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キングスレイヤー真  作者:


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113/139

113. 職人の矜持と、白き聖都

 ドモトーアの工房を後にし、俺たちは改めてアインクラを出発しようと馬車の準備を整えた。


 ショルとスピディ、ポムキンはすでに配置についている。


「さあ、行くぞマンダル。予定より遅れちまった」


 俺は馬車の扉を開けて促した。


 だが、マンダルは動かない。


 腕組みをして、地面に根が生えたように仁王立ちしている。


「……おい、どうした。乗らないのか?」


「いや、俺はいかん」


 マンダルは短く言い放った。


「はあ? 何を言ってんだ。駄々こねてないで乗れよ」


「だだなんざこねてねぇ。……俺は帰る」


「帰るって、どこにだよ」


「工房だ。鉄を打ちてぇんだよ、今すぐに」


 マンダルが顔を上げた。


 その瞳には、さっき見たドモトーアの剣――あの「超えられぬ壁」に対する焦燥と、職人としての激しい炎が宿っているように見えた。


 あんなものを見せられて、のんびり馬車に揺られて旅などしていられない。


 そういうことだろう。


「……はあ」


 俺は深くため息をついた。


 こうなった職人は頑固だ。テコでも動かないだろう。


「……分かったよ。その目を見せられちゃ、無理強いはできねぇな」


 俺は諦めて肩をすくめた。


「で、どうやって行くつもりだ? 俺たちの馬車を使わずに」


「人数の多い商隊にでも便乗させてもらうさ。金なら多少持ってるし、護衛代わりにもなる」


「……そうか」


 俺は懐に手を入れ、ジャラリと重い革袋を取り出した。


「ほらよ」


「おい、こんなには要らねぇぞ」


「いーから持っとけ。路銀と、材料費だ」


 俺は金貨の詰まった袋をマンダルに押し付け、さらに別の小さな包みを渡した。


「こっちは、何かの時のために身につけておけ」


「……?」


 マンダルが中身を覗くと、そこには白金貨が二枚、鈍い光を放っていた。


 驚いて突き返そうとするマンダルの手を、俺は制した。


「いいな、絶対に死ぬなよ」


「……チッ。憎たらしいガキだぜ」


 マンダルは苦笑し、大切そうに懐にしまった。


「あと、行くならコジインにしろ」


「コジイン?」


「ああ。あそこの工房、もうお前のものにしていいから」


「あそこなら設備も整ってるし、サハジたちもいる。飯の心配もねぇだろ」


「……ふん。至れり尽くせりかよ」


 マンダルはニヤリと笑い、拳を突き出した。


「またな、クソ頑固親父」


マンダルの拳が、俺の拳にコツンと当たった。

 硬い。……いつもより、少しだけ。


「………」



 いつものように軽口を叩くこともなくマンダルは背を向け、


 一度も振り返ることなく人混みの中へと消えていった。その背中は、すでに次の「最高の一振り」を作ることで頭がいっぱいなようだった。


          


 マンダルと別れ、俺たちを乗せた馬車は、一路「ポルム教国」を目指して街道をひた走った。


 道中は驚くほど順調だった。

 盗賊が出ることもなく、平穏そのものだ。


 数日後。

 俺たちは国境を越え、ポルム教国の領土へと入った。


 宗教国家らしく、道ゆく人々の中には巡礼者の姿も多く見られる。整備された石畳の道を進むこと数刻。


「ボス、見えてきましたよ!」


 御者台のスピディが声を上げた。

 俺は窓から顔を出した。


 視界の先に、天を突くようにそびえ立つ白亜の巨塔。


 太陽の光を浴びて神々しく輝くその建物こそ、この国の、いやこの大陸の信仰の中心。


 ポルム教国、大聖堂。

 俺たちはついに、その巨大な聖域の足元へとたどり着いた。



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