122. 帰らぬ煉獄、遺された魂
子供たちを縛り付けていた呪いは砕け散り、表示される状態も【呪縛】から【健康】へと戻っていた。
だが、根本的な問題は残った。
健康状態に戻った子供たちは、以前と全く変わらず、指示されない限りは何もできない状態のままだったのだ。
「水を飲め」と言えば飲む。「座れ」と言えば座る。指示には完璧に従うが、それ以外はピクリとも動かない。
意識がまだ深い場所に沈んでいるのか。
(……もっと、あのシステムの野郎に詳しく聞いておくべきだった)
俺は唇を噛み締めた。
呪縛は解けたはずだが、自発性を取り戻すための鍵が見つからない。
このままここにいても埒が明かない。俺たちは設備の整ったアケニースの「コジイン」へ戻り、そこで対策を練ることにした。
帰路は順調だった。順調すぎて、不安になるほどに。
俺たちはほとんど休憩も取らず、急ぎ足で街道を駆け抜けた。
あまりに急いだせいで、子供たちへの土産も買っていないことに気づく。
その事を謝ろうかと思ったが、どうにもコジインの中が静かだ。
アケニースに到着し、コジインの敷地内に入っても、いつもなら聞こえるはずの子供たちの喧騒が聞こえてこない。
俺が首を傾げていると、ポムキンたちが指示待ちの子供たちを静かに運び出し始めた。
その時だ。
建物の陰から、クロブが俺を見つけて、転げるように走り寄ってきた。
「ア、アルヴィン様ッ!!」
「おう、クロブ。帰ったぞ。すまん、お土産も買わずに……」
「それどころじゃありません!!」
クロブが俺の言葉を遮った。
普段は温厚な彼が、血相を変えて叫んでいる。
「急いでください! 今すぐ、タンダル工房へ!」
「は? なんでまた……」
「マンダルさんが……マンダルさんが、亡くなりました!!」
時が、止まった。
「……は?」
俺の口から、間の抜けた音が漏れた。
マンダルが? あの頑固で、口が悪くて、喧嘩ばかりしていたあいつが?
「……何言ってんだ。あいつは、俺たちより先に帰っただろ? 『ドモトーアの剣』を見て火がついたって、あんなに元気に……」
「一昨日です! 工房で、倒れられて……とにかく、行ってください! お願いします!」
クロブの目から涙が溢れているのを見て、俺は思考を放棄した。
「スピディ! 工房へ急げッ!!」
理由もわからぬまま馬車に戻り、御者台のスピディに叫ぶ。スピディも事態を察し、凄まじい勢いで馬を走らせた。
タンダル工房は、静まり返っていた。
何人もの職人がいるはずの場所から、槌音が一つも聞こえない。
俺は馬車が止まるのも待たずに飛び降り、工房の中へ入った。
奥へ進むと、そこにマンダルの子、タンダルが立っていた。俺は彼のもとへ駆け寄る。
「おい……どういうことだ。嘘だよな?」
タンダルがゆっくりと顔を上げた。
「……アルヴィン様。昨日亡くなり、葬儀も終わったところです」
静かな声だった。
俺は膝から力が抜けるのを感じた。
「そんな……別れたときは、そんな素振りもなかったのに……」
いや、少しおかしかったか。
だが、なぜ、こんなに急に。
タンダルが無言で、一本の剣を俺に差し出してきた。
「親父の命です。受け取ってください」
タンダルが差し出したのは、鞘にも入っていない、抜き身の剣だった。
装飾は一切ない。
柄も、鍔も、すべてが実用一点張り。
色気も素っ気もない、ただの鉄の塊のような剣。
だが、その武骨さが、どうしようもなくマンダルらしかった。
「……細かい事はランダルに聞いてください」
タンダルは絞り出すような声で続けた。
「俺は途中で、鍛冶場を出されました。わかってなかったんです……この剣を見て、自分の未熟さを痛感しました。親父は、父は、偉大な鍛冶師でした」
そう言い残すと、タンダルは去っていった。
俺の手の中には、一本の剣が残された。
ずしりとした重み。
鈍色の刀身には、職人が命を削って刻み込んだ執念が宿っている。
「……マンダル」
視界が急激に滲む。
もう、あの憎まれ口を聞くことは……




