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 『大いなる意志』



 すごい────まさに、奇跡に近い出来事だった。


 あれだけ大規模な『山』が落ちたにも関わらず、その下に居た者は……奇跡的に、全員生還した……。



 ────ただ、一人だけを除いて。



 人々の目の前に落ちた『山』は、役割を終えたかのようにボロボロと崩れ始め……最後には光の塵となって完全に消失する。


 残ったのは、掌の形をした巨大なクレーター。


 わたくしは慌ててクレーターへと駆け寄り、その下にただ一人残った、イブキへと声を掛けるが……。


「──イブキ様ッ、大丈夫ですか……ッ!?」


 一体、どれだけの圧力を負ってしまったのだろうか。


 彼女は────既に、生死不明の容態だった。


 血塗れの無惨な状態で、全身が地面に埋め込まれており、ピクリとも動かなくなってしまっていたのである。


 『偽物』とはいえ、あのエルマ様を打ち倒したイブキ様が……たったの一撃で……。


「そん、な……ッ」


 希望から一転、絶望への転落。


 胸が締め付けられるような痛みを覚え、呼吸を乱していると……。


 遂には、ここまで必死に町を守ってくれていたニリアンにも、限界が訪れようとしていた。


「──ぐぎぃッ、ひッ……ぃぃ……ッ」

「ニリアン……ッ! もうッ、もう辞めて下さい……ッ! これ以上やったら、あなたまで……ッ!」


 ニリアンが空に掲げる両腕は、黒く変色し、所々から黒い液体を噴き出していた。


 全身を痙攣させ、顔を苦痛に歪めている姿は……誰の目から見ても、相当の無理をしていることが分かってしまう。


 しかし……彼女の精神力もまた、常人の非ではなかった。



「────ッッぅぅがあああぁぁぁぁぁァァァアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」



 最後の力を振り絞って、ニリアンは絶叫を上げながら、両腕を横へ振り下ろす。


 直後、まるで破裂するように────彼女の腕から大量の黒ずんだ鮮血が噴出。


 すると。


 空を覆う魔方陣が、ガキンッと中心から歪曲し、傘のような形状に変化。


 それにより、迫り来る光線の軌道が逸れ、町の周囲へと落下していく。


 しかし。


「マ、ズイッッ…………逸らし、切れな……ッ」

「──ッ!! 皆様ッッ、上空に注意して下さいッ!!」

 

 その場でニリアンが膝を付くと……。



 ────遂に、最後の魔方陣がガラスのように粉砕。



 それを粉砕した光線の破片が、一斉に町へと降り注ぎ、周囲の建物を次々に破壊していく。


 あんなものが当たれば、人間なんてひとたまりもない。


 そんなモノが流星群のように降り注ぐ中、わたくしは周囲の者たちの避難に気を取られてしまい……。


「──セオッ……逃げ、て……ッ」

「──ッ!?」


 光線の一つが、真っ直ぐにこちらへ迫っているのに気付く。


 しかし、気付いた時にはもう遅かった。


 今から慌てて回避しようとしても、間に合わない。


 マズイ……と思った矢先。


「────っ」


 突如、視界の端に人影が現れ、わたくしを横から強く突き飛ばした。


「──え」


 突き飛ばされる刹那、その人物と────『御兄様』と、真っ直ぐに目が合った。


 その決意染みた瞳は、かつての思い出を蘇らせる。


 ──この手を引いて、お城から抜け出す時……。


 ──御父様から叱られている最中、わたくしの手をぎゅっと握ってくれていた時……。


 今や、遠い記憶の彼方……。


 もう二度と、元に戻ることは許されない……。


 それでも、かつての幼いわたくしを、ずっと守ってくれた……。



 小さくも、勇敢な────『英雄』の姿が……。



「セオドーラ、ありがとう……俺も、お前を────愛している」

「……おにい、さま……?」


 最後の最後。


 御兄様は……かつて見た、愛くるしく優しい笑顔を浮かべて……。



 ────降り落ちた光の中へ消えていった。



 あまりにも、一瞬の出来事。


 光が収まった時には────御兄様の姿は、もう何処にもなかった。


「あ…………ぁぁぁぁぁ……ッッ」


 目の前で下された残酷な現実に、膝から崩れ落ちると……一気に、感情が溢れ出てくる。


 今や唯一無二の、大切な肉親を喪ったことによる、喪失と孤独……それらに苛まれ、全身に猛烈な怠惰感が襲い掛かってきた。


 もしや、これは夢なのではないだろうか……。


 そんな現実逃避すら起こり始める中……。



 ────本当の悪夢が、幕を開けた。



「────シュゥゥゥ……ッ」


 天龍の唸り声を聞いて、ふと視線を上げてみると……。


 王国の上空で『とぐろを巻く』、あの天龍の巨体を遥かに上回る────まるで『蛇』のような巨大な影があった。


 更に、半壊したリダウト城の背後からは……。


 城を『鷲掴み』にして、それを乗り越えるように現れた────まさに、『山』のような超大型の巨人の姿があった。



 ────それぞ、『大いなる意志』の再来。



 ────世は、『創世期』。



 ────『地』、『海』、『天』……後に生きとし生ける者たちの土台となる領域を創造した、三体の伝説の龍。



 ────『地龍イヴェヌス』。



 ────『海龍エァヨセ』。



 ────『天龍ロ=ワ』。



 世界を、その手で『創造』した……まさしく、『神々』にも等しい存在が────このリダウト王国を中心に、一堂に会していたのだ。


 こんなにも小さな一国と、こんなにも小さな人の子らを……その大いなる力で、完全に抹消する為に。


 それを目の当たりにした、その瞬間。



 わたくしは────抗うことを、諦めた。



 どう足掻いたところで、どう抵抗したところで……逃げるどころか、生き残れる未来すら見えなかったからだ。


「…………も、う……やめ、て…………これ、いじょう……なにも、のぞまない、から…………もう……も、ぅ……ッッ」


 それは、もはや祈祷に近い所業。


 ガタガタと全身を恐怖で震わせながら、ただただ、誰かに届く筈もない懇願を呟いていた。


 戦力の要である、イブキも、ニリアンも……もう戦えない。


 いいや、仮に戦える状態であったとしても……。



 ────世界を覆い尽くす『大いなる意志』に、勝てる訳がない。



 この瞬間……リダウト王国の命運は、決定付けられてしまった。


 だって、もう……。


 どうしようもないではないか……こんなのって…………。


 









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