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 怒れる魔女




『────『思い通りにはさせない』だと?』

『まさかとは思うが……』

『──この程度のことで、形勢逆転したつもりか?』


 戦場の真っ只中、イミュテリエルがそう言って笑って見せると……。



 ────その周囲に、六つの人影が現れる。



 それは、『異端協会』の主力メンバー四人と、『ニリアン』……そして、『湊本エルマ』の姿だった。


「──出してきたわね、『異端協会』」

「しかも、『代闘者』が二人、かぁ……どうしよう、死ぬほど厄介なんだけれど……」

「──あれが、『本物』ならね」

「……?」


 一瞬、何かを察した様子でそう呟いたニリアンだったが……その真意を尋ねる前に、イミュテリエルの繰り出した『偽物』たちが、口々に何事かを呟き始めた。


『そうだ……この程度のことで、俺の計画が頓挫して堪るか……』

『この国を手に入れる為に……俺が、どれだけ根回しをしたと思っている……』

『次こそは、成功させてやる……』

『そして、この世界に、俺の名を刻み込んでやるんだ……ッ』


 相変わらず……姿形は全くの別人なのに、全員の意志が繋がっているような話し方は、何とも不気味な光景に見える。


 いいや、今はそれよりも……。


 あの時、地下牢でイミュテリエルと会話していた時から、ずっと引っ掛かっていた疑問を呟く。


「──やっぱり、おかしいよ」

「イブキ……?」

「だって、ナビードの理念は『代闘者打倒』の筈でしょ? だけど、あなたの言う『計画』ってのは……どう考えても、『代闘者が召喚されるより前』から動いているように聞こえる……」

「……そういえば。そもそも、ナビードが世間に台頭してくるのも、異常な程に早かったわね。まるで、最初から『代闘者』が召喚されるのが分かっていたみたい、に────イブキっ! セオっ!」

「──きゃぁっ!?」

「──わわぁっ!? なにっ、身体が……!?」


 これは、ニリアンの【魔術】か……?


 突如、ニリアンが声を上げると、処刑台の上に居たワレとセオドーラ、ギーク、そしてニリアン本人の身体が宙に浮かび上がる。


 直後、真下の処刑台が激しく炎上。


 続けて、まるで紙屑のように、粉砕、圧縮されていき……黒い穴の中に消えていってしまったのだ。


 ちょっと待って……理解が追い付かない。


 今の一瞬で……一体、何が起こった?


「【魔術】、【深術】……こうも立て続けにやられたら、流石に面倒臭いわね……」


 ウンザリした様子で呟くニリアン。


 そこへ、ワレらの姿を見上げるイミュテリエルの軍勢が、こう切り出した。


『────「戦い」だよ』

「戦い……? どういう、こと……?」

『──そもそも「リダウト王国」は、先代の時から、同じ人族の「守護国」と「隠匿国」の三国で同盟を結んでいる』

『皆で仲良く手を組んで、他の種族に対抗する勢力になってやろうぜ、って約束事をな』

「『三国同盟』……それが、何を意味するの……?」

『仮に、だ。俺がリダウト王国の主権を握り、同盟国の二国へと宣戦布告をすればどうなると思う?』


 歓喜極まった様子で言うイミュテリエルを睨みながら、ニリアンが少し考えるようにして答えた。


「……恐らく。同盟に謀反を起こしたとして、『守護国』と『隠匿国』が、『リダウト王国』へと武力制裁を始めるでしょうね。」

「まさかッ、それを狙って……?」

『──ご名答だ』

『代闘者の停戦宣言で種族間の戦争は起こりにくくなっちまったが……『内乱』ならどうなるかな?』

『当然、人族の代闘者という抑止力が介入するんだろうが……奴の『力』は、今や俺が掌握しているんだぜ?』


 その結果、待ち受けているのは……人族の『破滅』だ。


 イミュテリエルの目的が、『勝利』ではなく、『戦争』そのものなのだとしたら……彼は、手にした権力を乱用して、延々と他国と『内乱』を続けるだろう。例え、どれだけ自国民が疲弊し、果てには戦死しようとも。


