処刑執行
王城前広場には、今、多くの民衆でごった返していた。
これまで国民を圧政で散々苦しめてきた、リダウト王の『公開処刑』。その最期をせめて一目でも見届けようと、こぞって処刑会場に集まってきたわけだ。
彼らの視線が集まる先には……周囲を警護の兵士に囲まれた、特設の処刑台。
その上には、二人の死刑執行人、人族の代闘者に扮したイミュテリエル……そして、首と腕を嵌める晒し台に並んで拘束された、セオドーラとギークの哀れな姿。
王族の威厳なんて、まるで無い。
散々に痛め付けられてボロボロな姿の二人は、既に心身共に弱り果てていた。
「────リダウト王により度重なる不条理を受け続けた者たちよ。これまで、よく耐えた」
人族の代闘者による演説が始まった瞬間、人々の視線は彼へと向けられた。
彼らの新たな希望と成り得る、『英雄』その人へと。
「安心するといい。お前たちを陥れてきた巨悪の根源は、こうして我らの手に落ちた。もう、お前たちがこの外道に苦しめられることはないと、我らが保証しよう」
「代闘者様……」
「あぁっ、あぁっ……代闘者様……」
「ありがとうございますッ……我らが英雄様……ッ!」
民衆が、口々に感嘆の声を漏らす。
代闘者の偉大な姿を称え、彼のことを『英雄』だと呼称する者が次々と現れる。
そんな者たちを見下ろしながら、彼は一層熱の込められた言葉を投げ掛けた。
「今この時、醜悪な独裁者へと死の鉄槌を下すと共に……リダウト王国は、新たに生まれ変わる────お前たちは、その歴史的瞬間の目撃者となるのだ……っ!!」
「「「──おおぉぉぉォォォォォォォッ!!」」」
「……ッ」
広場を揺るがす大歓声。
それを目の当たりにした瞬間、セオドーラはとてつもない絶望を覚えていた。
今や、リダウト王国の国民の熱狂的な信仰は、ただ一人、『人族の代闘者』の元へ向いている。
彼がここまで着実に築き上げてきた信頼は、例えそれが支配欲にまみれた虚実だとしても、もはや決して覆ることはないだろう────それこそ、奇跡でも起きない限り。
「束の間の栄光、束の間の平穏……満喫出来たか?」
「──ッ!」
「お前らには何の恨みも無ければ、何の感情も無いが……俺らナビードの為に、精々ド派手に死んでくれよ?」
「……イミュッ、テリエル……ッッ!」
「…………ッ……」
どこまでも卑劣な男に、セオドーラは精一杯の威嚇を見せつけるが……今更、無駄な抵抗でしかなかった。
イミュテリエルは余裕たっぷりな笑みを浮かべてから、二人の執行人とアイコンタクトを取る。
合図を受けた冷静沈着な執行人は、その両手に握られた巨大な剣を、まるで見せ付けるように振り上げて……。
そして、遂に────その時が訪れた。
「さぁ、裁きの時だ────やれ」
まるで雷の如く────剣が振り下ろされる。
抗う手は、もう無い。
あとは、運命のままに身を委ねるしかない。
首が落とされるまで……残りほんの数秒、といったところで……。
突如────天から、『青い光』が降り注いだ。
空を裂く、青い閃光。
それは、執行人の身体を貫くと……その屈強な全身を『青い炎』で燃やし尽くす。
「────ッ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「な、なんだ……ッ!? 何が起きた……ッ!?」
イミュテリエルも含めた、その場にいた誰もが驚愕し、一斉に光線の降ってきた天を見上げた。
そこには……。
「裁き、か。いいわ、下してやるわよ。ただし、裁かれるのは────あんたの方だけどね」
────空を浮遊する、とんがり帽子を被った少女の姿。
それを目の当たりにした瞬間、セオドーラが今にも泣き出しそうな声色で、『彼女』の名前を呼んだ。
「──ニ、ニリアン……っ!!」
「──い、『遺恨の魔女』だぁぁ……ッ!!」
