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 代闘者 ✕ 大いなる意志


 

 ───まさか、それで『不意打ち』のつもりなのだろうか。


 正面切っては勝てないと判断してか……。


 どうやら、あの馬鹿デカイ図体を隠し、足元に身を潜めている『奴』が居るようだ。


 恐らく、『身を隠す』こと自体に慣れていないのだろう。


 その巨大な存在感のせいで気配を隠し切れていない為、まったく意味を成していないことにすら気付いていない様子だ。


 俺はその場で一発、地面を踏み鳴らし────『そいつ』へと呼び掛けた。


 こう、胸ぐらを掴み、目と鼻の先で脅し立てるように。


「おい、聞いているか────『地龍イヴェヌス』とやら」

『──』

「このまま黙って消えるなら見逃してやる。だが、まだ続けるつもりならば────『死』と『敗北』……永遠に消えない『傷』と『屈辱』を、その神聖な身体に深々と刻み込んでやるぞ」

『──ッ!』


 少しの間、『地龍』は無言を貫いていた。


 しかし、やがて何者にも悟られないように……まるで地面に浸透する水のように……静かに、そこから消失していくのだった。


 その事実を悟ったのは、隣に立つオームだけだ。


「──くくっ、流石は『物の怪』だ。他者を脅すことに関しては超一級よなぁ?」

「前世ではそうやって生きてきたもんで」

「ほぅ?」

「だけど、中には脅し程度じゃ退かない奴もいる……あの、空を飛んでいる奴とかな」

「────シュゴゴォォォォォォ……ッ!!」


 チラリと視線を上げれば、そこには臨戦態勢を整える『天龍ロ=ワ』の姿。


 そいつは、膨大な量の空気を吸い込みながら────その大口に、莫大なエネルギーを蓄積し始めた。


「──エルマぁッ! あいつッ、今までの比じゃない『力』を放出しようとしてるよ……ッ!」

「この感じは……マズイ……ッ! あんなのが放出されたら、今度こそ……リダウト王国どころか────人域そのものが半壊するわよ……ッ!!」


 どうやら、本腰を入れてこちらを抹殺するつもりらしい。


 天龍が手に掛けたのは、人域の存亡。


 イブキとニリアンが焦った様子で声を上げるのを、「落ち着け」と、オームが軽く片手を上げてそれを制止させた。


「外交、取引、交渉術……国を治める上では必要不可欠な素質だ。だが、それが通じぬ相手ならば────俺様の圧巻なカリスマ性とッ、圧倒的な武力で殲滅するしかあるまいなぁッ!!」

