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キングスレイヤー真  作者:


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122/140

122. 帰らぬ煉獄、遺された魂

 子供たちを縛り付けていた呪いは砕け散り、表示される状態も【呪縛】から【健康】へと戻っていた。


 だが、根本的な問題は残った。

 健康状態に戻った子供たちは、以前と全く変わらず、指示されない限りは何もできない状態のままだったのだ。


「水を飲め」と言えば飲む。「座れ」と言えば座る。指示には完璧に従うが、それ以外はピクリとも動かない。


 意識がまだ深い場所に沈んでいるのか。


(……もっと、あのシステムの野郎に詳しく聞いておくべきだった)


 俺は唇を噛み締めた。

 呪縛は解けたはずだが、自発性を取り戻すための鍵が見つからない。


 このままここにいても埒が明かない。俺たちは設備の整ったアケニースの「コジイン」へ戻り、そこで対策を練ることにした。


 帰路は順調だった。順調すぎて、不安になるほどに。 


 俺たちはほとんど休憩も取らず、急ぎ足で街道を駆け抜けた。


 あまりに急いだせいで、子供たちへの土産も買っていないことに気づく。


 その事を謝ろうかと思ったが、どうにもコジインの中が静かだ。


          


 アケニースに到着し、コジインの敷地内に入っても、いつもなら聞こえるはずの子供たちの喧騒が聞こえてこない。


 俺が首を傾げていると、ポムキンたちが指示待ちの子供たちを静かに運び出し始めた。


 その時だ。


 建物の陰から、クロブが俺を見つけて、転げるように走り寄ってきた。


「ア、アルヴィン様ッ!!」


「おう、クロブ。帰ったぞ。すまん、お土産も買わずに……」


「それどころじゃありません!!」


 クロブが俺の言葉を遮った。

 普段は温厚な彼が、血相を変えて叫んでいる。


「急いでください! 今すぐ、タンダル工房へ!」


「は? なんでまた……」


「マンダルさんが……マンダルさんが、亡くなりました!!」


 時が、止まった。


「……は?」


 俺の口から、間の抜けた音が漏れた。

 マンダルが? あの頑固で、口が悪くて、喧嘩ばかりしていたあいつが?


「……何言ってんだ。あいつは、俺たちより先に帰っただろ? 『ドモトーアの剣』を見て火がついたって、あんなに元気に……」


「一昨日です! 工房で、倒れられて……とにかく、行ってください! お願いします!」


 クロブの目から涙が溢れているのを見て、俺は思考を放棄した。


「スピディ! 工房へ急げッ!!」


 理由もわからぬまま馬車に戻り、御者台のスピディに叫ぶ。スピディも事態を察し、凄まじい勢いで馬を走らせた。


          


 タンダル工房は、静まり返っていた。

 何人もの職人がいるはずの場所から、槌音が一つも聞こえない。


 俺は馬車が止まるのも待たずに飛び降り、工房の中へ入った。


 奥へ進むと、そこにマンダルの子、タンダルが立っていた。俺は彼のもとへ駆け寄る。


「おい……どういうことだ。嘘だよな?」


 タンダルがゆっくりと顔を上げた。


「……アルヴィン様。昨日亡くなり、葬儀も終わったところです」


 静かな声だった。


 俺は膝から力が抜けるのを感じた。


「そんな……別れたときは、そんな素振りもなかったのに……」


 いや、少しおかしかったか。


 だが、なぜ、こんなに急に。


 タンダルが無言で、一本の剣を俺に差し出してきた。


「親父の命です。受け取ってください」


 タンダルが差し出したのは、鞘にも入っていない、抜き身の剣だった。

 装飾は一切ない。


 柄も、鍔も、すべてが実用一点張り。

 色気も素っ気もない、ただの鉄の塊のような剣。


 だが、その武骨さが、どうしようもなくマンダルらしかった。


「……細かい事はランダルに聞いてください」


 タンダルは絞り出すような声で続けた。


「俺は途中で、鍛冶場を出されました。わかってなかったんです……この剣を見て、自分の未熟さを痛感しました。親父は、父は、偉大な鍛冶師でした」


 そう言い残すと、タンダルは去っていった。


 俺の手の中には、一本の剣が残された。

 ずしりとした重み。


 鈍色の刀身には、職人が命を削って刻み込んだ執念が宿っている。


「……マンダル」


 視界が急激に滲む。

 もう、あの憎まれ口を聞くことは……



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