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《 period 2 - 3 》 妖族流・距離の縮め方



 ニリアンの隠れ家から脱出した後。


 俺たちは一旦宿に戻り、負傷したニリアンをベッドに寝かせた。


 そこに、ガウス様が【魔術】による結界を新しく張ってくれたので、あの偽物とはいえども、今しばらくは見つかることはないだろう、とのことだ。

 

「──今回は助けてくれてありがとうねぇ、魔王さん」


 その翌日。


 やることを終えたミオとガウスを、俺とイブキは宿屋の表で見送っていた。


「勘違いするでないわっ! いいか、助けた訳ではない。あのナビードの思い通りに事が進むのが気に食わなかった。ただそれだけなのだ」

「一時は、そのナビードと手を組んで、妖族を襲ったのに?」

「む……それ、は……」


 イブキが小さい笑みを浮かべてガウスを見据えると、彼はたじろいだ様子を見せてから目を逸らす。


 あの時の戦いで、イブキは母親を失った。


 魔族の面々はそこに便乗した形とはいえ、『仇』の一端を担っていたといっても過言ではない。本当ならば、怒りに任せて飛び掛かっていってもおかしくはない筈だ。


 しかし。


 イブキは、無闇に怒り狂うことはなかった。


 ガウスも、勢い任せに謝罪することはなかった。


「そういうの抜きにして、話がしたくなったら、さ……また、いつでも遊びに来てよ。その時は、お団子を用意して待っているからさぁ」

「……ど、毒殺でもするつもりか……?」

「あぁ~、その方が効率はいいかもねぇ」

「その話を聞いて、一体どんな気分で尋ねればいいと言うのだ……?」

「どうなるかは自己責任ってことでぇ、ふふっ」

「なんというか……強い女だな、貴様は。流石は鬼、と言うべきか?」

「素直に誉め言葉として受け取っておくねぇ」

「……ふんっ」


 イブキが無意味な揉め事を好まない人物であることは分かっていたが……案外、ガウスの方もあんな幼い成りをしておいて、しっかりと節度を弁えた人物らしい。


 自分の立場、責任を理解した上で、敵種族との適切な距離感を保って会話をしている。


 それでも、イブキからの誘いを断り切れないのは……ガウスの中に、どうしても捨て切れない良心があるからなのかも知れない。


 そんな二人の不思議な語り合いを遠目で眺めていると、俺の前に立つミオが、唐突にこう尋ねてきた。


「──エルマさまも、わたしのことを責め立てなくていいんですか?」

「必要ないだろ、そんなもの」

「そうですか? 妖族の皆さまと同じ様に、わたしのことを恨んだり怒ったりするのが普通だと思いますけれど」

「俺たちは、代闘者。自分たちの種族を勝たせる為に存在する、戦争の手段そのものだ。なら、闘いに勝つために動くのは、至極当然のこと。恨みだとか、怒りだとか……そんなものをいつまでも引きずっていたところで、虚しいだけだ」

「それじゃあ、仮に仲良くしたいって言ったらどうします?」

「別に構わない。ただ、また俺たちの領域に手を出してきたら────その時は、容赦しないがな」

「それは良かったです。わたし、エルマさまとはこれからも末永く仲良くしたいって思っているんですよ────敵としても、友としても、ね」


 この代闘者は、本当に……。


 どうしても、底知れない恐ろしさを感じさせてくれる人物だ……イブキとガウスの関係性が可愛く見えてしまう程に。


 俺は溜め息混じりに、「今後が楽しみだな」とだけ返すと、ミオはまた嬉しそうに微笑んだ。


「それで? これから、どうするつもりだ?」

「あのイミュテリエルさまのことですが……名前から察するに、元は『天族』のお人でしょう」

「『天族』……と、いうことは……」

「はい。天族の代闘者、ラゥ・コードさまが何らかの形で介入してくるかも知れません。イミュテリエルさまが、事を起こす前か、事を起こした後か……それは、定かではありませんけれどね」

