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キングスレイヤー真  作者:


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11/13

11. 5歳児の信用と、大人の壁

 ロリーナという「神」の原石を見つけた翌日。


 俺は居ても立っても居られず、父マーランの執務室へと向かった。


 本来なら爺様ダイファーが帰ってくるのを待って、援護射撃をもらうのが定石だ。


 だが、待てない。


 あんな才能が野放しになっている状況が怖すぎる。万が一、他の誰かに見つかったり、流行り病で死んだりしたら、俺は悔やんでも悔やみきれない。


(……行くぞ)


 俺は大きく息を吸い込み、重厚な扉をノックした。


「入れ」


 短く、許可が下りる。

 中に入ると、マーランは相変わらず書類の山と格闘していた。

 俺は彼の正面に立ち、単刀直入に切り出した。


「父上。専属の従者をつけさせてください」


 マーランの手が止まった。

 彼は眼鏡の位置を直し、冷ややかな視線を俺に向けた。

 そこにあるのは、親としての温情ではなく、領主としての査定の目だ。


「……従者? お前にはミナという専属メイドがいるはずだ」


「ミナは身の回りのお世話係でしょ。欲しいのは、将来の手足になってくれる、同年代の部下だよ」


 俺は言葉を選びながら、昨日見つけた少女のことを説明した。


 もちろん「槍神」なんて単語は出さない。「筋がいい」程度に留める。


「……なるほど。街で見かけた娘を雇いたいと」


 マーランは鼻で笑った。


「遊びではないぞ、アルヴィン。人を一人雇うという意味を理解しているのか? ただでさえ生産性のないお前に、さらに固定費を上乗せしろと言うのか? 冗談も休み休み言え」


「冗談じゃない。僕は本気だ」


 俺が食い下がると、マーランは算盤に似た計算具を弾くように指ではじいた。


「……いいだろう。そこまで言うなら、現実的な話をしよう」


 彼は指を3本立てた。


「人を一人雇うには、最低でも年間で金貨15枚はかかる」


 木こりだった前世の父ガリオンの年収が金貨数枚〜十数枚だったことを考えれば、子供一人の養育費としては高いくらいの金額だ。


「その娘を屋敷に住まわせ、食事を与え、衣服を整え、給金を払う。一年でそれくらいの費用がかかる」


 マーランは冷徹に告げた。


「その『一年分の費用』を、お前自身で用意できるなら許可しよう。アケニース家の財布からは一銭も出さん」


「……分かりました」


 俺は即答した。

 マーランは眉をひそめた。


「口で言うのは簡単だがな。お前に資産などないはずだ。お小遣い制も導入していないしな」


「自分で稼ぐよ」


「ほう。……まあ、期待せずに待っているぞ」


 彼は「どうせ無理だ」という顔で、再び書類に視線を戻した。

 舐めてくれるとは、ありがたい。

 金さえあれば文句はないはずだ。



 ◇


 翌日。

 俺はスピディを伴い、再びアーモン商会を訪れていた。


「おいおいアルヴィン様よぉ、昨日は挨拶だけって言ってたのに、今日は商談か?」


「うん。父上を見返すために、大金が必要なんだ」


 俺は懐に忍ばせた数枚の羊皮紙を確認した。

 昨夜、徹夜で書き上げた「事業計画書」だ。

 内容は、前世の知識を活かした新商品や、物流の効率化案。

 これをザイクに売れば、金貨15枚なんて端した金だ。


 商会の応接室に通された俺は、会長のザイクと対面した。


「……なるほど。アルヴィン様ご自身のアイデアを、我が商会に売りたいと」


 ザイクは羊皮紙に目を通した。

 最初は穏やかな表情だったが、読み進めるにつれてその目が大きく見開かれていった。

 めくる手が早くなる。額に脂汗が滲む。

 商売人としての本能が、そこに書かれた情報の価値に震えているのが分かった。


「……信じられない。この計算概念、それにこの商品は……」


 ザイクが顔を上げ、俺を凝視した。


「アルヴィン様、これを本当にお一人で?」


「うん。どうかな? 子供の落書きだと思わないでほしいんだけど」


 俺が釘を刺すと、ザイクは真面目な顔で首を横に振った。


「とんでもない。……どれも画期的です。これがあれば、我が商会の利益は桁が変わるでしょう。それに年齢など関係ありません。良いものは良い、それが先代アサータクからの教えであり、我が商会の理念ですので」


「じゃあ、買ってくれる?」


 俺が身を乗り出すと、ザイクは羊皮紙を机に置き、申し訳なさそうに、しかしきっぱりと言った。


「……いえ。現状では、契約できません」


「なんで? 良いものなんでしょ?」


「ええ。ですが、アルヴィン様は『アケニース伯爵家のご子息』です」


 ザイクは商人の顔になった。


「貴族のご子息、それもまだ5歳の未成年の方と、独断で金銭の授受を行うわけにはいきません。もし後で領主様から『騙し取った』と言われれば、商会は終わりです」


「……ぐっ」


「この契約を進めるには、保護者であるマーラン様……領主様の『許可証』が必要です。それさえあれば、喜んで金貨をお支払いしますが」


 正論だ。あまりにも真っ当な社会のルールだ。

 前世の俺なら「裏取引」で済ませたかもしれないが、今の俺は立場がありすぎる。



 ◇


 すごすごと屋敷に帰った俺は、その足で再び父の執務室へ突撃した。


「父上! 商売の許可をください!」


「……商売?」


 マーランは怪訝な顔をした。


「アーモン商会にアイデアを売って、お金を作るんです。だから、契約の許可を……」


「ダメに決まっているだろう」


 一刀両断だった。


「アケニースの名は、お前のオモチャではない。領主の息子が、街の商人と金銭トラブルを起こすリスクを考えろ」


「トラブルなんて起こさない! 正当な取引だ!」


「相手がどう思うかは別だ。『領主の息子に強要された』と噂が立てば、家の信用に関わる。……却下だ」


 取り付く島もなかった。

 マーランにとって、俺の個人的な小遣い稼ぎなど、家のリスク管理に比べれば塵のようなものなのだ。

 彼はそもそも、俺がまともなアイデアを持っているとすら信じていない。


 俺は部屋を追い出され、廊下で頭を抱えた。


「……詰んだ」


 金を作る手段はある。

 だが、金を作るための「資格」がない。

 父の許可がなければ商売はできず、商売ができなければ金は作れず、金がなければロリーナを雇う許可は出ない。

 完璧な悪循環だ。


「くそっ……どうすればいいんだ……」


 俺は自分の無力さを噛み締めた。

 知識があっても、社会的な信用と権限がない子供には、何もできない。

 このまま指をくわえて、あの才能を諦めるしかないのか?


 いや、何かあるはずだ。

 父の許可も、家の名前も使わずに、金貨15枚という大金を手に入れる方法が。

 俺は廊下の壁に背を預け、必死に脳みそを回転させ始めた。




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