『十二番目の代弁者』
持ち前の腕力を持ってして、どこからともなく『湧き出てくる』リダウト王国兵士を、次々に薙ぎ倒していく。
もう二十人……いいや、三十人位は倒した。
一人一人の強さはさほどでもない……それなのに、倒す度に兵士の数が増えていっているのは気のせいだろうか。
「はぁッ、はぁッ…………んぬぁぁぁああぁぁぁ……っ! ちょっと、ゾロゾロとクドイんだけどなぁぁぁ……っ!?」
思わずそう吐き捨てると、ワレの直ぐ隣に立つ兵士が『イミュテリエルの声』で感心した様子で呟いた。
『──呆れた体力だな、まさか、ここまで粘るとは』
「この兵士たち、さぁ────【呪術】で操っているんでしょぉ……? さっきから、まったく同じ人間を殴り倒しているみたいで、薄気味悪いったらありゃしないよぉ……」
すると、次は反対側の兵士が余裕綽々と武器を担ぎながら首を傾げる。
『──ほぉ? いっぱいいっぱいと思いきや、意外にまだ冷静じゃないか』
「それって……何人まで、同時に操れるのかなぁ?」
『お望みならば、もっと増やしてやろうか?』
更に、正面に立つ兵士がニヤリとほくそ笑むと────なんと、先程までに殴り倒した兵士たちが、次々に起き上がり始めたのだ。
中には、腕がへし折れたヤツや、首がねじ曲がったヤツでさえも、何の躊躇いもなく立ち上がってくる。
(……マジ、かぁ……)
恐らく、この場にいる全ての兵士たちが、イミュテリエルの【呪術】によって『姿を奪われた』者たちであり……同時に、『イミュテリエルそのもの』なのだろう。
どれだけ傷付けても、どれだけ倒しても、まるで消費しているように見えない、ということは…………やはり、『イミュテリエルの本体』を倒さない限り、この悪夢が終わることはないのかもしれない。
だが……本体って、どれだ……?
そもそも、この中に本体はいるのか……?
「あのさぁ、どうせだったらサシでやろうよぉ。ワレ、まだあなたの本当の姿を見たことないんだよねぇ……」
『……本当の姿? そんなもの、どうでもい────』
「────ッ!!」
瞬間。
考えるように呟いた兵士に向かって飛び出すと────その顔面を殴り、地面に叩き付ける。
地面でひっくり返った兵士はそのまま動かなくなるが……直ぐに、ワレの真後ろに立つ兵士たちが、何も気にしていない様子で順々に呟き始めた。
喋り始めたヤツが本物に成るのかと思ったが……やはり、そんな単純ではないか。
これらが全て同一人物だと考えると……こんなにも薄気味悪い光景はない。
『人間というのは、九割方は何者でもない』
『ただ、飯を食って、糞をして、寝る……もしくは、戦場へ赴いて、敵と相討ちになって死ぬ……』
『それだけしか脳がない単純な生物だ』
『俺も、それと同じ……つまらなくて、退屈な存在でしかなかった』
(なに、これ……なんか、頭がおかしくなりそう……)
『──だが、今は違う』
『今の俺は、何者にでもなれる』
『兵士にでも、術者にでも、王にでも、支配者にでも────そして、英雄にでもだ……ッッ!!』
それは、歓喜にも似た雄叫び。
イミュテリエルがそう叫ぶと、彼の周囲に、一人、また一人と新しい人影が姿を現す。
それは、あの時ニリアンの『隠れ家』で見た────『異端協会』の面々だった。
そして、『人族の代闘者』まで……まさに、彼の手に入れた『願望』たちが、雁首を揃えて、ワレの前に立ち塞がってきたのだ。
こうなれば、いよいよ戦力差は歴然。
たった一人で挑むには、敵対する戦力も兵力も圧倒的過ぎる。
だが。
「やる気出してきたところで悪いけれど……実は、もうあなたに付き合う必要はないんだよねぇ……」
「なに……?」
そう、勝負自体は────既に、こちらが勝っている。
セオドーラとギークはこの場から離脱し、今頃はニリアンの元へ逃げ込んでいるだろう。
あとは、【妖術】を利用して彼の前から行方を眩ませれば……ワレの役割も、完了。
時間稼ぎも、これで終わりだ。
そう察して逃げ出そうとしたところで……。
「────そう言わずにもうちょい付き合えよ」
「………………え……?」
────思いもよらない人物の声が、秘境の中に響き渡った。
秘境の入り口。
そこに立っていたのは、先程エルマが後を追っていた筈の────ルコシャルだったのだ。
彼女は、その両脇にセオドーラとギークを引き連れており……その場で二人を乱暴に押し倒してしまう。
「ぐァ……ッ」
「ぁう……ッ!」
『──遅かったじゃないか』
「ちょいと手間取っちまったもンでな。だが、これで『邪魔者』は全て排除して、必要な『駒』も手に入れた。充分だろ」
ちょっと、待て……?
これは一体、どういうことだ……?
イミュテリエルとルコシャル……これではまるで────仲間内の会話のようではないか……?