「事を起こした後だとしたら……その時、リダウト王国はどうなっているんだろうな?」

「えぇ。なので、これからわたしたちは事の経緯を見守ることにします。イミュテリエルさまが何をするつもりなのか……ラゥ・コードさまがどう対応するつもりなのか……そして、エルマさまも……」

「──!」

「くすっ。実に、じつに……愉しみ、タノシミですねぇ」


 そんな狂喜染みた笑みを残して、ミオとガウスはこの場から立ち去っていった。


 少なくとも、『魔族』の二人は事変から身を引くようだが……その代わりに、『天族』という新たなキーワードが姿を現した。


 本当ならば、ここでミオたちと同じ様に戦線から退くのが、一番妥当な判断になるのだろう。


 しかし……俺たちは既に、今回の事変に関わりを持ってしまった。


「英雄さん。ニリアンの様子、見に行こ?」

「そうだな」


 恐らく、終結の時はそんなに遠い話ではない。


 その時に、俺たちはどんな立場で居るべきなのか……早い段階で、その結論を出さなくてはならないだろう。


 そんなことを考えながら、イブキと共に宿屋の自室の前に戻ってきた……その時だ。


「────きゃぁぁぁぁッッ!!」

「──!」

「なに……ッ!?」


 部屋の中から、セオドーラの悲鳴が響き渡ってきて……俺とイブキは、入り口の扉をぶち破る勢いで中に突撃する。


 そこで目の当たりにしたのは……。


 ベッドに横たわらせたセオドーラの上に馬乗りになって、いつぞやの甘い声色で責め立てるルコシャルの姿だった。


「あらまぁ、そんなきれいな悲鳴を上げちゃって────カ・ワ・イ・イ。お腹一杯になるまで、食べちゃおっかなぁ~っ」

「ひゃぁぁぁぁッ……あ、あのあのあのッ、急にッ、そんなッ、わたくし……ッ!」

「うふふっ。狼狽えている姿もイイよねぇ~。そんな反応されたら、ルコ、ますます興奮しちゃぅ~!」

「ぁ……ッ……ま、待って、下さいッ……そんなとこ……っ」

「──オイ、妖族……あんた、セオに手ぇ出したらただじゃ済まさないわよ……?」


 すかさず、ベッドに横になっているニリアンが、強い口調で威嚇。


 しかし、ルコシャルは余裕綽々といった様子で、セオドーラをニリアンの隣にくっつけると、二人の股下に足を差し入れ、両方に手を出し始めた。


 『何』をしているかって?


 それは、ご想像にお任せします。


「おやぁ、おやおやおやおやぁ? 『マトモに身体動かせない』くせに、そんな偉そうな口をきいちゃっていいのかなぁ?」

「……ッ……やめ……ッ」

「そんな身体だと、自分を慰めることすら出来ないでしょぉ? だから、むしろ感謝して欲しいなぁ~────これから、気の遠くなる程に気持ちよくしてあげるんだからさぁ~?」

「ニ、リアン…………ぁ……ッ」

「く、そ…………んぅ……ッ!」

「うふふっ。二人揃って、カ・ワ・イ・イ」 


 うわぁ……禁断の花園だぁ……。


 女子同士のヤリ取りを前に、思わず呆れ果てて、頭が真っ白になるところだったが……辛うじて正気を保つと、ルコシャルの頭の上にチョップを振り下ろす。


「──いや、何やってんだ」

「──おぶふぅぅッ!!?」


 ズビシィッ、と脳天にクリーンヒット。


 ルコシャルは頭を両手で押さえ、プルプルと震えながら俺へと怒りの矛先を向けてきた。


「──いッッきなり何すンだ英雄ッ! ド頭カチ割るつもりかぁッッ!?」

「いっそ一回カチ割った方がいいんじゃないのか」

「ッッンだとてめぇッ!? 折角、二人まとめて懐柔してやろうとしたってのによぉッ!」

「そんなやり方で手懐けようとするお前が怖いよ」

「ふ、二人ともぉ、大丈夫ぅ? 懐柔させられてなぁい?」

「────妖族、マジ許サン……ッ」

「ふぇぇぇ……」

(親交深めるどころか、むしろ悪印象与えちゃってんですけどーーーーっ)


