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キングスレイヤー真  作者:


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102/140

102. 路地裏の薬師と、真夜中の買い物

 カイルの工房を後にした俺たちは、夜風に当たりながら大通りを歩いていた。

 懐には、かつて俺が投げ渡し、そして巡り帰ってきた白金貨の重みがある。

 腹は満ち、懐も温かい。最高の気分だ。


「……ん?」


 宿へ向かう曲がり角に差し掛かった時だ。

 ふと、視界の端――暗い路地裏を、二つの人影が横切るのが見えた。

 男が二人。そのうちの一人が、小さな「荷物」のようなものを抱えている。

 いや、荷物じゃない。だらりと垂れ下がった細い腕。あれは子供だ。


(……人攫いか?)


 関わるべきことでもないが、胸騒ぎがした。

 俺は咄嗟に目を細め、意識を集中させた。

 【見る力】、発動。


 抱えられている子供の情報が浮かび上がる。


名前 ムルミ

年齢 7歳

性別 女

状態 呪縛

能力 薬師


「……またか」


 俺は思わず足を止めた。

 状態『呪縛』。

 見覚えのある、禍々しい文字だ。

 晩餐会で見たクサレッタの従者、そしてハインツ商会で見た女奴隷と同じ状態異常。ポショルが「理解不能な術」と称した、人の心を縛るあの力だ。


 だが、それ以上に俺の目を釘付けにしたのは、その下の項目だった。

 能力『薬師』。

 薬を作る力。

 この能力を持つものを見たのは初めてだ。ポショルは薬学だが、まああれはなー。


(……あんな原石が、呪いで潰されるのか?)


「……ボス? どうしました?」

 俺の様子が変わったことに気づき、スピディが声をかけてきた。


「スピディ。あの二人組が見えるか?」

 俺は顎で路地裏をしゃくった。


「ええ、見えますよ。柄の悪そうな連中ですね」


「あいつらを点けろ。アジトを特定するんだ」


「へ? 今からっすか?」


「ああ。危険は避けろよ。深追いはするな。会話が聞こえたらラッキー程度でいい。場所がわかったらすぐに宿に戻ってこい」


「……了解っす。人使いが荒いなぁ」

 スピディはぼやきながらも、瞬時に気配を消し、闇に溶けるように路地裏へと消えていった。


「ポムキン、俺たちは宿に戻るぞ」



          


 宿に戻ってから、茶を一杯飲み終える頃には、スピディが窓から音もなく戻ってきた。

 さすがは『パシリ』だ。仕事が早い。


「窓から入るな。どうだった?」


「……ちと、きな臭いっすね」

 スピディは神妙な顔つきで報告を始めた。


「奴らが入っていったのは『ガミカース商会』……あのクサレッタって女が仕切ってる商会の裏口でした」


「やっぱり、あそこか」


「中までは入れませんでしたが、換気口から少しだけ会話が拾えました。『もう終わったのか?』『第一段階はな。子供は壊れやすいから慎重にやれ』『全く反応がなくなるのは値打ちが下がる』……とか、そんな物騒な内容でしたぜ」


「……なるほどな」


 『第一段階』。

 おそらく、自我を奪って従順な人形にするための処置――あの『呪縛』を植え付ける儀式を行っている最中なのだろう。

 子供を拾い、あるいは攫い、徹底的に調教して高値で売りさばく。奴隷商人の中でも一番下衆な連中のやり口だ。


「『上の指示を聞きに行かねぇとな』とも言ってました。まだ完全に手遅れってわけじゃなさそうですが……」


 スピディが言葉を濁す。


「……よし」


 俺は立ち上がった。


「スピディ、ポムキン。行くぞ」


「は? 行くってどこへ?」

 スピディが目を丸くする。


「決まっている。そこだ。その子供を買う」


「ええぇ……マジっすか? もう夜ですよ? 俺、今日は走り回ってクタクタなんすけど……」


「馬鹿言え。夜こそが奴隷売買の本番だ。昼間に堂々と人身売買をする商人がどこにいる」


「いや、まあそうですけど……」


 俺には確信があった。

 あの子供――ムルミには価値がある。

 生まれつきの『薬師』。そんな逸材を、自我のない操り人形にされてはたまらない。ここで見過ごして廃人にされては、目覚めが悪いどころの騒ぎではない。


「ポムキン、金を持て。さっきの白金貨もだ」


 ポムキンは文句ひとつ言わず、武器と金袋を準備した。


「おい、ポショルはどこだ?」

 部屋を見渡すが、あの変態紳士の姿がない。薬のことなら専門家の意見も聞きたかったが。


「ああ、あの先生なら『この街の夜の生態系を調査してくる』って言って、酒場街へ消えましたよ」


「……チッ、肝心な時にいないな。まあいい、奴は放っておけ。行くぞ」


「へいへい……。今日のボス、なんかスイッチ入ってません?」



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