責任と期待
ログマリット城下町から少し離れた街道にて。
リダウト国民から、完全に『悪者』と認定されたであろう妖族の面々が、木陰で小休憩をしていた。
「それでは……あそこまでは、全て────あの『人族の代闘者』のシナリオ通りだったと?」
「最後の標的が、俺だったのか、イミュテリエルだったのか、それは分からないけど……まんまと乗せられたって訳だな」
今回におけるオームの主な目的は────『自堕落した国民の意識を変えること』。
その為には一度、人々を国家存亡の危機に立ち合わせる必要があった。
人族の代闘者の暴走、リダウト王家の転覆、『大いなる意志』の災厄、そして、妖族の代闘者の襲撃……それらを経て、人々が国家存亡どころか、自らの命の危機を察したところで……『勇者』の台頭だ。
貧しく、幼く、人として最底辺に位置する『ウリカ』が、その危機に対して果敢に立ち向かう様を見せ付けることで……結果として、人々の意識はガラリと変わる。
つまり。
良くも悪くも、リダウト王家も、異端協会も、国民全体も、イミュテリエルも、そして俺自身も……今回は、見事にオームの手のひらで踊らされていたわけだ。
「凄まじい……ここまでの大規模な策略を、たった一人で操り、そして実現してしまうだなんて……」
「……それだけじゃないんだよ、あいつの、本当に恐ろしいところは」
「え?」
そう。
オームは、分かっていたのだ。
このような状況に陥った時、ニリアンやセオドーラが、『どのような行動』を取るのか……そして、俺がその策略に気付いた時、人族を見捨てることはせずに一芝居を打ってくれる、ということも……。
あの代闘者は────敵も、味方も、『全て』分かった上で、俺たちを策略に組み込んだ。
代闘者という特別な立場に胡座をかくことなく、利用するものは利用し、信頼するものは信頼する……柔軟な発想と、理解度の深さ。
あの魔族の代闘者、ミオと比べて……まったく別の意味で、異次元に吹っ切れた人柄を持ち合わせている。
本当に、末恐ろしい『英雄』だ……。
「ふぇぇ……メッチャクチャ疲れたよぉぉ……」
「なんか胸の奥が気持ち悪いッスぅぅ……」
「いや、本当に大丈夫か、お前ら?」
俺の右膝を枕にするイブキと、左膝には猫の姿でぐて~っと寝そべるルキ。
ルキは単純に張り切って『妖力』を使い過ぎた故の、ガス欠。
イブキに至っては、全身を包帯でぐるぐる巻きにしなければならない程の重体だったのだが……カラルテ曰く、鬼の生命力があれば、少し横になればその内に全快するとのことらしい。
『鬼』ってすげぇ。
「あんなおっきい変化したの初めてなんッスよぉ……妖力使い過ぎて身体ダルいッスぅぅ……」
「少々軟弱過ぎやしませんか?」
「ワレも軟弱で良いから天狗さんが飛んで連れてってぇ……」
「人を便利な運び屋扱いしないで貰えません?」
オマケに、これまでの緊張が解けて、一気に疲労感が湧いて出てきたのだろう。
イブキに至っては、イミュテリエルに捕まってから今まで、一切休みも取らずに動き続けていたのだから、疲れるのも無理はない。
何にせよ……こちらもこちらで、ようやくいつもの空気が戻ってきた。
そんな安心感を覚えたところで……。
ふと、隣の森林の方から『気配』を感じて、そちらへ視線を向ける。
「──ちょっと悪い、二人を見ていてくれるか?」
「わわぁっ、待ってぇぇ~、英雄さん行かないでぇぇ~っ」
「兄貴ぃぃ~っ」
「えぇ、構いませんが、どちらへ?」
「──すぐ戻る」
「ちぇ~、じゃあ天狗さんにくっ付くぅ~」
「自分もぉ~」
「ちょっ、やめっ……ベタベタしないっ!」
そんなやり取りを背に、俺は一人、森林の中に足を踏み入れる。
少しの間、草木を掻き分けて辿り着いた場所には、木漏れ日に照らされる一個の大きな岩。
その上には、一人の少女が腰掛けていた。
こちらの接近に気付いた彼女は、硬い表情のままそこから飛び降りてくる。
「────よぉ、英雄」
ルコシャル。
今回の事変における、『引っ掻き回し役』。
今思えば、ただ一人……ルコシャルの動きだけは、オームにとっても予想外だったのかも知れない。ルコシャルの行く先々に彼が現れたのは、彼女の動向を見張る必要があったからなのかも知れない。
あの異次元な策略家を、それほど気を引くことが出来たという事実……。
それは、彼女の持つ『可能性』を示唆しているのだと、そう思ったりするのだ。
「──これからどうするつもりだ?」
「あのザカラって男と話をしてな、ナビードに残ることにした」
「ナビードに属し続ければ、俺たち代闘者だけでなく、全世界から『敵』扱いされる羽目になるぞ」
「──あたしにとっちゃ、『代闘者』も、『この世界』も、みんな敵だ。今更、誰かの理解が欲しいなんて、微塵にも思っちゃいねぇよ」
「お前らしいな」
『悪』を許さず、『代闘者』を許さず、『この世界』を許さず……そしてその為に、自らの『悪』を貫く。
それ即ち────『悪』による、『悪』の制裁。
一歩間違えば、破滅の一途を辿る危険な道筋かもなの知れない。
しかし、『ただの悪』ではなく、『ルコシャルの悪』ならば……優しさと強さを兼ね備えた彼女ならば……きっと、心配は要らないだろう。
そんな信頼感を他所に、ルコシャルは、少し考えるように無言になってから、唐突にこう切り出した。
「────これからは、一日一回お前を殺しにいく」
「──!」
「『あんなこと』を言ってくれやがったンだ、最後まで責任取って貰わねぇと困るぜ?」
「責任、か」
「だから、覚悟しておけ────あたしはいつの日か、必ずお前を殺す。逃げンじゃねぇぞ、湊本エルマ」
彼女の気丈に振る舞う態度と、不敵な笑みを浮かべる様を見て……俺は、確信した。
きっと、大丈夫だ、と。
『ただの悪』ではなく、『ルコシャルの悪』ならば……優しさと強さを兼ね備えた彼女ならば、何も心配は要らないだろう。
同時に、こんな期待もある。
『悪童』の道を突き進むルコシャルが、『物の怪』である俺と触れ合うことで、どんな人間になっていくのか……正直、興味が尽きない。
「いいぞ、付き合ってやる────俺が死ぬ、その時までな」
「…………ふっ。そうこなくちゃな」
────なんだか、面白くなってきた。
思わず小さくニヤけてみると、ルコシャルも、何処か楽しげに笑い声を漏らす。
そして、その場で反転し、肩越しに手をヒラヒラと振りながら、森林の中へと歩み去っていくのだった。
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