神が降立ち、人は平伏す
突然、戦場にいた大多数の『偽物』が跡形もなく消し飛び……大半の者は、何が起きたのか分からずに立ち尽くす。
一方、イミュテリエルの脅威が去ったことを察知したセオドーラは、こちらへと駆け寄って来た。
「──ニリアン……っ! イブキ様……っ! お二方ッ、ほんとうにッ……本当に凄かったです……ッ!」
彼女の感極まった言葉を受けて、ニリアンは小さく笑みを見せるも……ガクガクと足を痙攣させながら、その場に腰を落としてしまう。
「はぁッ、はぁッ……もう、身体がダルい……ッ」
「ニリアン……最後の、結構ド派手にやっていたけれど……大丈夫?」
「慣れないモノは、乱用するもんじゃないわね……さっきので、殆ど体力も魔力も使い切っちゃった……」
どうやら、お互いに疲労困憊しているようだ。
かくいうワレも、地下牢に捕まってからここまで、一度も休んでいる暇が無かった為、相当疲れが溜まっている。
もう、このままぶっ倒れてしまいたい気分だった。
────だけど、乗り越えた。
エルマに宣言した通り、この世界の人々の力で、明確な勝利を掴むことが出来たのだ。
「でも、これでようやく…………」
セオドーラが、安心しきった様子でそう呟いた────その時だった。
『────忌々シイ』
ドクンッ、と心臓が跳ね上がる。
今の……まるで、大気を揺るがすように、辺り一帯に響き渡った『音』。
それを耳にしたワレも、ニリアンも、セオドーラも、周りにいた者たちも……慌てて周囲を見渡し始める。
「え……?」
「この、声ッ……まさか……ッ」
「────イミュ、テリエル……? そんな馬鹿なッ、さっきので確実にヤった筈なのに……?」
ニリアンの言う通り……今、この瞬間も、彼の気配は何処にも感じられない。
だが、彼の物と思われる『音』は、こちらの動揺も構わず、辺りに響き続ける。
『コレハ、代闘者ヲ倒ス為ノ、トッテオキ、ダッタンダガ…………モウ、イイ。鬼、魔女……オマエラダケハ、ソノ国モロトモ────皆殺シニ、シテヤルッッ』
それから途端に、シンッと不気味な沈黙が流れる。
変わらず、イミュテリエルが姿を現す気配は無いが……まさか、あれが幻聴だったとは思えない。
だとしたら、一体……?
不穏な空気が辺りに漂う中……ふと、セオドーラが『空』を震えた手で指差しながら、小さく声を漏らした。
「────『あれ』、は……?」
ワレとニリアンの視線が、セオドーラの指差す方向を追う。
そこには、天を覆い隠す、分厚い雲郡。
その雲郡が、少しずつ、少しずつ開けていき……まるで夜明けを示すかのように、合間から日の光が差し込んでいく。
そして。
降り注ぐ光の中から────一つの巨大な影が、ゆっくりと降下してくる。
まるで、『神の降臨』を示すかのように。
「──あの姿は……『龍』……?」
目映いばかりの『白色』の分厚い鱗が全身にビッシリと敷き詰められている、トカゲの肌に似た、所々が尖っていてゴツい身体。
鋭利で巨大な牙と爪、天を覆うほどの大きな翼を携え、図太い尻尾を後ろで揺らしており、人間と同じ二足歩行の体勢で浮遊している。
そいつの鋭い眼球がギョロリと蠢くと……こちらへ、巨大な人差し指をゆっくりと向けてきた。
すると、その指先から────突然、目映い光が放たれ……。
「────ッ伏せてッッ!!!」
ニリアンが発した大声に反応し、近くにいた人々が慌てて体勢を落とす。
次の瞬間。
一瞬だけ、視界が真っ白に染まり……直ぐに元に戻った。
そう認識した直後、背後で────天地を揺るがす程の、激しい大爆発が巻き起こる。
「────うわぁぁぁぁぁあああッッ!?」
とてつもない轟音と爆風と共に、まるで暴風雨のように瓦礫と破片が飛び散り、対応に遅れた者はその爆風に煽られて吹き飛ばれてしまう。
ようやく爆風が収まった時、目の当たりにしたのは────半壊したリダウト城。
更に、その後方にそびえ立っていた山々までもが、跡形もなく消し去っていたのだ。
「なにが、起こったのよ、これは……?」
「こんなの……無茶苦茶、だよ……」
ワレも、ニリアンも、顔面蒼白にして、一瞬の内に無残な姿になってしまったリダウト城を眺める。
そこへ、ワレらの前に立っていたセオドーラが、『龍』を仰ぎ見ながら、こう呟いた。
「────『天龍』」
「天、龍……?」
「……聞いたことがあるわ。今から遥か昔の、『創世期』。世界に、『大地』と『海』と『空』を生み出した『三体の龍』が存在したって……まさか、『あれ』が────その一角だっていうの……!?」
「──別名、『大いなる意志』。かの者たちは、世界が『闘争期』に入るより前に、命を落としたと聞きます」
「『命を落とした』って……じゃあ、『あれ』は、なんなの……?」
「そう、存在する筈がないのです。ですが、あの姿形は、リダウト王家に伝わる伝承通り……あれぞ、まさしく────『天龍ロ=ワ』そのものです……ッ!!」
信じられない……。
つまり、ワレらは……『伝説上の存在』と対峙している、とでもいうのだろうか。
先程のイミュテリエルの言葉から察するに、彼があの龍を呼び出したのは間違いない。
こちらへと容赦なく攻撃を加えて来たことから……少なくとも、友好的な意志を持っているわけではなさそうだ。
「────シュゥゥ……ッ」
その時、天龍が円を描くように、図太い腕を自身の周りにゆっくりと回し始める。
すると、天龍の背後に巨大な魔方陣が出現。
それは徐々に光を増していき、膨大なエネルギーを発し始めた。
「──何かしてくるッ!!」
「く……ッ!」
次の瞬間。
一層強い光を放った魔方陣から────数え切れない光線を放出。
それらは、幾多も屈折を繰り返しながら、全ての光線がリダウト王国に降り注いでくる。
その光景は……まるで、神の裁きのようだった。
「ぁ……あぁぁぁぁ……ッッ!!」
「──全員下がってッ!!」
ワレとセオドーラの肩を引き、人混みを掻き分けながら前に飛び出したニリアンが、大きく両手を空へと掲げる。
直後。
王国全土を覆い隠すまでの巨大な魔方陣のドームが、何重にも生成された。
こちらもこちらで、とてつもない『魔力』だ。
しかし。
「…………こ、れ…………ダメ…………」
ふと、ニリアンが何かを察したように、顔を青ざめさせて呟く。
その絶望的な言葉を現すように、ニリアンの魔方陣に直撃した天龍の光線は……。
────バリバリバリバリィィッ!!
