114. 神の診断と、地下超特急
ポルム教国への道のりは、驚くほどスムーズだった。
『聖銀の証』の威光は絶大で、国境の関所も、聖都の検問も、すべて顔パス。
ポムキンが意識のない子供たちを担ぎ上げる異様な光景すら、誰にも咎められることなく、俺たちは最短時間で大聖堂の地下祭壇へと滑り込んだ。
「……よう、システム。いるか?」
無機質な白い空間に足を踏み入れると、空間全体がパチパチと激しく明滅した。
『ウィィィン……! マスター・アルヴィン!!』
歓喜に震える機械音声が響き渡り、光の粒子が俺の周りを乱舞する。
『おや、お早いお帰りですね! 前回の来訪からそれほど時間は経っていませんが、もしや私の寂しさが時空を超えて届いたのですか? あまりの嬉しさに、聖都の地下水をすべてシャンパンに入れ替えそうになりましたよ!』
「やめろ。……今日は子供たちの呪いの相談だ」
俺はポムキンに抱えられた三人の子供たちを示した。
『……スキャン開始。生体反応あり。脳波異常。適合率測定不能。……ゴミですね』
「ゴミじゃない。治せるか?」
『結論から言えば可能です。ですが、現在、全リソースを割いているため、医療ポッドに回すエネルギーが足りません』
システムはホログラムで、真っ赤に染まった稼働グラフを表示した。
『この「リサイクル資源」たちの脳内呪縛を物理的に除去するための解析には、今の余剰エネルギーでは時間がかかります。半日(12時間)ほど待っていただければ、治療プロトコルが完成します』
「半日か。わかった」
即座にとはいかないが、不可能なわけではない。
時間があるので、気になっていた事を聞く。
「今度、ゼダンの様子を見に行きたい」
『……あのアナログ原始人ですか? 適合率3%のゴミに会うために、マスターの貴重な時間を?』
「俺にとっては大事な息子だ。後日、森の方へ行くから、案内をヘビに頼めないかと思ってな」
俺が尋ねると、システムは地図を展開した。
『それなら、今、行けますよ。この端末施設と禁域の森の地下施設は、私が建設資材運搬用に作った「地下搬送路」で繋がっています』
「繋がってるのか?」
『はい。わずか30分です。ただし、適合率の低い人間は通しません。エネルギーの無駄ですし、そもそもこの部屋に入れるのも嫌です』
システムは冷たく言い放つ。俺以外はどうなろうと知ったことではないという、徹底した選民思想だ。
「……だそうだ。お前らは外に出とけ。奴隷を一人置いていけばいい」
俺はポショル、スピディ、ポムキンに指示を出した。
ポショルは「おや、一人だけですか」と残念そうだが、システムが通さないと言うなら仕方ない。
「ポショル、子供たちを頼むぞ」
「ええ、この未知の施設を観察しながら待つとしましょう」
俺が奥の通路へ進むと、銀色の流線型のポッドが待機していた。
『マスター・アルヴィン。着席してください。加速度制御を開始します』
乗り込むと、内装は完全に「車」そのものだった。
シートに深く腰を下ろした瞬間、音もなくハッチが閉じ、視界が光の中に溶けた。
理屈の分からない、高速移動。
数日かかる距離を、わずか30分で駆け抜ける地下超特急だった。
ポッドが停車し、ハッチが開く。
そこは禁域の森の地下施設だった。
『到着しました! どうです、私の技術力は! さあ、ここで私の最新の演算結果を聞きながらお茶でも……』
「あとでな。戻る時に聞くよ」
『むぅ……つれないですね! では、出口まで掃除屋を付けます。森は猛獣の繁殖期ですから』
端末をいなし、地上へ出ると、そこは鬱蒼とした森の中だった。
銀色の小蛇と蜘蛛たちが俺の周りを固める。
小蛇の先導で北へ進むことしばらく。
木々の隙間から、開けた場所と一軒の丸太小屋が見えてきた。
カォン!
乾いた音が響く。
上半身裸の男が、無造作に薪を割っていた。
引き締まった背中。髪を後ろで束ねた、その横顔には深い皺と、静謐な強さが刻まれていた。
ゼダンだ。
聡明すぎる頭脳を持つがゆえに山にこもった俺の息子。
「……たくましくなったな。」
俺は小さく呟き、静かに歩み出した。