「急にスイッチ入るじゃないですか……」


 途端に、豪快な雄叫びを上げたオームはニヤリとほくそ笑むと……自身の正面に、一本の『剣』を顕現させた。


 すると、その『剣』が一瞬の内に……。



 ────数千本と大量に分裂し、彼の周囲に整列。



 オームが自身の手を真っ直ぐに空高く掲げると、数千本に及ぶ剣の刃先が、真っ直ぐに天龍へと向けられた。


 そして。



「さぁ、行くが良い────【我が友】よ」



 ────一斉に、射出。


 風を切り裂く速度で、飛翔した剣の大群。


 それらは瞬く間に天龍の元に到達し……。



 ────その分厚い皮を切り裂き、鱗を剥がし、翼を破り、肉を貫いていった。



 どうやら……初っぱなから、エンジン全開のようだ。


 こんな間近で、【それ】を目の当たりにすることになろうとは……。



「──出たな、【具念】」



 『人族の代闘者』、オームの扱う【具念】────【巧手こうしゅ】。


 それが如何に扱いが難しく道具であろうと、それが選ばれし者にしか扱えない武具であろうと……彼の手に掛かれば、そんな制約は全て破られる。


 彼が、その身に『真器』と呼ばれる特別な武具を、『大量』に宿すことが出来ているのは……その【巧手】が所以と言えるだろう。


 故に、理解不能、予測不可能。



 彼の【巧手】による一挙一動は────『神々』ですら、恐れおののく。



「────ハッハッハァッ!! その翼剥ぎ取り、地の底へ叩き落としてくれるわぁッッ!!」


 一撃で天龍へ痛手を負わせる業物が、まるでマシンガンのように、新たに生成されては、次々に放出されていく。


 それには、流石の天龍もひとたまりもない。


「────シュギィッ!! ュゥウウウウウウッ!!」


 エネルギー放出を中断し、既に傷だらけの翼を大きく広げる。


 その風圧で、剣は一斉に吹き飛ばされてしまった。


「オイオイ。まさか、それで精一杯とは言うまいな? 『伝説』、『大いなる意志』、その異名を与えられるだけの実力を────俺様に見せてみるがいいッ!」


 しかし。


 それでも剣の大群は直ぐに体勢を整え、天龍へ襲い掛かっていく。


 そこで、天龍は迎撃手段を変えた。


 両拳を握り締めると、その巨体に似つかわしくない機敏な動きで、迫り来る剣を……拳と脚と翼と尻尾を巧みに扱い、次々に粉砕していく。


「ほぉっ? 肉弾戦もお手の物とはやるではないか────だがっ!」

「──ッ!!」


 その隙に。



 俺は、天龍へ向かって飛翔する剣の大群を────上へ上へと跳び移っていた。



 彼の放つ『真器』は、そんじゃそこらの武器とは比べ物にならない。


 その飛翔力は「鷹」を越え、その強度は「岩石」を越える……人間一人が足場に使ったとしても、一切軌道がブレる気配はなかった。


 流石は『代闘者』の扱う武器だ、といったところか……。


「我が配下にも活躍の場を提供する。それぞ、王たる者の采配よぉ」

「──誰が配下だ」


 そして、辿り着く────天龍と、同じ高度まで。


 遠くから見てもかなり大きいことは分かっていたが……こうして近付くと、その巨体ぶりに圧倒される。下手をすると、リダウト城に匹敵する大きさかも知れない……。


 そんな相手を前に、俺は【妖刀】を手中に顕現させると共に────思いっきり振り抜く。


 何かを察したか、天龍は図体に似合わぬ機敏な動きで、それを回避した。


 その間、俺と天龍の周囲をオームの剣が、まるで羽虫のように飛び回っている訳で……。


「つか、ちょっ……この剣、ジャマ」


 ────思わず、虫を払うように薙ぎ払い、木っ端微塵に粉砕させる。


「──いやっ、お前が壊すんかいッ!!」

「すまーん。ちょっと邪魔だったんで……なッ!!」


 続けて、一閃。


 天龍は正面から受けることをせず、身体を逸らしながら、拳で斬撃を逸らした。


 こちらも負けじと、舞い散る剣を足場に飛び跳ねながら、次々と斬撃を繰り出していく。


「避けるのがやっと、ってところだな。人を見下していたワリには、大したことないんじゃないのか?」

「────シュゥッ、ゥゥッ!!」


 当たれば即死────【必殺】の斬撃。


 幾度の衝突を繰り返し、度重なる衝撃波が発せられる中……。



 突如、目の前に────巨大な渦潮が発生。



 それは、天龍ごと俺を呑み込むと……凄まじい水圧と水流の勢いで俺の身体を強く圧迫してきた。



 ────『海龍エァヨセ』。



 まさか、天龍もろとも俺を押し潰すつもりか?


 泳ぎは苦手という程ではないが……こう、上下左右も分からなくなる荒々しい渦潮の中では、身動き一つ取ることすら骨が折れる行為だ。


 そこへ……。


(────エルマ……ッ!!)

(────エルマ殿……ッ)

(────兄貴ぃぃッ!!)

(────)


 これは、【伝心】か……?


 何人かの声と気配が、頭の中に流れ込んできた。


 かつては『物の怪』として嫌われていた俺を、気に掛けてくれる者たちが居るなんて……考えてみれば、奇妙な話だ……。


(……だけど……悪くない)


