怪物に睨み下ろされて
妖族の代闘者、湊本エルマの緊急事態を受けて……無道山の女天狗、カラルテは背中の翼を広げて、風を切る勢いで空を疾走し、リダウト王国へと向かっていた。
その胸元に小さな子猫、ルキを入れて……。
「──にゃぁぁぁァァァァァッ!!? 速過ぎッスぅッ!! 首がもげるぅぅぅぅぅぅぁぅぁぅぁぅぅぅぅッ!!?」
「にゃーにゃーと煩いで御座いますよ、ルキ殿。付いていきたいって頑なに頼んできたのは、あなたの方で御座いましょう?」
「兄貴とお嬢のピンチとあらば例え火の中だろうが水の中だろうが何処でも駆けつけるッスぅぅァァァァァァァァァァッ!!?」
「分かりましたから首を出さないで貰えませんか?」
まぁ、天狗が発揮する本気の飛翔力は、常人の肉眼では簡単に認識することが出来ない程の速度を誇る。
そんな状況下で、一時も休むこと無く飛び続ければ、ルキ殿にとって相当の負担となるのは仕方がないか。
────やがて、ログマリット城下町に到達。
げんなりした様子のルキ殿を腕で抱えながら、建物の屋上に降り立つと……。
「着いたッスかぁ……?」
「これは……何が起きて……?」
「ふぁ……?」
リダウト王国の宮殿前広場。
多くの民衆に囲まれた場所で、多数の兵士たちと六種族が激しい戦いを繰り広げていたのだ。
その中心地には、何故か、イブキ殿の姿も見える。
だが、肝心のエルマ殿の姿だけは何処にも見当たらなかった。
「──あなたも見物ですか、天狗さま?」
唐突に呼び掛けられて声のする方へ視線を向ける。
そこには二人の少年と少女が、同じ様に広場の戦いを見下ろしていた。
あの顔は……忘れたくても、忘れられない……。
「──『魔族の代闘者』……ッ!?」
「ま、『魔王』もいるッスよ!? ちょっ、自分はまだ死にたくないッスぅっ!」
「──ふん、余計な心配は不要だ。小物を幾ら殺したところで、何の功績にもなりはせんわ」
「こッ、小物とはにゃにをぉぉぉぉっ!? そっちだっけちっちゃいくせにぃぃぃぃっ!!」
「誰がチビだ猫ぉ貴様ぁぁぁぁぁッ!!?」
「にゃぁぁぁぁぁッ!!? 八つ裂きにされるぅぅぅぅッッ!!?」
何で急に喧嘩をし始めるんだ、この人たちは……?
腕の中で騒ぎ立てる猫と、猫にメッチャ威嚇する魔王の言い争いを傍目に……私は、その隣に立つ『魔族の代闘者』へと語り掛ける。
「何故、ここに……? まさか、また何か良からぬことでも考えて……?」
「そんな邪険にしなくても。言ったじゃないですか、『見物』だって」
「見物……?」
「私だけじゃありませんよ? 姿こそ見えませんが、きっと『全員』がこの戦いの行く先を見守っている筈です。天族、仙族、深族……それぞれの代闘者たちがね」
「──ッ!! 『代闘者』が……全員、見ている……!?」
「それはそうですよ。何せ、代闘者打倒を理念に掲げる『ナビード』がこの事態を招き、エルマさまとオームさまの安否も分からない状況なんですから……ふふっ、これからどうなるのか……楽しみ、楽しみですねぇ」
「……ぅ……ッ!?」
瞬間、思わず喉の奥から呻き声が漏れる。
その時、魔族の代闘者は────本当に、心の底から笑っていたのだ。
部外者とはいえ、目の前で起こっているのは、一国の命運を懸けた戦いだ。
それを目の前にして、何故、こんなに笑うことが出来るのか理解出来ず、私は言葉にならない恐怖を覚えてしまった。
「て、天狗様……? どうしたッスか……?」
「どうやら……そもそも、来るべきではなかったのかも知れませんね……」
理解の及ばない感情、底知れない戦闘欲……一瞬でも隙を見せたら、その瞬間に頭から貪り喰われそうな……得体の知れない絶望感と恐怖心が、常に私の中で渦巻いていた。
そんな『怪物』たちが、何処からか、この戦場を見守っている……その事実が、恐怖心を更に促進させる。
場違い感が、半端ではない。
(息苦しい……心臓が、破裂しそう……)
あんな強烈な視線がこちらへ向けられたら、それだけで卒倒してしまうかも知れない。
これまでエルマ殿は、こんな怪物たちを相手取ってきたのか……。
改めて、代闘者という者たちの、『存在感の大きさ』と『脅威』を再確認した私は、警戒心を研ぎ澄ませつつ、眼前の戦場へと視線を向けるのだった。
やはり。
どれだけ目を凝らして探しても、肝心のエルマ殿は何処にも居ないようだが……彼は今、一体何処で、何をしているのだろうか……。
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そして。
次回は《 Period 2 - 5 》。
いよいよ、PERIOD2の最終幕となります。
どうぞ、お楽しみに!




