「死んじゃった」
────妙な胸騒ぎがする……。
そう語るアジュラは、ジッと虚空を見つめていた。
その重厚な視線が見つめる先は、エルマ殿と、イブキ殿が向かった『リダウト王国』のある方向だ。偵察に向かわせている天狗から、現在、リダウト王国で何が起こっているのかは大体把握している。
『リダウト王』への謀反、そして、それを実行した『人族の代闘者』。
仮に、そのイザコザに巻き込まれてしまっていたとしたら……流石のエルマ殿でも、容易に解決するのは難しい筈だ。
だからこそ……感じてしまった。
妖域の巡回中に……本能的に、『嫌な感覚』を。
【伝心】を使って連絡を取るまでに踏み切れないのは……きっと、こんな恐ろしい『予感』が頭の中で渦巻き続けているからなのだろう。
────エルマ殿と、イブキ殿に、何かあったのではないか、と……。
その嫌な感覚を、アジュラへ伝えに本殿に戻ってくると、彼も神妙な面持ちで虚空を眺めるばかり。
本殿の中に、重苦しい空気が流れる。
頼むから、気のせいであってくれと、無言で祈っていた……その時だ。
『────』
「──ッ! エルマ殿……!?」
唐突にやって来た、【伝心】の気配。
それが何者かによる物なのかは分からなかったが、一縷の望みを込めて彼の名前を呼ぶと、アジュラも視線をこちらへ下ろしてくる。
「エルマ殿ッ、今どちらに……? 理由とか、そういうのは無いのですが、先程から何だか妙な胸騒ぎが……」
すると、向こう側から……このような言葉が飛んできたのだった。
『────俺、死んじゃったみたいなんだけど……どうすればいい?』
「………………なに?」
「────はァぁッ!?」
ド……ドドドドドド、ドウイウコト!?
『死んじゃった』って────要は『死んだ』ってこと!?
通話越しでは到底理解し切れない突発的な説明に、頭の中が一気にゴチャゴチャになってしまい……彼の現状を把握出来るようになるまで、しばしの時間が掛かってしまうのだった。
─※─※─※─※─※─※─※─※─※─
崩壊した教会の建物。
『英雄の力』で破壊され、幾多にも折り重なった瓦礫……仮に、それに巻き込まれた者が居たとしたら、もう既に手遅れ。
間違いなく瓦礫の下で即死していることだろう。
そんな瓦礫の山から、スーッと、すり抜けるように出てきたのは────俺、湊本エルマです。
(えっと……なんだ、コレ……?)
なんか、宙を浮いているし……なんか、全身が透けているし……なんか、物体をすり抜けられるし……。
興味本意で町の大通りへと赴き、道行く人の前に立ち塞がったり、その身体をすり抜けたり、耳元で大声を出したりしてみるが……まったく見向きもされないどころか、認識すらされていないようだ。
(非現実的だと思っていたけれど……俗に言う『幽霊』って、こんな感じなのかな……?)
【伝心】で聞いたアジュラの推測によると……恐らくは、『肉体』から離れ、『妖力』だけの状態になったからなのではないか……ということらしい。
本来ならば、『肉体』を失った『妖力』は、残ることなく自然に消滅してしまうもの。それでも、こうして『妖力』だけ残ったということは、湊本エルマを構成する『妖力』が異常なまでに『濃い』からなのかも知れない、とのことだ。
何にせよ、『死んだわけではない』。
それが分かっただけでも良しとしよう。
(それにしても……まんまとやられたな……)
ルコシャル……まさか彼女が、『ナビード』の一員だったとは……。
イミュテリエルの使っていたモノと同じ【呪術】で、【具念】を奪われたと思ったら……あとは、教会の下に生き埋めにされて、ご覧の様だ。
今思えば、彼女と出会った時……ナビードに関して語っていた時が、唯一無二、彼女の嘘を見抜く最初で最後のチャンスだった。それ以降、彼女が明確に口を滑らせたことは一度もなかった。その綿密な立ち回りたるや、見事なものだとしか言いようがない……完全に、してやられたって感じだ。
さて、これからどうすべきだろうか……。
イブキたちの待つ隠れ家へ向かうべきか……いいや、そもそもこんな状態では、彼女たちに認識すらされないかもしれない……だとしたら、どうすれば……。
そんなことを、宙で寝そべりながら考えていた、その時だ。
「────ここ、なにかいる」
突如聞こえてきた声の方を見下ろしてみれば、一人の幼い女の子が、真っ直ぐにこちらを指差していたのだ。
この子は確か、さっき宿屋の前で見掛けた……ウリカ、とかいう少女だっただろうか。
すると、彼女の隣に歩み寄ってきた見覚えのある老人が、目を細めて彼女の指差す方向を観察し始める。
「なにか? 私には何も見えないが……?」
「ううん、いるよ。あの、おとこのひと────『ようぞくのだいとうしゃ』」
(──なんですと……!?)
「うーむ……頼むから、あまり怖がらせないでおくれ。ほら、早いとこ向こうへ行こう」
マズイマズイマズイ。
ここで彼らを逃がしたら、本当にどうしようもなくなるかも知れない。
幼女がどこまで理性的な会話が出来るのかは定かではないが……本当にこちらを認知しているのだとしたら、現状を打破する手助けをしてくれる可能性もある。
ここは何としてでも、コンタクトを取っておきたいところだが……。
「……『まって』って、いっている」
「──お前は賢い子だ。しかし、嘘を付いてまで他人の気を引こうとするのは辞めておきなさい。いいかい? 世の中には嘘というモノが溢れていて……」
(凄く教訓になること話そうとしているところに申し訳ないんだけれど嘘じゃないんですよ、お父さん!?)
「……『うそじゃない』って、いっている」
「いい加減にしなさい。仮にお前の見えている者が、本当にそう言っているのならば……きっと、お前を誑かそうと考えているに違いない。そんな嘘つきで野蛮な存在の言うことなど、簡単に信じてはならないよ?」
(…………どうしよう。ちょっと殴りたくなってきた、この人……)
改めて理解した……『幽霊』って、不便過ぎる。
いずれにせよ……このままでは、本当に何も出来ない状態だ。
もしも、今この瞬間、何らかの形でイミュテリエルとルコシャルが動いてしまっていたとしたら────その先には、最悪の展開が待ち受けているかも知れない。
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──人の境界を越えたら、果たして戻ってこれるのか……それは、誰にも確かめようがありません。
何故なら、彼らは誰一人としてこちらへ戻って来ていないのですから──。
という、作者のしょうもない戯言でした!