 直後。


 カッと目を見開き、全身に意識を集中。


 すると、先程まで渦潮に煽られるだけだった身体が、途端に安定してきた。


 そして、海龍の莫大な気配がする方向へ……。



 ────渾身の力で、【奇飢怪界】を振るう。



 斬撃は渦潮を切断し、海龍の胴体を掠めると─────その背後の浮かぶ雲を、真っ二つに裂いた。


「────キュアァァァァァオオォォァォォォオォォォォォォォォォォォァァァァァッッ!!?」


 海龍が大地に轟く悲鳴を発しながら、その巨体を揺らしながら空を逃げ惑い始める。


 まるで、「何故動けるッ!?」と問い掛けられているかのように。


「最近、『幽霊』になる方法が分かったもんでね。そいつを活用させてもらった」


 要は、『何でもすり抜ける』ことが出来る、ということだ。


 全身を『幽霊状態』にしたまま、【奇飢怪界】を実体化させる……というのは理屈では簡単だが、意外に調整が難しかったりする。


 そのせいで、身体を掠める程度で済ませてしまった。


「────シュゥゥゥァァァッッ!!」


 背後を見せた隙を狙い、真後ろで、天龍が大口を開けてエネルギー放出を試みていた。


 しかし。


 俺は敢えて避けようともせず、肩越しにこう語り掛ける。



「────俺に気を取られ過ぎだよ、『天龍』」



 次の瞬間。


 天龍の全身から……。



 ────数え切れない刃が、肉と皮を破って、一斉に内側から突き出してきた。



 一瞬の内に全身刃ダルマになった天龍は、掠れた呻き声を漏らしながら、全身を痙攣させ、動けなくなってしまった。 

 うーん……ちょっと、グロい……。


「……シュッ、ゥゥ……ッ!?」

「まぁ、気を取られていようがいまいが、こうなる運命に変わりはないがな────なぁ、【我が友】よ?」


 いつの間に『仕込んでいた』のかは不明だが……オームの仕込みは、天龍に絶大的な『隙』を産み出した。


 そして。


 その眼前で────俺は、【妖刀】を大きく振り上げた。


「悪いが、お前たちはお呼びじゃない────今、この世界には『俺たち』が居る」


 トドメの一撃。


 振り下ろした刀の一筋は────天龍の全身を、その背後にある景色ごと切り裂く。


 身体を縦に真っ二つに切り裂かれた天龍は、そのまま天に召されるように……。



 ────光る塵となって、静かにその場から消失していったのだった。



「──よし。さて、後は……」

「────キュォォオオオォォォォォォォォォッッ!!」


 残りは、一体。


 完全に怒り狂った様子の『海龍エァヨセ』が、大地に轟く咆哮を放ち……。



 ────その正面に、一際大きな渦潮を発生させた。



 呑み込まれれば、町一つを確実に崩壊させる勢力だ。


 まさに、『厄災』。


 発揮する勢力の規模だけ見れば、あの『海龍』が群を抜いているかも知れない。


 だが、その時……。


「──! これは……」


 ふと、妙な違和感が脳裏をよぎった。


 これは……。



 ────『海龍』の背後から、何かが迫っている?



 そう認識した時、『海龍』の背後の雲行きが一気に怪しくなると……稲妻の迸る、どす黒い積乱雲が出現。


 それは、まるで意志を持っているかのように、海龍の全身を呑み込み始める。


「────キュオゥ……ッッ!?」


 海龍は慌てて抵抗しようとするが……どれだけ身を動かしても、それを引き剥がすことが出来ない。


 やがては、全身に絶え間ない稲妻を受けながら……。



 ────その積乱雲の中へ、完全に呑み込まれてしまうのだった。



 人々は、何が起きているのか分からない、といった様子で唖然と立ち尽くしていたが……。


 俺とオームは、神妙な面持ちで『その先』に座する『ある人物』を見据えていた。


「一体、どんな気紛れだったのであろうな────『仙族の代闘者』め」

「流石に、大騒ぎし過ぎたのかもな」

「エルマちゃんにも聞こえたか、ヤツの呟きが」

「あぁ、鬱陶しそうに言っていたな────『喧しい』って」


 あの積乱雲が────『仙族の代闘者』によるモノだったのは間違いない。


 だが、あれだけの勢力を発揮しながら、海龍もろとも王国を襲撃しなかったのは……一体、どういうつもりなのだろうか?


 今こそが、俺とオームを一網打尽にする、絶好のチャンスだった筈だ。


 気紛れか……。


 それとも、何か考えがあってのことか……。


 妙な不安感を覚えながらも、俺は【伝心】を使って……密かに、妖族の皆にこう呼び掛けた。


「──お前ら、聞こえるか?」

『英雄さん……?』

『エルマ殿。どうやら、無事に終わったご様子で……』

「──一つ、頼みたいことがある。これから………………」

『…………え?』







─※─※─※─※─※─※─※─※─※─







 まさに、『圧倒的』な結末だった。


 あの天地を切り開いたとされる伝説の『大いなる意志』を、たった二人で……。


 しかも、ほんの十分たらずで、完全に打ち倒してしまった。


 本当に、本当に凄い……異次元の闘いだった。


「ニリアン……っ!」

「セオ……っ」


 セオドーラが人目もはばからずに抱き付いてくるのを静かに受け入れてから、私たちは無言で勝利と喜びを分かち合う。


 長年、リダウト王国を苦しめてきた、イミュテリエルの呪縛からは、確かに解放された。


 しかし、その過程で……。


 私は多くの仲間たちを失い、セオドーラは父と兄を失った。


 それは、今回の勝利で簡単に拭い去れることではない。


 私の胸元に顔を埋めて、必死に悲しみを堪えるように、小刻みに震えるセオドーラの姿を見れば明らかだ。



 だが────私たちは、『乗り越えた』。



「オーム……」


 私たちは互いを支え合うようにして、人族の代闘者、オームの元へと歩み寄ろうとする。


 しかし。


「────来るな。下がっているがいい、ニリアン、セオドーラ」

「オ、オーム様、なんで……?」

「何故? 知れたことよ────闘いは、まだ終わっていないからだ」

「え……」


 背中で語る彼が何を言っているのか分からず、ただただ困惑する。


 その時だった。


 突如、ダンッと地面を蹴り上げたような音が響いたと思ったら……。



 ────『妖族の代闘者』が、オームへと飛び掛かってきていたのだ。



 その手に握られた【妖刀】を、一切の容赦もなく、振りかぶった状態で。



「────まぁ、そういうことだな」











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