表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/72

 『十二番目の代弁者』



 持ち前の腕力を持ってして、どこからともなく『湧き出てくる』リダウト王国兵士を、次々に薙ぎ倒していく。


 もう二十人……いいや、三十人位は倒した。


 一人一人の強さはさほどでもない……それなのに、倒す度に兵士の数が増えていっているのは気のせいだろうか。


「はぁッ、はぁッ…………んぬぁぁぁああぁぁぁ……っ! ちょっと、ゾロゾロとクドイんだけどなぁぁぁ……っ!?」


 思わずそう吐き捨てると、ワレの直ぐ隣に立つ兵士が『イミュテリエルの声』で感心した様子で呟いた。


『──呆れた体力だな、まさか、ここまで粘るとは』

「この兵士たち、さぁ────【呪術】で操っているんでしょぉ……? さっきから、まったく同じ人間を殴り倒しているみたいで、薄気味悪いったらありゃしないよぉ……」


 すると、次は反対側の兵士が余裕綽々と武器を担ぎながら首を傾げる。


『──ほぉ? いっぱいいっぱいと思いきや、意外にまだ冷静じゃないか』

「それって……何人まで、同時に操れるのかなぁ?」

『お望みならば、もっと増やしてやろうか?』


 更に、正面に立つ兵士がニヤリとほくそ笑むと────なんと、先程までに殴り倒した兵士たちが、次々に起き上がり始めたのだ。


 中には、腕がへし折れたヤツや、首がねじ曲がったヤツでさえも、何の躊躇いもなく立ち上がってくる。


(……マジ、かぁ……)


 恐らく、この場にいる全ての兵士たちが、イミュテリエルの【呪術】によって『姿を奪われた』者たちであり……同時に、『イミュテリエルそのもの』なのだろう。


 どれだけ傷付けても、どれだけ倒しても、まるで消費しているように見えない、ということは…………やはり、『イミュテリエルの本体』を倒さない限り、この悪夢が終わることはないのかもしれない。


 だが……本体って、どれだ……?


 そもそも、この中に本体はいるのか……?


「あのさぁ、どうせだったらサシでやろうよぉ。ワレ、まだあなたの本当の姿を見たことないんだよねぇ……」

『……本当の姿? そんなもの、どうでもい────』

「────ッ!!」


 瞬間。


 考えるように呟いた兵士に向かって飛び出すと────その顔面を殴り、地面に叩き付ける。


 地面でひっくり返った兵士はそのまま動かなくなるが……直ぐに、ワレの真後ろに立つ兵士たちが、何も気にしていない様子で順々に呟き始めた。


 喋り始めたヤツが本物に成るのかと思ったが……やはり、そんな単純ではないか。


 これらが全て同一人物だと考えると……こんなにも薄気味悪い光景はない。


『人間というのは、九割方は何者でもない』

『ただ、飯を食って、糞をして、寝る……もしくは、戦場へ赴いて、敵と相討ちになって死ぬ……』

『それだけしか脳がない単純な生物だ』

『俺も、それと同じ……つまらなくて、退屈な存在でしかなかった』


(なに、これ……なんか、頭がおかしくなりそう……)


『──だが、今は違う』

『今の俺は、何者にでもなれる』

『兵士にでも、術者にでも、王にでも、支配者にでも────そして、英雄にでもだ……ッッ!!』


 それは、歓喜にも似た雄叫び。


 イミュテリエルがそう叫ぶと、彼の周囲に、一人、また一人と新しい人影が姿を現す。


 それは、あの時ニリアンの『隠れ家』で見た────『異端協会』の面々だった。


 そして、『人族の代闘者』まで……まさに、彼の手に入れた『願望』たちが、雁首を揃えて、ワレの前に立ち塞がってきたのだ。


 こうなれば、いよいよ戦力差は歴然。


 たった一人で挑むには、敵対する戦力も兵力も圧倒的過ぎる。


 だが。


「やる気出してきたところで悪いけれど……実は、もうあなたに付き合う必要はないんだよねぇ……」

「なに……?」


 そう、勝負自体は────既に、こちらが勝っている。


 セオドーラとギークはこの場から離脱し、今頃はニリアンの元へ逃げ込んでいるだろう。


 あとは、【妖術】を利用して彼の前から行方を眩ませれば……ワレの役割も、完了。


 時間稼ぎも、これで終わりだ。


 そう察して逃げ出そうとしたところで……。


「────そう言わずにもうちょい付き合えよ」

「………………え……?」



 ────思いもよらない人物の声が、秘境の中に響き渡った。



 秘境の入り口。


 そこに立っていたのは、先程エルマが後を追っていた筈の────ルコシャルだったのだ。


 彼女は、その両脇にセオドーラとギークを引き連れており……その場で二人を乱暴に押し倒してしまう。


「ぐァ……ッ」

「ぁう……ッ!」

『──遅かったじゃないか』

「ちょいと手間取っちまったもンでな。だが、これで『邪魔者』は全て排除して、必要な『駒』も手に入れた。充分だろ」


 ちょっと、待て……?


 これは一体、どういうことだ……?


 イミュテリエルとルコシャル……これではまるで────仲間内の会話のようではないか……?