「ルコ、シャル……? なん、で……どうなっているの……?」
「オイオイ。どうしたってンだ、鬼。あたしは────最初からお前らの味方だなンて言った覚えは無ぇよ?」
「じゃ、じゃあ……あなたは、一体……?」
悪い予感が、ずっと頭の中を渦巻いている。
だが、それを口にした途端に、これまで磐石に見えていた土台が、一気に崩れ落ちるような気がして……とてつもない恐怖心に苛まれながら、ルコシャルを見据える。
すると。
彼女は、一度小さく笑みを浮かべたと思ったら────途端に、一気に距離を詰めてきた。
その拳を、力強く握り締めて……。
「──ッ!?」
「改めて、自己紹介しといてやンよ────あたしは『ナビード』……そして、『十二番目の代弁者』だ。よろしくな?」
風を裂くように、振るわれた鋭い拳。
それを両腕を交差させて防御を試みるが────直撃の瞬間、恐ろしい『重み』が襲い掛かってきた。
まるで、巨木で殴り付けられたような強烈な衝撃だ。
「ぐッッ、ぁ──ッッ!?」
────腕が、へし折れる。
本能的に直感したと共に、思わず、全身全霊で後ろへと飛び跳ねる。
その勢いを自分でも制御し切れず、ワレは、地面に叩き付けられるように転倒。
全身が土まみれになりながらも、辛うじて身体を起こすが……今の衝撃で、両腕の感覚を持っていかれた。折れた、わけではなさそうだが……これではしばらくの間、マトモに動かすことは出来なさそうだ。
「ぁッ……ァ…………ゥ、あ……ッ?」
「チッ、惜しい。モロに入りゃぁ、今ので────両腕もっていけたンだがよぉ?」
『──ほぉ? その様子では、どうやら『成功』したみたいだな?』
そして、何より……この常軌を逸した『腕力』……腕を伝わって全身に響き渡る『気配』……。
────覚えが、ある。
これまで、何度もその『力』を目の当たりにしてきたのだから。
一番近い所で、何度もその『強さ』に守られてきたのだから。
もはや、見まごう筈もない。
今、ルコシャルが扱っていた【力】は……。
「この、感じ……なん、で……なんで、あなたが────英雄さんの、【具念】を……ッ!?」
それは……。
妖族の代闘者……湊本エルマ……彼の扱う具念……。
────【蓄積】と全く同じ気配だったのだ。
彼だけ……『異世界の英雄』だけしか使えない、特別な力……。
それを、何故ルコシャルが我が物顔で使っている……?
「『何故』? そんなことも、言ってやらねぇと分からねぇか?」
「な、に……?」
そこで、ルコシャルは一層深い笑みを見せ付けると……ワレとの間に、ボロボロになった一枚の『布地』を放り投げた。
布地────服────何処かで、見たことが────確か、誰かが着ているのを────。
────ま、まさか……ッ。
その時、ワレは『事の顛末』を察し、大きく目を見開いてルコシャルを見上げる。
彼女は……これまで見たこともない、悪魔のような笑みを浮かべていた。
「────残念だったな。もう、『あいつ』は何処にも居ねぇよ」
次の瞬間。
ワレは、地面を割る程の勢いで蹴り上げ……ルコシャルを狙って、拳を突き出していた。
一方、彼女は一切動揺する気配もなく、自身の腕でそれを防いでみせる。
両者の衝突で、周囲から花弁が吹き上がる。
舞い落ちる花の雨の中で、遂に、ワレは感情を剥き出しにして叫んだ。
「……にを、した……」
「ア?」
同じ妖族として、一時は共に楽しい時間を過ごした仲間だからこそ……許しがたい裏切り。
理性が吹き飛ぶ程のどす黒い感情が全身から溢れ出し、憤怒と殺意だけで、ルコシャルを圧迫しようとしていた。
────コロしてやる、と。
「────エルマにッッ、何をしたッッ!!?」
その気迫に押されたか、少しの間無言になるルコシャルだったが……やがて、何かを『察した』様子で不敵な笑みを浮かべて見せる。
「──ようやく『らしく』なってきたじゃねぇか、古地伊吹鬼。だが、よぉ……」
「……ゥ……ッ!?」
「────お前ごときで、『英雄』の力に敵うと思ってンのか?」
仕掛けたのは、こちらなのに……。
衝突の瞬間、力で勝っていたのはこちらなのに……。
鬼の腕力が、ルコシャルの細腕に、徐々に『押し戻されていた』。
むしろ、こちらが堪え切れなくなり……。
────完全に押し返される。
直後。
ルコシャルは、目にも止まらない動作で隣に立つ。
そして、ワレの髪を鷲掴みにして……ワレの腹に、容赦のない膝蹴りを叩き込んできた。
「ごッッ、は……ッ!?」
途端、視界が大きくブレ動き、胃の中の物が一気に逆流。
口から血の混じった唾液が吐き出され、ワレは立っていることすらままならなくなり……そのまま、地面に叩き付けられてしまった。
ボヤける視界の中で……イミュテリエルに連れ去られようとしているセオドーラとギークの姿……そして、ワレの顔面を踏み潰そうとするルコシャルの姿が見える……。
「──待て待て、その辺にしておけ」
「あン? ンだよ? 今殺しとかねぇと、後になって絶対に面倒臭いことになンぞ?」
「この鬼は生かしておくように、という『盟主』の命令だ。あの王族と共に連れていく」
「……チッ、好きにしろよ」
「まっ、て……ッ…………ルコ、シャル……ッ」
そう言って早々に立ち去るルコシャルへと、必死に声を掛けようとする。
だがその前に、目の前にイミュテリエルが立ち塞がると、ニヤリと笑い……ワレに向かって、思いっきり足を振り上げた。
そして────衝撃。
同時に、顔面に凄まじい激痛が走り……ワレの視界は、一瞬で真っ黒に暗転するのだった。
(…………エ、ル…………マ…………)
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