 そうなれば人族の被害は甚大となり、世界バランスは一気に崩壊する。


 代闘者による停戦を踏み越え────新たな『世界大戦』の引き金になりかねない。


「どうして……? どうしてそこまでして、『戦争』を再開させたいの……!?」

『──「戦い」こそが、この世界の真意だからだ』

『「戦い」無くして、この世界が存在する意味は無い』

『俺は、それを実現させる為に……』

『────前リダウト王と異端協会の連中を、皆殺しにしてやったんだからなァッ!!』

「な……ッ!?」

「──ッ!!」


 彼が……。


 イミュテリエルが、前リダウト王の時代から王国に関わりを持っていたことは、何となく予想出来ていた……。


 だが……まさか……。


 リダウト王国が荒廃する全ての始まりから……ずっと、裏で手を引いていただなんて……。


 なんという、狂気染みた執念なのだろうか……。


 そして……何よりも、残虐非道だ……。


『ここまで来れば、もう隠し立てする必要も無い』

『いやぁ、あれは英断だったと思うぜ?』

『前リダウト王は、「皆殺し」ではなく、「和睦」を望み、三国同盟を結ぶに至った』

『それが実現しちまったら、世界はますます「戦い」から遠ざかってしまう』

『それだけは、何としてでも避けなければならなかった』

『だから────死んで貰ったのさ』

『ヤツの理念に賛同していた、異端協会もろともな』

「……最低だねぇ、あなた……」


 そして、その罪をギークに擦り付けた。


 それらを罪を背負わせたまま彼を処刑することで、自らが革命を起こした英雄と成る為に……全ては、この世界に更なる混沌をもたらす為に。


 ひどい……ひど過ぎる……。


 こんな……こんな、理不尽な話が、まかり通っていいのだろうか……。


 こんな自分勝手な理想の為に……ニリアンの仲間を……セオドーラとギークの父親を……犠牲にするだなんて……そんな、ことって……。


「────正直言うとさ、私、最初は怖かったのよね」

『──あ?』


 突如、ニリアンが呟いた言葉。


 何だか予想とは異なる……どこか弱々しい反応に、イミュテリエルが、少し訝しげな表情で彼女を見る。


「仇を討つには、セオの兄を手に掛けなくちゃならない。仇を取るか、繋がりを取るか……そんな、自分勝手な感情に揺れていたわ……本当、情けない話よね」

「ニリアン……」

「だから、イミュテリエル。あんたには感謝しとくわ。最初から最後まで────どうしようもない悪者でいてくれて、どうもありがとうって」

『…………ハァ?』


 次の瞬間、ニリアンの気配が一変した。


 穏やかな気配で包み隠された殻を脱ぎ捨てて、露見したのは────ドス黒い殺意。



「これで、何の気兼ねもなく────あんたをブッ殺せる」



 次の瞬間。


 彼女の顔面と右腕に────例の『痣』が浮かび上がってきた。


 しかし、何かが違う。


 まるで彼女の胸の内に秘めた『青い炎』を強調するかのように────揺らめく『青色の痣』に変貌を遂げていたのだ。


「ニ、ニリアン……その痣、もしかして……【呪術】を……?」 


 今、ワレは……とてつもない場面を目撃しているかも知れない。


 しかしながら、そんなニリアンの鋭い殺気を受けたイミュテリエルは、あくまでも余裕な表情でほくそ笑むと……彼女を、煽り返す。


『……俺を』

『殺す?』

『ククッ、やれるものなら』

『────やってみな?』

「──ッ!!」


 同時に。



 ────異端協会の面々が、一斉に飛び掛かってきた。



 ニリアンからすれば、かつての仲間たちとの対立。


 親しい人と戦うのがどれだけ辛いことなのかは、ワレも身を持って知っているつもりだった。


 しかし。


「ニリアン……ッ!」

「黙ってなさい、イブキ。この程度のことで、私の動揺を誘っているのだとしたら────ナメ過ぎなのよ」


 今や、ニリアンの瞳に迷いは微塵にも感じられなかった。


 飛び掛かってきた仲間たちへと、何の躊躇もなく両手をかざすと……彼らは、まるで見えない力に押さえ付けられるように、ピタリと動きを止める。


『──!?』

「いつまでもそんな奴に操られて、馬鹿みたいな真似をするんじゃないわよ……この、間抜け共が……ッ!」


 容赦の無い罵声を投げ掛けたと共に。


 周囲に冷気を放つ青白いモヤが漂ってきたと思ったら、彼らの身体が小刻みに震え始め……。


「────【未知コマンドより・フロム来たれ・ノウン無明にエィパシー咲く凍華・ヴァルヴ】」


 次の瞬間。



 無数の氷の刃が────彼らの身体を、『内側』から突き破って出てきた。



 それはまるで、弔いの為に咲き誇る『氷の花』。


 異端協会の面々は、一瞬の内に、全身を氷の花に呑み込まれ……。


「どいつもこいつも────とっととあの世へ帰りやがれ……ッッ!!」



 詠唱を終えたニリアンが、両手を握り締めると共に……。



 ────一気に、粉砕。



 辺りにきらびやかな氷の破片を撒き散らしながら、彼らの姿は、跡形もなく消滅するのだった。








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