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キングスレイヤー真  作者:


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110/140

110. 鉄の街と、不動の戦友

 アインクラの街に到着した俺たちは、その日は宿を取り、旅の疲れを癒やすことにした。

 ポショルによる子供たちのケアも順調で、容体は安定している。


 翌朝。

 俺たちはダガンの実家へ向かうため、早朝から宿を出発した。

 職人の街であるアインクラは、朝から活気に満ちている。


「……ほう。ここが『鉄の街』アインクラか」


 荷馬車の荷台で、マンダルが食い入るように外を眺めていた。

 その目は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように輝いている。


「マンダルさん、アインクラは初めてですか?」

「ああ。噂には聞いていたが、ずっと山奥に引きこもっていたからな。死ぬまでに一度は来てみたかったんだ」


 通り過ぎる工房から響く槌音、煙突から立ち昇る煙。

 それらを眺めるマンダルの横顔を見て、俺は安堵した。

 死んだように枯れていた老人の姿はもうない。今の彼は、一人の職人として「熱」を取り戻している。

 やっと復活したな、と俺は内心で微笑んだ。


           


 ダガンの案内で街外れに向かうと、少し変わった家が見えてきた。

 この街ならどこにでもある鍛冶場や工房がない。

 あるのは、手入れされた広大な畑と、古びた小さな道場だけだ。


(……グレン)


 俺は心の中で、かつての戦友の名を呼んだ。

 前世のアーノルにとって、グレンは二つ年下の弟分だった。


 あいつの持っていた能力は【農業】。

 本来なら戦いとは無縁の、土を耕すための力だ。

 そんなあいつが自警団に入りたいと志願してきた。


『俺も強くなりたい』


 だが、俺はあいつを一目見て、興味を失った。

 才能の欠片も見当たらなかったからだ。

 農業スキルじゃ無理だと。


 けれど、あいつは諦めなかった。

 来る日も来る日も畑仕事と剣の鍛錬で足腰を鍛え続けた。

 そして本当に強くなった。

 あいつを育てたのは俺が育てたロバーソンとメイシーだ、あいつらはずっとグレンと鍛錬を重ねていた。

 特にメイシーとは結婚もしないで、随分長く鍛錬ばかりしていた。

 

 そして、最後の戦いでもあいつは逃げなかった。

 圧倒的な敵を前に、命がけで俺の盾となり、血まみれになりながら戦ってくれた。

 俺にとって、かけがえのない親友であり、戦友だ。


「……着いたぜ。ここが俺の実家だ」


 ダガンが扉をドンドンと叩く。


「親父! 帰ったぞ! ダガンだ!」


 だが、返事がない。


「……ん? 留守か?」


 ダガンが首を傾げながら、母屋の方へと回る。

 俺たちも後に続いた。

 玄関を開け、奥の部屋へ入ると――。


「……ううっ、痛ててて……! クソッ、湿布が剥がれやがった……!」


 布団の上で、全身を包帯で巻かれた男が呻いていた。

 ダガンを一回り小さくし、さらに凝縮して鋼にしたような初老の男。

 だが、さすがに寄る年波には勝てないのか、その体には隠せない老いが滲んでいた。


「親父!? 何やってんだ!」


 ダガンが駆け寄る。

 グレンは息子に気づくと、バツが悪そうに顔を歪めた。


「おう、ダガンか……。いやなぁ、ちっと修行で張り切りすぎちまってな。新しい技を試そうとしたら、ポキッといっちまった」


「ポキッとじゃねえよ! 歳を考えろ、歳を!」


 どうやら、修行のしすぎで骨を折ったらしい。

 相変わらずだ。あいつらしい無茶な生き方は、還暦を過ぎても変わっていない。


「……情けない姿だな、グレン」


 その時、マンダルが一歩前に出た。


「あん? ……誰だ?」


 グレンが目を細め、そしてカッと目を見開いた。


「ま、まさか……マンダルさんか!?」


「久しぶりだな。まだ生きてて安心したわい」


「マンダルさん!! 久しぶりだー!!」


 グレンが骨折も忘れて飛び起きようとし、激痛でまた布団に沈む。

 彼にとって、マンダルは同郷の仲間であり、皆の武器の研ぎやメンテナンスを一手に引き受けてくれていた恩人だ。

 錆びついた剣も、刃こぼれした槍も、マンダルが研げば新品同様になった。彼がいたから、俺たちは強くなれたのだ。


「すげぇ……マンダルさんまで一緒とはな。ダガン、お前よく連れてこれたな」

「いや、俺じゃねえよ。連れてきたのは……」


 ダガンが俺の方を見た。

 俺は一歩前に出て、丁寧に一礼した。


「初めまして。アケニース家三男、アルヴィンと申します」


「……アケニース?」


 グレンの視線が俺に突き刺さる。

 一瞬の沈黙。

 そして、彼はすべてを理解したように目を細めた。


「……そうか。アーノルのご子孫か」


 アケニースの名を聞けば、あいつならすぐにアーノルに辿り着く。

 グレンは俺を頭からつま先までじっくりと観察し、ふと、懐かしそうに笑った。


「……ほう。いい目をしている」


 グレンは口の端をニヤリと吊り上げた。


「ダガンが世話になってるようだな、坊主。……いや、アルヴィン様」


「こちらこそ。ダガンには助けられています。貴方が編み出した『不動剣』、素晴らしい剣技ですね」


「……へっ、よしてくれ。俺はただの農民だよ」


 グレンが照れくさそうに笑う。

 俺は胸が熱くなるのを抑えながら、静かに微笑んだ。

 直接名乗ることはできない。だが、こうして再び会えただけで十分だ。


「怪我の具合はどうですか? うちに優秀な……少々変わり者ですが、腕の良い薬師がいます。診せましょうか?」


「薬師? けっ、そんなもん必要ねえよ。寝てりゃ治る」


「往生際が悪いですね。……ポショルさん、頼めますか?」


 俺が呼ぶと、背後から変態紳士が「おやおや」と顔を出した。


「素晴らしい……! 老いてなお衰えぬ筋肉の密度! これは骨折の治療よりも、筋肉の標本として保存したいくらいですねぇ!」


「なんだこの変態は!! 近寄るな!!」


 グレンの怒号が響く。

 騒がしくも温かい、再会の朝だった。


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