 バッチバチに対立している訳ではないから、まだマシだと考えるべきなのだろうか。


 ひとまず、ルコシャルを人族の二人から引き離し、改めて彼女たちの話に耳を傾けるのだった。







─※─※─※─※─※─※─※─※─







 歴史に名を連ねる者たちを祀る『遺物』は、世界各地に数多く存在しているが……その多くが、歴史人の名を騙っただけの偽物である場合が殆どだ。


 数多くの贋作の中に、本物の遺物はほんの一部。


 素人が血眼になって探索したとしても、それを見つけ出すことは不可能に近い。それほどまでに、この世界の遺物は希少な意味合いを持つと言えるだろう。


 そして。


 ここ、リダウト王国には、とある『三神』を祀る遺物が存在している。



「──条件は、全て揃った」



 ログマリット宮殿の奥部。


 リダウト王国創立時代から現代までの、膨大な歴史書が保管された書庫があり、リダウト王家の人間しか立ち入ることは許可されていない。


 そんな重要な施設に、人族の代闘者に扮するイミュテリエルは居た。


 『異端協会』の面々と魔女を円になるように立たせ、その中心には、書庫に保管されていた遺物……『転界てんかいはい』という大量の灰が詰まった大壺を配置していた。


「【妖力】、【仙力】、【天力】、【深力】……そして、【魔力】。『人族』という適応性の高い素体に適合した、【五つの力】……これぞ、まさしく────『世界の全て』を手に入れたと言っても過言ではない」


 そう呟きながら、遺物を取り囲む彼らはそれに手をかざして意識を集中。


 すると、大壺の外見に、青白く光り輝く幾何学模様が浮かび上がり……まるで、何かが『生まれようとしている』かのように、小刻みに震え始めた。


「そして、そこに【呪術】が合わされば……全てが、我らの思うがままだ。さぁ、今こそ、その偉大なる姿を現すがいい────『世界を切り開いた者たち』よ……ッッ!」


 イミュテリエルが大きく手を振り上げ、ビシィッと亀裂が走った音が響いた……次の瞬間。



 ────大壺は、爆発するように粉砕。


 

 大壺の破片が飛び散ると共に、中に納められていた灰が勢い良く舞い上がり、周囲の景色が濃霧に包まれたように覆い隠される。


 すると。


 右も左も分からなくなる位に、灰が充満した空間の中で────巨大な影が蠢き始めたのだ。


「人族の代闘者よ……お前の【力】は、使い方すらロクに分からない出来損ないだったが────『こいつら』は違う。まさに、本物の『伝説』、本物の『絶対』と、そう呼ぶに相応しい存在…………あぁ、なんという……素晴らしい光景だ……」


 イミュテリエルは、その巨大な影を崇めるように両手を広げて、感極まった様子で声を漏らす。


 この瞬間、未来は決した。


 もはや、代闘者など目じゃない。


 そう断言出来るだけの圧倒的なまでの『力』が、今、イミュテリエルの前に降臨したのだから。


「さぁ、今こそ反逆の時だ。『代闘者』……異世界からやって来た侵略者たちに、我らの力を見せ付け────この世界を、取り戻してみせよう」


 









この作品に目を通して頂き、ありがとうございます!


もしも、少しでもこの作品が「面白かった」「続きが気になる」と思ったら、


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彼女は特殊な訓練を受けています。


皆さんは、他人に過度なスキンシップを取るのは辞めましょう。


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