「ルコ、シャル……? なん、で……どうなっているの……?」

「オイオイ。どうしたってンだ、鬼。あたしは────最初からお前らの味方だなンて言った覚えは無ぇよ?」

「じゃ、じゃあ……あなたは、一体……?」


 悪い予感が、ずっと頭の中を渦巻いている。


 だが、それを口にした途端に、これまで磐石に見えていた土台が、一気に崩れ落ちるような気がして……とてつもない恐怖心に苛まれながら、ルコシャルを見据える。


 すると。


 彼女は、一度小さく笑みを浮かべたと思ったら────途端に、一気に距離を詰めてきた。


 その拳を、力強く握り締めて……。


「──ッ!?」

「改めて、自己紹介しといてやンよ────あたしは『ナビード』……そして、『十二番目の代弁者』だ。よろしくな?」


 風を裂くように、振るわれた鋭い拳。


 それを両腕を交差させて防御を試みるが────直撃の瞬間、恐ろしい『重み』が襲い掛かってきた。


 まるで、巨木で殴り付けられたような強烈な衝撃だ。


「ぐッッ、ぁ──ッッ!?」



 ────腕が、へし折れる。



 本能的に直感したと共に、思わず、全身全霊で後ろへと飛び跳ねる。


 その勢いを自分でも制御し切れず、ワレは、地面に叩き付けられるように転倒。


 全身が土まみれになりながらも、辛うじて身体を起こすが……今の衝撃で、両腕の感覚を持っていかれた。折れた、わけではなさそうだが……これではしばらくの間、マトモに動かすことは出来なさそうだ。


「ぁッ……ァ…………ゥ、あ……ッ?」

「チッ、惜しい。モロに入りゃぁ、今ので────両腕もっていけたンだがよぉ?」

『──ほぉ? その様子では、どうやら『成功』したみたいだな?』


 そして、何より……この常軌を逸した『腕力』……腕を伝わって全身に響き渡る『気配』……。


 ────覚えが、ある。


 これまで、何度もその『力』を目の当たりにしてきたのだから。


 一番近い所で、何度もその『強さ』に守られてきたのだから。


 もはや、見まごう筈もない。


 今、ルコシャルが扱っていた【力】は……。


「この、感じ……なん、で……なんで、あなたが────英雄さんの、【具念】を……ッ!?」


 それは……。


 妖族の代闘者……湊本エルマ……彼の扱う具念……。



 ────【蓄積】と全く同じ気配だったのだ。



 彼だけ……『異世界の英雄』だけしか使えない、特別な力……。


 それを、何故ルコシャルが我が物顔で使っている……?


「『何故』? そんなことも、言ってやらねぇと分からねぇか?」

「な、に……?」


 そこで、ルコシャルは一層深い笑みを見せ付けると……ワレとの間に、ボロボロになった一枚の『布地』を放り投げた。


 布地────服────何処かで、見たことが────確か、誰かが着ているのを────。



 ────ま、まさか……ッ。



 その時、ワレは『事の顛末』を察し、大きく目を見開いてルコシャルを見上げる。


 彼女は……これまで見たこともない、悪魔のような笑みを浮かべていた。



「────残念だったな。もう、『あいつ』は何処にも居ねぇよ」



 次の瞬間。


 ワレは、地面を割る程の勢いで蹴り上げ……ルコシャルを狙って、拳を突き出していた。


 一方、彼女は一切動揺する気配もなく、自身の腕でそれを防いでみせる。


 両者の衝突で、周囲から花弁が吹き上がる。


 舞い落ちる花の雨の中で、遂に、ワレは感情を剥き出しにして叫んだ。


「……にを、した……」

「ア?」


 同じ妖族として、一時は共に楽しい時間を過ごした仲間だからこそ……許しがたい裏切り。


 理性が吹き飛ぶ程のどす黒い感情が全身から溢れ出し、憤怒と殺意だけで、ルコシャルを圧迫しようとしていた。



 ────コロしてやる、と。



「────エルマにッッ、何をしたッッ!!?」


 その気迫に押されたか、少しの間無言になるルコシャルだったが……やがて、何かを『察した』様子で不敵な笑みを浮かべて見せる。


「──ようやく『らしく』なってきたじゃねぇか、古地伊吹鬼。だが、よぉ……」

「……ゥ……ッ!?」

「────お前ごときで、『英雄』の力に敵うと思ってンのか?」


 仕掛けたのは、こちらなのに……。


 衝突の瞬間、力で勝っていたのはこちらなのに……。


 鬼の腕力が、ルコシャルの細腕に、徐々に『押し戻されていた』。


 むしろ、こちらが堪え切れなくなり……。



 ────完全に押し返される。



 直後。


 ルコシャルは、目にも止まらない動作で隣に立つ。


 そして、ワレの髪を鷲掴みにして……ワレの腹に、容赦のない膝蹴りを叩き込んできた。


「ごッッ、は……ッ!?」


 途端、視界が大きくブレ動き、胃の中の物が一気に逆流。


 口から血の混じった唾液が吐き出され、ワレは立っていることすらままならなくなり……そのまま、地面に叩き付けられてしまった。


 ボヤける視界の中で……イミュテリエルに連れ去られようとしているセオドーラとギークの姿……そして、ワレの顔面を踏み潰そうとするルコシャルの姿が見える……。

 

「──待て待て、その辺にしておけ」

「あン? ンだよ? 今殺しとかねぇと、後になって絶対に面倒臭いことになンぞ?」

「この鬼は生かしておくように、という『盟主』の命令だ。あの王族と共に連れていく」

「……チッ、好きにしろよ」

「まっ、て……ッ…………ルコ、シャル……ッ」


 そう言って早々に立ち去るルコシャルへと、必死に声を掛けようとする。


 だがその前に、目の前にイミュテリエルが立ち塞がると、ニヤリと笑い……ワレに向かって、思いっきり足を振り上げた。



 そして────衝撃。



 同時に、顔面に凄まじい激痛が走り……ワレの視界は、一瞬で真っ黒に暗転するのだった。


(…………エ、ル…………マ…………)









この作品に目を通して頂き、ありがとうございます!


もしも、少しでもこの作品が「面白かった」「続きが気になる」と思われましたら、


ブックマークや、広告下の『☆☆☆☆☆』をタップもしくはクリックして、続話をお待ちください!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