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 悪童に御用心



「──そうやってお前らは、また『裏切る』のか?」

「うん?」


 何やら、怒りを滲み出したような表情を見せるリダウト王は、鋭い目付きでこちらを睨み付けていた。


「お前らは『英雄』だろうが……ッ! 召喚主である我らの命令に従うのが使命だろうが……ッ! それを勝手に放棄した挙げ句、王たる我の命を蔑ろにするとはッ……その所業、決して赦されることでは無いぞッッ!!」

「別に赦して貰わなくても構わない。王だろうが何だろうが、人族の奴に命令される筋合いは無いからな」

「──我は王だぞ。我の身に危機が及ぶことは、即ち人族の……いいや、世界の損害だッ! そんなことがッ、起こって良い筈がないだろうッ!!」


 危機が及ぶ……?


 今までの話から整理するに────リダウト王は、『人族の代闘者』から命を狙われている……と、いうことなのだろうか。


 最初はてっきり、リダウト王とオームは協力関係にあると思っていたんだが……どうやら、事はそう単純ではないらしい。


 密かにそんなことを考えていた時。


 俺の後ろで拘束されているルコシャルが、静かに口を開いた。


「────さっきから黙って聞いてりゃ……てめぇ、自分がどンだけ都合良いこと言ってンのか、理解してンかよ……?」

「──おい、女。お前こそ、誰に口を利いているのか分かっているのか?」

「──黙れよ。てめぇは、王の立場でありながら、自国の民を苦しませ続けている。それに────全盛期の『異端協会』のメンバーを皆殺しにしたのも、てめぇだろ?」

(『異端協会』……?)

「お前……何故、そのことを……?」

「そうやって他者を陥れ続けてきた奴が、自らの身が危うくなれば、『助けさせてやる』だぁ? 図に乗ってんじゃねぇよ────死に晒せや、クソ野郎が」

「…………どうやら、生かしといてはならない愚か者が居たようだ────オイ、殺せ」


 リダウト王がそう命令を飛ばすと……ルコシャルを拘束する兵士が短剣を取り出し、彼女の後ろから狙いを定める。


 しかし。



「────やってみやがれよ」



 何処か嘲笑染みた言葉を発してから、ルコシャルはニヤリと笑うと……その右肘が、有り得ない曲がり方をして、背後の兵士の顎を弾き飛ばした。


「おご……ッ!?」

「な……っ!?」


 自由の身となったルコシャルは、その場で拳を振り絞って、前に突き出す。

 


 すると────突き出された腕が『伸長』。



 凄まじい速度で伸びていく腕は、離れた位置に立つリダウト王の取り巻きを殴り倒し、ゴムのように弾き返りながら────リダウト王の顔面を、思い切り殴り付けた。


「──ぶべぇッ!!?」

(腕が伸びた……!?)


 まるで、ゴム人間のようだ。


 リダウト王が地面に叩き付けられると、ルコシャルの伸び切った腕は、バチィッと音を立てながら元の形に戻る。


 そして、素早く彼の元に駆け出し、その胸ぐらを掴み上げると……鬼と呼ぶにも生温いような、恐ろしい形相で脅し立てた。


「あたしはなぁ……てめぇみたいに、自分の手を汚さずに後ろでふんぞり返っているだけの悪人は────大ッッ嫌いなンだよ……」

「おッ、まえぇ……ッ!! 今ッ、誰に手を出したのか分かって……ッ!?」

「心配すンな。てめぇだけじゃねぇ……どんな理由があろうが、どんな過去を抱えていようが……この世に蔓延る全てのクソみてぇな悪人は────この手で、皆殺しにしてやる」

「……ッ……!?」


 それは、まさに殺意の権化。


 リダウト王のことを、今ここで殺してやる……そんな強い殺意が、こちらまでヒシヒシと伝わってくる。


 そのあまりにも度を越えた気迫を前に、先程までは偉そうにしていたリダウト王も、思わず口をつぐんでしまう程だ。


 何やら悪い予感を察知した俺は……。



「──落ち着け。凄い顔しているぞ」



 荒ぶる獣を鎮めるように。


 ルコシャルの背後から、素早くその首元に腕を回して拘束すると、簡単に身動きを取れないようにしてから声を掛ける。


「離せよ、英雄。これは、この世界の問題だ……部外者は引っ込ンでろ」

「お前の嫌う悪人と、同じ悪人になったとしてもか?」

「──人類ってのは産まれながら皆悪人だ。それが薄れるか、濃くなるか……ただそれだけの違いだろうがよ?」

「最初から善人なんて居ない、か……」


 何となく、分かってきた。


 ルコシャルは……良くも悪くも、その思考は既に極限まで『吹っ切れている』。


 最早、「殺すことは良くない」、なんて安直な説得は意味を成さないだろう。


 脅しだとか、ハッタリとかでは済まない。



 きっとこいつは、『殺す』と決めたら────誰に止められても、確実に『実行』するタイプだ。



 今、この瞬間も、そうだろう。


 俺が一瞬でも手を抜いたら、その瞬間……彼女は、リダウト王を殺害してしまう。


「後悔、させてやるッ……」

「あァ?」

「この王たる我に楯突いたことッ……必ずッ、後悔させてやるッ……この世界ではッ、我が絶対なのだッ……我だけがッ、正しければそれでいいのだ……ッ! クソッ、クソッ、このクソ格下どもがぁぁぁぁッ!!」


 そう吐き捨てて、リダウト王は足をもつらせながら、その場から走り去っていってしまった。


 国王でありながら、無様な逃げっぷりを披露してしまった彼を見て、堪忍袋の緒が切れたか……ルコシャルが、俺の腕を無理矢理『振りほどいて』走り出した。


「──待ちやがれ、てめぇ……ッ!!」

「……!」


 今の感覚……手加減していたとはいえ、俺の【具念】を力ずくで振りほどくとは……。


 唖然と、その鬼気迫った後ろ姿を眺めていたが────ふと、視界の上端から、人影が落下していることに気付いた。



「────ひゃぅうううわぁぁぁぁぁぁッ!!?」



 しかも、よりにもよって……ルコシャルの真上。


 甲高い悲鳴を発しながら落ちてきた人影は、そのままルコシャルの頭の上から、真っ直ぐに落下。


「──ぶへぇッ!?」

「──どわぁッ!?」

「あらぁ……」


 ジャストタイミング。


 あまりにも当然の出来事に、ルコシャルはその人影に思い切り押し潰されてしまった。


 ルコシャルはまだしも、落ちてきた人物は大丈夫だろうか……なんていう心配は、その人物の正体を目にして、直ぐに杞憂だったと理解することになる。


「いたたぁぁ……」

「何すんだよ誰だよオイぃッ!?」

「──お前、イブキか? 何で空から落ちてきたんだ……?」










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