた。お前はずっと見ていたんだろう?」


「はい」


 ランダルは一度大きく息を吸い込み、震える声で語り始めた。


「祖父は……おかしなことをしていました。父さんが追い出された後、祖父は炭を砕いて粉にし、それを粘土と混ぜて、刃の部分だけに塗りつけたんです」


「……炭を、刃に?」


「はい。それも、ただ塗るだけじゃない。厚みを変えたり、何度も塗り直したり……まるで絵を描くようでした」


 俺の心臓が早鐘を打つ。


 刃だけに、炭と土を塗る?


 (……まさか、あれを試したのか?)


「それに、冷やす時も……」


 ランダルは続ける。


「水桶と油壺、二つを用意していました。赤熱した剣を、最初は水に入れたんです。ジュッて凄い音がして……でも、数秒ですぐに引き上げて、今度は油の中に突っ込みました」


「水と、油……」


 俺は剣の刀身を凝視した。


 水と油を使った二段階の冷却。


 そんなこと、俺は詳しく教えた覚えはない。


 そもそも、俺は剣なんて作れない。叩き方も、焼き入れの温度も知らない。


(……俺が言ったのは、もっと適当なことだったはずだ)


 かつて、酒を飲みながらマンダルに話した戯言を思い出す。


『いいかマンダル。鉄ってのはな、炭を混ぜると強くなるんだぜ』


『あと、なんかこう、泥を塗って焼いたりすると、すげぇのができるらしい』


『東の国じゃ、水と油を使うとか使わないとか』


 そんな、漫画かゲームで得たような、ふんわりとした知識。


 詳しい配合も、温度も、タイミングも、俺自身何も知らなかった。


 だから、ただの酔っ払いの与太話として話しただけだ。


 だが、マンダルはそれを信じたのか。


 俺が口にした「炭を混ぜると強くなる」という一言だけを頼りに、何百、何千回と試行錯誤を繰り返し、炭の量、土の配合、水と油のタイミング……その全てを、己の感覚だけで『正解』にまで昇華させたというのか。


 サンデルだって、そこまではやってねえ。


 あの鋼王サンデルでさえ、俺がある程度の知識があって、ようやく形にしていた。


 だが、この剣は違う。


 設計図なんてない。俺は作り方なんて知らない。


 この世界にあるありふれた鉄と、炭と、水と油。


 それだけで、マンダルは俺の空想を現実に引きずり下ろしたのだ。


「……祖父は、言っていました」


 ランダルが涙声で告げる。


「これが俺の剣だって……」


 俺は天を仰いだ。

 工房の天井が滲んで見えない。


 あいつは、俺を追いかけていたつもりだったのか。


 俺が適当にばら撒いた知識の欠片を拾い集めて。


 だが、気づけばあいつは、俺なんかとうの昔に追い越して、誰もいない場所へ行っちまっていた。


「……ははっ」


 乾いた笑いが漏れた。


「馬鹿だ……。本物の、大馬鹿野郎だ」


 俺は剣を強く握りしめた。

 掌から伝わる冷ややかな鉄の感触が、今は熱く感じる。


 俺の適当な嘘を、本物の伝説に変えちまいやがって。


「大陸一の、馬鹿鍛冶師だよ。お前は……」


 友が命を削って遺した鉄の魂。

 その重みは、どんな名剣よりも重く、そして温かかった。


 もう、あの憎まれ口を聞くこともできない。


 この剣の感想を言い合うことも、酒を飲みながら馬鹿話に興じることも。


 俺は遺された剣を抱きしめるようにして、その場に崩れ落ちた。


 涙が、止まらなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