凄まじい轟音を打ち鳴らしながら、瞬く間に、魔方陣の盾を突き破ってきたのだ。
気付けば……残された魔方陣は、たったの二枚。
それをニリアンは、最早気力だけで、辛うじて防いでいた。
「ぐゥゥ……ッッ!! こッ、の……こん、なのッッ……くッッ、そぉぉ……ッッ!!」
「──ニリアンッ!!」
ワレは慌てて、ニリアンの元へと駆け出した。
あんな大量の光線が町に降り注いだら……町だけでなく、全ての住民たちが犠牲になってしまう。
【魔術】を扱うことは出来ないが、【百鬼夜行】を使って、彼女の力を底上げすれば……。
「────イブキ様ッ!! 上ですッ!!」
「………………え?」
セオドーラの悲鳴にも似た声が鼓膜を打ったと思ったら……突如、視界が影に覆われる。
反射的に、視線を上へ。
すると、ワレの頭上から────とてつもなく『巨大な何か』が、落下してきていた。
(掌のような形……あれは、『岩石』の塊……?)
それは、まるで『山』。
無数の岩石が密着して、掌の形になっており、何より……『デカイ』。
まさに、山そのものが上から落下してきているようだった。
それが、明確な『敵意』を持って、広場の中心付近に居る者たちを押し潰そうとしていることに気付く。
「──落ちてくるぞぉぉぉっ!!」
「逃げろッッ、逃げろぉぉッ!!」
「──うわぁぁぁぁぁぁァァァァァァッ!!」
だが、今から全力で逃げ出しても……もう間に合わない。
このままでは、数多くの犠牲者が出てしまうのは、目に見えている。
そう認識した時────勝手に、身体が動いていた。
「────」
ワレは、半ば反射的に……目の前に、《地崩し》を顕現。
続けて、『球体』を作り出す時と同じ要領で、それを『分裂』、『分裂』、『分裂』、『分裂』……肉眼では認識出来ない程の小ささまで、『分裂』させる。
そうして形成されたのは、数百にも及ぶ、《地崩し》の『粒子』。
(……五……十…………二十…………五十と、六人……)
間髪入れずに、周囲の状況を確認し……逃げ遅れそうな者たちが、計五十三人居ることを一秒足らずで把握。
その立ち位置、おおよその方向を確認すると……。
粒子レベルにまで極小化した『地崩し』を────計五十三個、『妖力』で押し飛ばす。
次の瞬間。
逃げ惑う人々のボロボロな服に、『地崩し』が引っ掛かると、彼らはそれの勢いに引っ張られていき────次々と、『山』の影から放り出されていった。
しかし。
流石に五十三人全員へと、正確に投擲するのは無理がある。
一……二、三…………三人、完全に飛ばし切れず、山の落下範囲で転倒してしまったのだ。
「──ごめんッ!! ちょっと飛ばし損ねたッ!! 立ってッ!! 早くッ!!」
間に合わない。
こうなれば、時間稼ぎの方法は……ただ一つ。
ワレはもう目の前にまで迫っている『山』を睨み上げてから……残りの『地崩し』へと意識を集中させる。
そして、『妖力』を余すことなく絞り出し────全弾射出。
「────行けッッ……押ッッ、せ……ッッ!!」
射出された『地崩し』は、全弾、ほぼ同時に『山』へ命中。
ズガンッッ!! と、凄まじい衝撃が加わり、『山』の落下が制止したように見えた…………………………が、ほんの一瞬だけ。
────勢いは死んでいない、微塵にも。
(…………だ、め…………だ……)
あまりにも……あまりにも圧倒的な力の差を前に、思わず思考が停止。
目の前まで迫ってきた『山』へと、必死に両手を伸ばし、それを無我夢中で押し止めようとするが……。
「────ぁ……ッ」
刹那、絶望を悟った。
山の重量が両腕に掛かった瞬間────ミシミシィッと、強烈な激痛が身体を駆け巡る。
押し返すどころか、勢いを殺すことも出来ず……。
ワレは、そのまま全身を、地面と『山』に挟まれて…………。
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