「なんだと……? 半分も『奪われた』身で、何故動ける…………いや、それどころじゃないっ! 早いところリダウト王の首を落とせっ! そうすれば我らの勝ちだっ!」
すかさず、イミュテリエルの命令が飛ぶ。
別の執行人が慌ただしく処刑台上がっていこうとしたが……。
「────退いてぇ?」
登り切る前に────ガツンッッ、と鈍い音と共に吹き飛ばされるように転倒し、そのまま卒倒。
すると、彼らの背後から────頭から角を生やした『鬼娘』が、薄紅色の霧を漂わせながら姿を現した。
「な……!?」
その姿を見たイミュテリエルはギョッと目を見張るが……すかさず、『鬼』は驚異的な脚力で跳び上がった。
そして、その力強い脚力で────イミュテリエルへ渾身の跳び蹴り。
完全に不意を打たれた彼は、蹴りをモロに喰らい、そのまま処刑台から叩き落とされた。
「ぐゥゥ……ッッ!?」
「────これ以上、あなたの思い通りにはさせないよぉ?」
そう宣言した彼女は、セオドーラとギークを拘束する晒し台を『素手』で掴み、引き千切るようにして破壊。
ようやく解放されたセオドーラは、ギークを助け起こしながら……希望に満ち溢れた表情で、助けに来てくれた鬼娘の姿を仰ぎ見た。
「ぁっ……あぁっ────イブキ様まで……ッ!」
「ある程度の応急処置道具を持ってきたから。これで、出来るだけお兄さんを処置してあげて」
「は、はい……っ!」
意識が朦朧とした様子のギークをセオドーラに任せ、イブキが改めて立ち上がると……その隣に、ニリアンが降り立った。
「──世話になったみたいね」
「むしろ、迷惑ばっか掛けちゃったから。自分たちの尻拭いは自分たちでさせてもらうよ」
「意気込むのは勝手だけど……これから、どうする?」
今、処刑台の周囲は……無数の兵士が、臨戦態勢で取り囲んでいる。
それがイミュテリエルの【呪術】によるモノか、ナビードに与する兵士かは分からないが……まさに、多勢に無勢。
幾らこちらの個々が強かったとしても、戦力差は圧倒的だった。
「──たった二人加わった程度で、戦況が覆ると思ったか?」
軍勢の先頭に立つイミュテリエルが、不敵な笑みを浮かべながら、処刑台の上に立つ二人を見上げる。
すると、それを見たイブキがニヤリと口角を上げ、こう言葉を返した。
「──二人? 勘違いしてもらっちゃ困るなぁ?」
「──!」
直後。
まるでイブキの言葉に呼応するように、軍勢の端から、雄叫びと悲鳴、二つの絶叫が鳴り響いた。
「────行くぞッッ!! あの代闘者を討ち滅ぼせぇぇッッ!!」
「「「────うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」」」
「──こ、コイツらは……うわぁぁぁぁッッ!?」
そこで暴れ出していたのは────まるで囚人のようなみすぼらしい格好をした、多種多様な『六種族』たち。
彼らは、その全身に黒いモヤを漂わせながら、止めどない怒りを剥き出しにして……津波のごとく勢いで、イミュテリエルの軍勢を薙ぎ倒していたのだ。
「あれ、は……まさか────地下の収容者どもを……ッ!?」
「────そう、全員救出させて貰ったよぉ。やっぱり、かなりの人数を収容していたみたいだねぇ。彼らにナビード打倒の協力をお願いしたら、皆揃って、快く承諾してくれました」
「やって、くれたなッ……鬼めぇぇ……ッッ」
今、彼らにはイブキの扱う妖術、【百鬼夜行】が掛けられているようだ。
『鬼』と『魔女』を含めた『六種族』の寄せ集め連合軍と、【百鬼夜行】によるドーピング……。
これだけの戦力が揃えば────もはや、イミュテリエルの軍勢にも引けは取らないだろう。
「──さぁ、混沌に翻弄された者たちよ、今こそ反逆の時だ」
「──今ここで、あんたの野望は打ち砕く。欠片も遺さずにね」
「──こッ、のォッ、疫病神どもがァァ……ッ!!」
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